僕が女子会に参加?
「でね、でね、ラウロったら私が頑張って刺繍したハンカチを“まあまあだな”って言ってすぐ仕舞っちゃって、一度も使ってくれてないのよ~!」
「ヒドイ!イレーネの刺繍、すごくキレイだったのにぃ」
「でしょ、でしょ?」
お弁当を広げて、さっさと食べればいいのにお喋りが始まる。
ティナの友人、名前はエスタ嬢とイレーネ嬢。どちらも子爵家だったか。
今、話題に上がっているのはイレーネ嬢が婚約者のラウロに手ずから刺繍したハンカチを贈ったのに使ってくれない!という愚痴らしい。
……ラウロが婚約者から家紋の刺繍入りハンカチをもらって自慢していたのを僕は見ているんだが。これ、言ってもいいんだろうか?
「もう私、刺繍なんかしない!何回も指を刺しながら完成させたのに……ひどすぎるよ。ね、ティナもそう思うでしょ?」
「えっ……と……、でも、一度も使わないのは、もしかすると……とても大事だから使えない、のかも知れないよ」
「え?」
「使うと汚れるし、皺になる。だから使わないけれど、大事に持ち歩いている……気がするな」
「そ、そう……かな」
「うん。一度、確かめてみたらいい。何故、ハンカチを使わないのか?って」
イレーネ嬢は僕の言葉に半信半疑の様子だったが、少しだけ頬を赤らめて「じゃ、一度聞いてみよっと」と気持ちを持ち直したようだった。エスタ嬢がニヤニヤしながら、肘で彼女をつついている。
感謝しろよ、ラウロ。君と婚約者殿との仲を取り持ってやったぞ。
エスタ嬢とイレーネ嬢には悪いが、少し早めに昼食を切り上げてティナを探す。
昼休みの間に元の身体に戻りたい。
午後の最後の授業は剣術だ。9歳の頃とは違って、かなり本格的な打ち合いをする今、ティナでは厳しいだろう。
食堂を覗いたがいなかったので、あちこちを探す。
どこからか、「きゃー!」という黄色い歓声が上がった。
なんだろう?
賑やかな方へ向かうと……僕(本体)が女生徒に囲まれていた。む?
「ヴィヴィアナの歌声は素晴らしいよ。その甘やかな声はうっとりとする。もっと自信を持って声を前に出したらいい」
「ほ、ほんとですかぁ?!」
な、何をやってるんだティナ!
僕はその場で卒倒しそうになった。
ティナが、僕の身体で……あちこちの女子に優しく微笑み、甘い言葉を掛けている。
「ロレーナは、いつも教室に花を活けてくれているんだよね。ありがとう。君みたいな優しい心遣いのできる人は最高だよ」
「ダンジェロ様……!」
僕は全力疾走でティナの元へ行き、その腕を引っ張った。これ以上、余計なことを言うな、するな!
「あ、レナ……じゃない、ティナ」
「レナート!ちょっと向こうへ!!」
「ごめんね、みんな。じゃあ、大切な婚約者とちょっと話をしてくるから」
「「は~い!」」
止めろ、ティナ。
僕のイメージが変わる!!
ティナを引っ張って、空き教室に飛び込む。
「珍しいね、レナートがそんなに焦るって。どうしたの?あ、もしかして花を摘みに行きたくなった?どうしよう……私もそろそろ行きたいかなぁって思ってるんだけど」
「は?」
ちょっと待ってくれ。もう僕の頭はいっぱいいっぱいだ。
僕は激しく脱力しながら、壁に手をついた。
「何故……君はそんな落ち着いていられるんだ」
「そりゃ、二度目だもん。でも、いいね、レナートの身体!9歳のときと違って背は高いし手も足も長いし、力も強くなってて……さっき、女の子がふらついていたのを余裕で抱き留められたよ!」
さっきの「きゃー!」はもしや、それか?
僕が身体を鍛えたのは、昔、ティナに“華奢”だの“そこら辺の女子よりも可愛い”だのと思われたことが原因だ。好きな女の子にそんな風に思われるなんて、我慢がならない。だから必死で鍛えて、男らしくなった。ただただティナに異性として格好いいと思われるために。どうでもいい他の女子から「きゃー!」と言われても……困るんだよ。
「ティナ。僕の身体であれこれ誤解を招くような行動は止めろ」
「え~。せっかくレナート、かっこいいんだから。女の子にもっと優しく接してあげようよ」
ぐっ。
せっかくティナが“かっこいい”と褒めくれたのに……何故、自分の声・姿!全然、嬉しくない。
「僕はティナと婚約している!他の女の子に優しくしたら、周囲があらぬ詮索をするだろ」
「そう?デートするワケじゃないし、手をつないだりチューしたりするワケでもないよ」
僕はティナの能天気さが好きだ。本当に好きだ。好きだが……ときどき、無性に腹も立つ。まったくもう、どういう思考回路をしているんだ。能天気にもほどがある!
「ともかく。早く元の身体に戻ろう」
「どうやって?」
「とりあえず、手を繋いで。目を閉じて。もう一回、お互いに“自分の身体へ返る”と暗示を掛けてみよう」
「わかった」
素直に頷いて、ティナは手を繋いできた。
頼む!どうか、戻らせてくれ……!
―――しかし必死の願いも空しく、僕らは入れ替わらなかった。
「……ティナ。まだ僕の身体で遊びたいとか、考えていないだろうな?」
「ええっ。さすがにそんなこと考えてないよ」
いささか信用ならない顔の返事。
まあ、でも……この入れ替わりはよく分からないことが多いから仕方がないか。
「それで……えーと、お花を摘みに行きたい件については……」
「!!……駄目だ、やっぱりすぐに戻れるよう手を尽くそう」
「大丈夫だよ、前にレナートになったことあるから、男子のお花の摘み方は分かってるし」
「9歳のときとは違う!」
勘弁してくれ。
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