魔法使いの誕生①
人族と魔族の世界には3体の天使がいる。
こちらの世界では天使は自然発生しない。たまにこちらに来る者もいるが人を見下す天使はいずれかえってしまう。パパは落ちこぼれ天使だった。帰ろうとして失敗した。大魔境、黄泉の国の試練に失敗し帰れなくなった。珍しく人族と友好的で進んでこちらに残った他の2体とは違う。黄泉の国の試練は本来生きるか死ぬか、人族や魔族では歴史上でも珍しい、2次魔法到達者は天使では一般的だ。そのおかげで本来は死ぬはずだった試練から生き延びたが帰れなかったのだ。その探検でママは死んだ。
私は天使と人族のハーフだ。成長はするが子供の姿で生まれ、生まれながらの魔法使い。
「師匠」私は魔法を見せる。天使では落ちこぼれの師匠も人である私の魔法などききはしない。
天使と人のハーフは細かな差異はあれどベースは人になる。師匠は私の魔法をつかむ。人知をはるかに超えている。魔法は2次魔法に近づくほど、存在があいまいになる。火の玉燃える岩石を捕まえる。冷気はそれによりできた氷をつかめる。では精霊はどうか、妖精はどうか天使と同じように2次魔法者しかいないとされる妖精の一角いたずら妖精のゴブリンは人々を困らせるいたずらをするが触ろうとしてもすり抜けたり、そもそも見えなかったりして退治することは非常に難しい。
力は強く、人に対してより大きな被害をもたらすが2.5次魔法であるドラゴンは退治する子事ができる。いたずらはするが大きな被害は出さないが2次魔法であるゴブリンは退治することができない。ゴブリンとドラゴンの例えといわれる話が有名だ。パパは「いてて」としか言わない。強くなったねと私の頭をなでる。
「魔法をつかむからだよ」といって笑う。パパも笑っている。
師匠は私に魔術をよく仕込む。ママが死んで数か月は私はひどい落ち込み方をしていた、探検に連れて行ったパパにひどい言葉も投げつけた。そんな私を立ち直らせ。そこから本格的な修行が始まった。
何かに焦っているようだった。学校にも行かず師匠の修行を受けた私はおそらく人族ではかなり優秀な魔法使いとなった。
かつての大勇者エリーにさえ勝っているのではと思っている。大魔境を突破できなかったパパにさえ勝てないからそんなわけはないのだが、同世代ではかなう者のない魔法使いだろう。
父はある晩私を呼ぶ「ミザエル、君に話さなければならないことがある。」
大切な話だという事は分かる。私は耳を傾ける。大切な話はいつも悲しい話だ。
「なぁに?」
天使の父に呼ばれた私は答える。
天使であるため人族のように家を持たない。天使の世界の天使は家を持つそうだが、こちらの世界であまり目立つようなことはしたくないのだ。私が学校に通は無いのはそのことも関係している。パパは私の頭に手を置く。
「パパはもう、死んでいるんだ。黄泉の国試練にママは耐えられなかった。天使と人族とそのハーフ、まだ幼く戦う力を持たない君の3人で進む。向こうから大きくなった君を含めた3人が来る。僕は大魔境の作り出したまぼろし知っていながら君やママを攻撃できなかった。まったく天使らしくない。一度超えた試練だ、パパは油断していたのだろう。」
パパは語り始める。私は当時の事をよく覚えていない。3人でどこかにでかけた記憶はあるけれど、そのようなことはまれだった。
「私はあまり覚えていないけれど、大魔境なんてそんな子供に突破できるの」と聞く、今の私でも大魔境突破は無理だ。ママの死んだ8年前など到底無理だろう。
「帰る際には試練はないと思っていたんだ。実際、パパだけならなかっただろう。そしてママや君を守りながらでも進めると思っていた。パパはカティア様やオマール様に君たちの事を紹介したかった。自慢したかった。下級の天使などよほどのことがなければ天使長に会えるはずもない。君たち二人に出会えたことはそのことを忘れさせるほどの喜びだったんだ。ママが死んでようやく戦いだしても動揺は呪いを強める。パパは黄泉の世界で自分を殺したことによる呪いで死に瀕していた。天使は死なない。何度でもよみがえる。天使を本当に殺せるものはほとんどいない。大魔境の呪いでも5年もすればよみがえる。だけれど幼い君はその間に死んでしまう。」
ただの里帰りのつもりだったのだ。故郷の村へ自分の家族を連れていく。その最中に事故にあった。
私は涙を流している。その時のことはまだ思い出せない。
「それでどうなったの」と私は続きを促すけれどとても怖かった。想像はつく。パパは私を助けるために何かをした。パパは続きを話す。
「パパは天使長のカティア様とオマール様に願った。パパの復活まで眠るはずの時間を生かしてくれと。代わりにその後のすべての生きる時間を捧げると。それをカティア様は聞いてくださった。2次魔法に達した天使を生かしたり殺したりできるのは自分だけだと。5年の命を長らえさせてもらった。5年後つまり明日パパは2度と復活できないように永遠に封印される。天使にとって永遠の先の復活を待つことなど造作もない。君を育てることができた良かった。君の事を愛している。」
パパはそう伝えた。天使は涙を流さない種族だ。私だけが泣いている。同じような状況で黄泉の国の試練を突破した勇者の話は数多く残っているけれど、情を持たないはずのパパが失敗したのだ。
天使は自分の消え去るところをだれにも見せない。私が泣き疲れたところを睡眠の魔法をかけられる。翌朝目をさますとパパはもうどこにもいなかった。