小さな星と聖杯の秘密⑥
私の恋人は魔術師だった。魔法なんてあるわけがない。恋人は二度と目を覚まさない。
そういう薬を飲まされた。本当に魔術師ならきっと目を覚ますことができたのだろう。
研究は取りやめになった。再開のめどはない。どちらにしてもそれどころではなかっただろう。
彼女は家を飛び出した身、それでもやはり彼女の家族はニュースを聞き病院にやってくる。
私とあった彼女の両親は冷静に話をし、目を覚まさぬ彼女と実際に会い泣きくれた。
彼女の妹はそんな両親を見続ける事が出来ずに目を逸らした。私達より10年下の彼女の妹は学生にして陸上競技の世界大会に優勝している。僕の恋人と同じように時の人だ。
私が婚約者であることは皆知っている。ひ弱な私は彼女の両親の悲しみを受ける事も出来ない。
どちらが引き受けるか、彼女の田舎の病院に移すのか、このままこちらの病院に残るのか。
もう目覚める事はないのだ。
彼女の両親は自分達が引き受けるという。
これは私のわがままだ。
1週間考えさせてほしいという。
彼女の両親はそれを許してくれた。
彼女が発見された時、彼女の瞳は大量の涙でぬれていた。彼女の返された場所には恐怖に耐えられず暴れた跡があり彼女の手は地面を殴りつけ血が滴っていた。
今彼女は眠り続けている。
彼女の妹は走っている。世界的なアスリートのルーティン、こんな時くらいやめればいいと思うがそうも出来ないのだろう。
彼女の妹は漫画の世界の住人に見えた。
今走っている事が私には浮世離れしすぎてみえた。
私は彼女と共に走りにいく。私も物語の世界の住人になりたかった。
私はそうはなれなかった。
私は走れなかった。彼女が私の前を通り過ぎる。
走る時と考える時だ、そんなはずはないのだが、走っている彼女の顔は僕の彼女の世界の秘密を探る時の顔ににていた。私は彼女の走る場所に来るだけでつかれてしまった。
彼女は大きな声で叫んだ。
私は悲しくても一度も叫ばなかった事を思い出した。
私は叫びたかった。私は大きく息を吸い込む。
けれど私は叫べない。
私は世界に響く本当の言葉を知らないのだ。




