人と鬼②
10人の魔法使い。
「ディエゴ様、ポーラ様、サラ様、貴方がたの厚意を裏切る我等をお赦し下さい。そして願わくば我等に大魔境を越える力をお与え下さい。」
我ながら虫の良い願いである。3人の魔術師が我々を生かす為に必死に守ってきた世界を抜け出す力をくれと言っているのだ。それでも我々は生きている二人にそして、建国時に外に残り、死んでしまったもう一人に祈っている。
我々の国と我々により追い出されたエルフにより再興された国には共通点が多い。
建国者の一人サラ様とエルフの国の初代女王カトリーナ1世には親交があり、どちらも普通の人には見つけられない。
また国の周りを大魔境、強力な呪いにあふれた森に囲まれ、他者の侵入を拒んでいる。
呪いは女王と数人の信頼できる人間により、コントロールされている。
2つの国の違いはその方針にある。
エルフの国はエルフと建国にかかわった功労者は呪いなく出入りができるが、我々は基本的に出入りはできない。理由はエルフは全員が魔法使いであり、月の民は魔法使いがわずかしかいない為だ。外は危険だ。うちにいろ、という事だ。ただし我々の国も自力で越えることはとめていない。
女王の許可を得られればよいが公的な理由がなければ許可はおりない。まして人食い鬼になりにいくなど許可がおりるわけがなく。女王を欺く事など出来るはずもない。そもそも女王を欺ける実力があるなら、大魔境の呪いにもかからない。
大魔境の呪い等ポーラ様やサラ様には全く害とならないのだ。
その大魔境の呪いを乗り越えられる可能性の少しでもある者さえ魔法使いが万人に一人。隔絶した実力差だ。
「なぜポーラ様以外の二人にいのるんだ?」
仲間の1人がたずねる。
当然の疑問だろう。後の2人は汚れ役、嫌われ役。
王が皇帝が、指導者が。役割を同じくする神が2人いれば争う。帝国はそうやって崩壊した。
人が洞窟に住んでいた頃からのならい。
3人いればいなかった事にされる。
この地はまるで太古の洞窟のように、神となった人々に守られている。
善の神ポーラ、悪の神サラ、そして消え去った神ディエゴ。生き残った2人に神という自覚はない。
自覚がなければ神にはなれない。
魔法使いとは神にならずとも人に偽の救いをもたらす。だから善の神も悪の神も空席であり、我々のような無茶をする者が生まれた。
生まれる事の無かった神の呪いはジリ貧という形で人々をおいつめる。
大魔境を閉じるように願った少女は生まれるべくして生まれ、決まりきったように人々の滅びる道を優しさとして願った。
ディエゴは月の民を生き残らせるためにあちらの世界で自らを犠牲にした。
本当にそうか?
洞窟を飛び出さなかったならば人類は滅んでいた。
私は絵描き男の洞窟に戻りたかった。
私は現存する世界最古の錬金術師、絵描き男の妻と呼ばれた女だ。
私だけが後の世にいう錬金術師となり、20万年の時を生きた。
私はほほ笑み、「我々の神はディエゴ様。サラとポーラは神になる事を拒んだ。」
神がいなければその国は滅ぶ。
20万年の間、私の見た全ての国がそうだった。
いや、神がいた国も全て滅びた。
それでも人類は生きている。
滅びないために神がおり、滅びた後も望みをつなぐ為に神がいる。
優秀な弟子、そして私の何百人目の子だろうか。直系の子の中では最も強く、私も最も厳しく鍛えた。
弟子全ての中でも2番目に強い。
あの子が最後の戦いに向かう時私はあるアドバイスをした。
あの気に入らない男との思い出の場所に戻るついでに、アドバイスの成果でも身に行こう。
人類の最後の希望、光る石を探しに行こう。
短編の洞窟を読むとこの話の主人公がどういう思想を持つかわかる補助になると思います。
洞窟を見つけた指導者が神と崇められて、反対されても人類が生き延びるために危険を冒してでも次の洞窟を探しに行かせる。みたいな話です。
絵描き男の妻の一番優秀な弟子は大勇者エリーでございます。
幾ら魔法使いでも20万年の魔法使いが不老不死になれるわけないと皆様お思いかもしれませんがライカンスロープの血の影響です。絵描き男の洞窟の前の魔術師の洞窟は一部ライカンスロープの子孫がいました。
絵描き男の妻がオオカミに追いかけられて生き延びたのもそのあたりが影響します。




