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キミナカ ~ぼくが君になったら~  作者: もののめ明


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4/15

二度あることは三度ある、とか

 翌日、一緒に馬車で学園へ登校する。

 朝の弱いティナは、僕の隣でウトウトしている。肩にもたれかかって、うにゃうにゃとよく分からない寝言をときどき呟くのが可愛い。早く一緒に暮らせるようになりたいものだ。

 学園に着いたので、ティナを起こす。

 眠いせいだろう、足元がおぼつかない彼女の腰を抱きながら馬車を降りたら、周囲からの注目を浴びてしまった。

「ティナ。ほら、ちゃんと起きて。躓くよ」

「うー…ん……」

 まったくもう。

 これは昨日、母上と夜更かししたな。

 最近、母上は身分差を超えて結ばれる歌劇にはまっている。夫や息子に熱く語っても誰も適当にしか相手をしてくれないので、ティナにその思いをぶつけていたに違いない。ティナは実際の恋愛には興味が薄いのに、歌劇などは割りと好きなのだ。

 ティナの手を引きながら2階の教室へ向かっていたら……急に後ろから賑やかな声がして、下級生の男子数人がわっと走り抜けていった。

(危ないな。注意すべきか)

 ちらっとそんなことを考えたときだった。

「あっ、いっけね、忘れ物……」

 一人が突然立ち止まり、勢いよく振り返ってこちらに戻ってきた。

 ドン!

 その子とティナの肩がぶつかる。

 あ!と思ったときには均衡を崩していた。ティナの足が階段を踏み外し、僕は咄嗟に彼女を抱き締めて―――一緒に階段を落ちた。


「……っ」

 あの馬鹿下級生!叱ってやらねば。

 頭を振りながら起き上がって。

 僕はポカンと口を開けた。

 僕の前で、“僕”もポカンとした顔をしている。

 ―――これは。もしかして。

「す、すみません!大丈夫ですか?!」

 僕らを階段から落とした少年が、青い顔になって横で膝立ちしている。僕は衝撃で言葉が出ない。だけど……

「……うん。大丈夫だよ。君も、これからは走らないようにね」

「はい!申し訳ありません!!」

 目の前で“僕”が落ち着いた口調で少年を諭し、僕に手を伸ばしてくる。

「ティナも大丈夫だよね?さ、教室へ行こう。授業が始まる」

 ちょっと待て。

 大丈夫?全然、大丈夫じゃない!

 どうして、そんな落ち着いていられるんだ!!

 ―――激しい動揺を隠しつつ、僕と“僕”は手を繋いで階段を上がる。う、前回はそんな余裕はなかったが、スカートって……太ももがすーすーして落ち着かない……。

「……ティナ、だよな?」

「うん。そっちはレナートだよね?今度は……入れ替わっちゃったんだ?」

 昨日の今日で、まさか、またこんなことが起きるとは。

 僕らは、一体、どうしたんだ?


 教室へ入る前に、手を繋いだままお互いに“元へ戻れ”と念じてみる。しかし、昨日のように戻ることはなかった。

 やばい。やばいぞ、これ。


 ヒヤヒヤしながら、とにかくティナと僕は中身が入れ替わったまま授業を受ける。

 ああ、駄目だ、授業の内容なんか頭に入ってこない。どうすれば元に戻れるか、そのことばかり考えてしまう。

 とりあえず、もう一度階段から落ちてみるか?僕の本体がティナの本体を抱きかかえて落ちれば、ティナに大きな怪我はさせないと思うが……でも、変に頭を打つと怖いよな。

 考え込んでいたら、教師から当てられた。

「マルティナ・ジェンティーレ君。この問題の解答は?」

 自分(?)が呼ばれている自覚がなかったので、隣の席の女子につつかれて、初めて事態に気付いた。教師の目が冷たい。

「君、授業中、よくボーッとしてるよね。ワタシの授業がよほど面白くないらしい」

 数学教師のセヴェリーノはねちこいことで有名だ。前からティナの授業態度が気に入らなかったらしい(ティナは数学が苦手だから、ろくに聞いていないのは当然と思われる)。

 面倒なやつに目を付けられたな。

「数学がもっと面白くなるには、たくさんの問題を解いた方が良いかもネェ。君には特別に宿題を……」

「その問題の解答は、x≦3です」

 ざわっ。

 教室がどよめいた。

 そりゃ、そうだ。ティナの数学成績が悪いことはみんな、知っている。

「で、では。―――(カカカッと黒板に数式が書かれる)12(x−3)>2x+9の式を満たす整数xは」

「……5ですね」

 ざわざわざわっ。

 どよめきが大きくなる。

 セヴェリーノは目を大きく見開いたまま、後退りをした。……驚きすぎだろう。

 結局、そのまま授業は終了となった。助かった。

 しかし、授業が終わるなり級友に囲まれる。

「ジェンティーレさん!すごかったわ。セヴェリーノ、わざと私たちには解けない高等数学の問題を出したのにどちらも解けるなんて」

「いつの間にそんなに勉強していたんだ?すかっとしたよ、あいつの呆然とした顔!ざまぁみろ」

 僕には大したことない問題だったんだが……まあ、セヴェリーノに泡を吹かせられたなら、良かった。

「すごいね、ティナ!さすが僕の婚約者」

「……ありがとう」

 ティナ(本体は僕)もやって来て、満面の笑顔で僕の肩を抱いた。

 きっと、(入れ替わってて超ツイてるぅ!)と思っていそうだ。

 難問に解答してしまうなんてティナのためには良くないんだけどなー、授業に集中していなかったのは僕の不注意だ。仕方がない。

 で、休み時間に入れ替わりの件でティナと話をしたかったが……結局、この騒ぎでそれどころではなかった。

 その後も、なんだかんだとバタバタしているうちに昼になってしまった。

 うう、早く僕は元に戻りたいのに!

 急いでティナと二人で教室を出ようとしたが……僕はがしっと数人の女子に腕を掴まれた。

「マルティナ!今日は女子会の日よ~。約束してたでしょ。天気もいいから、裏の庭園でランチをしましょうか」

「今日はとっておきのデザートも持ってきたの!感想、聞かせてね」

 嘘だろう?!僕が……女子会に参加するのか?!

 慌ててティナの方を見たら、ティナは(僕の友人である)レアンドロとジョナと一緒にさっさと食堂へ向かうところだった。

 ティナ~~~!ちょっと冷たすぎるぞ!!

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