人と鬼③
はてさて、大魔境月の光で育つ樹木の森は偽の大魔境だった訳だが、その危険度は大魔境を含めても五指に入る。
その分、人食い鬼に出会うリスクは少ない。
私にとってはその方が都合が良い。
月の光により、育つこの樹木は中から見上げる事でより高さを増しているように見えてしまう。
呪いだ。
私には強すぎる呪い。エルフの国の伝承では1.5次魔法なんていう、とんでもない化け物の作ったというこの魔境は2次魔法に過ぎないサラに完全に制御された事からも察せられるように、虚構に過ぎない。
私がもう一度樹木を見上げると、元の高さに戻り、木々の隙間から月明かりがのぞいていた。
こんなものは私の生まれた時代の方がよっぽど危険だった。魔法使いは時代が進むほどその実力の平均値は増していく。20万年前のちょうど平均の技量、最強で最弱だけれど平均の技量の魔法使いには荷が勝ちすぎる。無謀は勇気ではない。
そして無謀こそが人を生きながらえさせる。
そんな時代の最後の生き残りが私だ。
痩せ馬がいないのが残念だ。
「アリシアちゃんまた考え事してる。ちゃんと前を向いて進まないと躓くよ」
同行者の若い魔法使いエレナがいう。私がまさか20万年前の魔法使いなんて思いもしていないだろう。私は
「大丈夫だよ。魔法使いは転ばないもん」
と答える。とエレナが手を差し出す。
皆はもう森を進み始めており、私だけが遅れていた。
こんな所に一人残されたら泣いていたかもしれない。
例え敢えて無謀を選ぶものでも、暗い森に1人取り残されるのは寂しいのだ。皆が私達を微笑ましげに見ている。それだけで、森の呪いが薄まるのをかんじる。
先頭を進む魔法使いの男が歩くとそこが道に変わっていく。
後の皆が、いやきっと私が歩きやすいようにだ。
大魔境でそんな無理をすれば危険なはずだがこれは彼なりの覚悟なのだ、やると決めた事を貫き通す事は呪いを避ける事につながる。
私は私のやるべき事をやるしかないのだ。
あの時代の力が今こそ必要なのか?
違うずっとそうだったのだ。




