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いい雰囲気になったと思ったのに!

 宿題のことを忘れていたロザーリオは、今朝、慌てて寮のそばでトローグの葉を摘んだらしい。

 寮の近くにトローグは生えていない。ガンファールもなかったと思うが、生育場所を選ぶトローグと違ってガンファールはわりとどこでも生えるので、いつの間にか育っていたに違いない。

 もう二度と、こんな情けない間違いをするなよ?と説教する。

 軽く診察されたが、僕ら三人は特に問題はなかった。

 教室へ戻ってティナの教科書を回収し、ロザーリオとは別れて玄関へ向かう。僕とティナはこの後、王宮で夕食だ。急いで屋敷へ帰って着替えねばならない。

「ね、レナート」

 廊下の途中で、くいっとティナが僕の袖を引いた。

「ん?」

「さっきは、ありがとう。なんかね、レナートすっごくカッコ良かった!」

 !!!

 頬に血が上ってくるのが分かる。

 ティナが僕にそんなことを言ってくれることなど、ほとんど無いからだ。婚約者として僕を受け入れてはいるが、異性とは意識していない。正直、ティナは恋愛に対する意識が低すぎると思う。

 今の言葉も、深い意味はなく単純な褒め言葉だろう。

 分かってはいる。いるけれど……嬉しい。

 思わず立ち止まって、そっとティナの柔らかな頬に触れた。

「レナート?」

「ティナに怪我がなくて良かった」

「うん。レナートのおかげ」

 えへへと笑うティナが可愛い。

 今……なら。キスしても、大丈夫だろうか?ティナと手を繋いだり、おでこにキスをしたことはあるが、唇へのキスはしたことがない。婚約者ではあるが、ティナとの距離はいつでも微妙だ。あまり強引に迫りすぎて、ティナが嫌がったら……と考えるとなかなか前へ進めない。

 でも、今はイケそうな気がする。

 ドキドキしながらゆっくりと身をかがめる。大丈夫、ティナに嫌がる素振りはない。潤んだ瞳がこちらを見上げている。

 よし。よし、あと少し―――!

 ドン!!

 突然、背中を押されて、ごちん!!と僕とティナのおでこがぶつかった。


「いたっ!」

「……っ!!!」

「あ~、すまんのう、前が見えておらなんだ。大丈夫かの」

 痛むおでこを押さえながら、声のした方を見ると……魔法歴史学のコジモ先生だ。両手にいっぱい資料を抱えていて、オロオロしている。

 僕らは教室の前で立ち止まっていたため、中から出てきた先生にぶつかられてしまったようだ。

「おお、おお、二人ともおでこが赤くなっておる。医務室へ……」

「大丈夫です、急いで帰らなければならないので―――」

 慌てて答えて、僕はすっと血の気が引いた。

 声が。視線の位置が。

「いや、しかしの……」

「コジモ先生。今から王宮へ行かないとダメなんです。失礼しますね!」

 低い声が先生の言葉を遮り、僕の手を取って走り出した。

 ……最悪だ!

 また、ティナと入れ替わっているじゃないか!!


 学院の玄関口には、うちの馬車が来ていた。

「ああ、なかなか出てこられないので心配しておりました。時間がありません、急いでください!」

 御者が僕とティナを見るなり、馬車の扉を開けて急かす。

 僕らは黙って馬車に乗り込んだ。

「……入れ替わっちゃったね」

 馬車が走り出してすぐ、ポツリとティナが呟く。もちろん、僕の身体で。

「ああ。……もう一度、おでこをぶつけてみよう」

「うう、さっきの、痛かったのに……」

 恨めしそうな声音で言うものの、ティナは素直に僕と向かい合った。このまま王宮の夕食会へ行く訳にはいかないのが彼女も分かっているからだろう。

 お互いに深く息を吸って、ゴツン!とおでこをぶつける。

 くう、痛い……。

 思わず瞑ってしまった目を恐る恐る開けてみて―――ガックリと肩を落とした。

「あ~~、戻ってない……」

「くそ、ネストレに会いに行く時間がないのに……!」

「もう!わたしの身体でそーゆー汚い言葉は使ったらイヤ!」

「……あ、悪かった」

 それを言うなら、僕の身体で可愛く口を尖らせるのも止めて欲しい。気持ち悪い。

 しかし、今、そういう言い合いをしている時間はない。僕は必死で頭を働かせる。うう、現状で打てる手など、限られている……!

「仕方がない。すぐにネストレへ伝書鳥を飛ばす。あいつなら王宮にも入れるはずだ、なんとかなるだろう。それまで……周りにはバレないよう、お互いに気を付けて行動しよう。いいか、怪しいヤツがいても知らん顔してろよ?何かあっても、すぐに助けられない可能性が高い。危ないことには近寄るな」

「……でも、レナートはパトリツィオ殿下の側近じゃん。怪しいヤツを見逃していいの?」

「殿下にはちゃんと専属の護衛がいるし、ああ見えてパトリツィオ殿下はお強い。そもそも僕は護衛役として側に控えている訳じゃないんだ。だから、そこはティナが気にする必要はない。それに、ティナは戦えないだろう?」

 剣術だけの話じゃない。得意とする魔法も違う。僕の身体でティナの魔法が使えるのか、それとも僕しか使えない魔法を、中身がティナでも使えるのか?

 それをのんびり検証している時間はないだろう。

「……一応ね、わたし、簡単な護身術は習っているから戦えると思うんだぁ」

「ティナ!背の高さや手の長さが違うと、感覚も変わる。慣れないことをするんじゃない」

「うう……分かった。考えてみれば、レナートの身体がケガしちゃうかも知れないもんね。おとなしくしてる」

 良かった、納得してくれて。

 そうこうしているうちに、屋敷に着いた。

 僕は急いで魔法で伝書鳥を作り出し、短い伝言を吹き込んで飛ばす。……僕もティナも使える魔法の場合は、特に違和感なく魔法は使えるようでホッとする。

「あ、レナート!」

 馬車を降りようとして、ティナに引き留められた。

「裸を見るのはまあ、この際、仕方ないから我慢するけど……触ったりしないでね?」

「!!!」

 忘れてた!

 着替え……!!

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