リーナとエリク⑧
2人の女性が争っている。リーナさんの恋人を和音が取ったという話のようだか、私にはよく状況が飲み込めない。私は宇宙船では正体を隠しこの2人に手を出している。けれどリーナさんの言動をみるにその事は関係なく、小さな聖杯のたった一つのパラレルワールドの宇宙の、小さな銀河の小さな星の本当に小さな小さな街の出来事のようだった。
そもそもこの世界につくまでにリーナさんとはお互いの正体がわかる状態で話した事はないのだ。
和音は恋人だった頃から周りに悪ぶった言い方をし、相手を怒らせる事があった。そこも私が彼女を好きになった魅力の一つだ。うちの宗教では恋愛は禁止されていない。一部の特別な修行をするもの以外にはむしろ推奨されている。なにせ子孫を残す事はリトリーバーの化身を増やす事なのだ、推奨されない理由がない。
私の心の氷は溶け始める。
全てこの女、リーナのせいにして人間になっても良いように思える。私は「由紀菜」と呼びかけ、彼女を後から抱きしめ喜びの涙をこぼす。そんな私を彼女は肩だけ振り返り不思議そうに見上げる。
彼女の本当の名前は由紀菜だったのだ。
リーナの目が見開かれる。
彼女の回し蹴りで私は数秒気を失ってしまう。
私が目を覚ますとリーナと由紀菜が戦っている。
私達はこの世界に来る際に全員魔法使いになった。皆戦う事ができる。リーナは最も強く、由紀菜は2番、私が一番弱かった。
けれど今日は由紀菜がリーナを圧倒している。
こちらに来る前の力、魔法なしの勝負をしているのだ。リーナは空手の有段者、由紀菜はただの女子高生、身体つきからして戦えるように見えない。それでもリーナの蹴りを軽くさばき、反撃を、加える。「私はこれでも、鬼と殺し合いをしてきた。空手か何か知らないけど、所詮お嬢様のお稽古なのよ!」由紀菜はリーナに決着の一撃を放つ。
他の5人、1人はリーナを庇い、4人は由紀菜を抑える。そこからは由紀菜はサンドバッグ状態であった。
「こんな事もあろうかとあなたに恨みを持つ人間が生き残るようにしてたのよ。けれどあなたは彼女達の事を覚えても居なかった、あなたは最初から負けてたの。」そう言ってリーナは大きく腕を振り絞り、由紀菜に渾身の正拳突きを食らわせる。私はようやく鮮明になった頭と身体で由紀菜をかばう。私は今度こそ気を失ってしまう。魔法使いとなった我々は死ぬ事はないが、殴られば痛いし、気だって失う。私の隣ではボロボロになった由紀菜が捨てられている。私はリーナの気持ちなんて何も気づいていなかったのだ。私は宇宙船でチヤホヤされ、それを本気にし騙された。皆この日の為の行動だった。私はその事になぜか1人安堵しているのだ。私はやはり人造人間、利用される存在。私は昔のように彼女に「和音」と呼びかけて涙を流した。




