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思わぬ事態が発生

 パトリツィオ殿下は優しく温和で人の話にもよく耳を傾ける出来た王子だとよく言われる。

 確かに、外面はそうだ。だが、内面は違う。結構辛辣で人の欠点に容赦がないし、全然、優しくない。常に優等生の仮面を被って周囲を上手にだましているが、中は真っ黒だ。そして僕に対しては……非常に遠慮がない。

 今日も、僕が楽しみにしていたティナとのデートを妨害しに来るなど……本当に最低な主じゃないか。

「マルティナ。こっちのベリーのソースも美味しいよ。一口食べてみるかい?」

「えっっっ、いいんですか!はい、食べます!」

「ティナ!口を開けて!」

 僕は慌てて横から桃のソースのパンケーキをティナの口に突っ込む。

「んん~!おいしーーーいっ!」

「だろう?ティナはチョコの次に桃が好きだもんね。もう一口、あげよう」

 人の婚約者に、何が“一口食べてみるかい?”だ。失礼にもほどがある。

 僕がギロリと殿下に殺意のこもった視線を向けると、殿下は素晴らしく悦に入った笑みを浮かべた。僕が慌てふためく様がよほど面白いらしい。

「いつも感心するよ、君達は仲がいいね」

「当然です。愛し合う婚約者同士ですから」

「ふぐ?ふぇつに愛しあってな……むぐっ」

 二口めを急いでティナの口に運ぶ。ティナは目を白黒させつつも、二口めも美味しそうに食べた。

 うう、殿下のせいで全くデートが楽しめない……。

 ―――ろくに味わえないままカフェを出た。とにかくさっさと殿下に退場を願おうとして。

 ふと、不審な影に気付いた。人混みの中からこっちを見ている奴がいる。帽子を深く被っているが……一瞬だけ、僕と目が合ってすぐに視線を逸らしたその仕草。警告するようにチリッと頭の奥が焼ける。

 咄嗟に僕は殿下を押した。

「レナート?!」

 殿下が体勢を崩して僕に非難の眼差しを向ける。そして、「きゃ!」というティナの悲鳴。

 しまった、ティナをエスコートしていたんだった!僕に引っ張られてティナが階段を落ちそうになる。

 そこからは、時間の流れが急に遅くなったようだった。

 帽子の男の手が上がり、何か……魔法の攻撃が来たのは分かった。しかし殿下は、僕が押したのでその攻撃線から逸れている。今、線上にいるのはティナ。

 ティナを、守らなければ。

 僕は無理矢理に体を捻って、愛しい婚約者を身体で包み込んだ―――。


 遠くにざわめきが聞こえる。

 誰かが怒鳴っているようだ。……殿下か?大声を出すなんて、外面を気にする殿下が珍しい。

 う~、全身がピリピリする。

 えーと、一体、何があったんだっけ?

 頭を振りながら、僕はゆっくりと目を開けた。目の前には……服?ん?誰かに抱き締められている?

 その途端、一気に記憶が鮮明に甦った。

(殿下が襲われそうになって、それを庇って……いや、ティナは?!ティナは無事か?!!)

 がばっと起き上がり、僕は自分の下にいる人物を見て硬直した。

「は?!僕??」

 僕が、僕に抱き締められている?

 ……違う。

 信じられない事態に、僕は全身が震えてきた。

 細い腕。はらりと落ちた綺麗な鳶色の髪。

(ティナの中に僕が入ったのか―――?!)

 嘘だろう?何故……こんなことに……!!


 殿下の采配で、僕(身体はマルティナ)と気を失ったままの僕の本体はダンジェロ公爵家に運ばれた。

 僕らを襲った男は騒ぎを利用して逃げてしまい、捕まえることは出来なかったようだ。

「まあ!坊ちゃま……!!」

 侍女頭のオルサが見たことがないほど取り乱して僕(本体)に取りすがっている。

 殿下がオルサを宥めながら、指示を出した。

「雷系の魔法で攻撃をされた。だけど、レナートは防御壁を張ったようだから、身体への大きな損傷はないはずだと思う。王宮医をこちらへ寄こすよう連絡をしている。まずはベッドに寝かせてやってくれ」

「はい!」

「マルティナ嬢。君も診察を受けた方がいい。気分はどうだ?」

「だ、大丈夫……です……」

 いまだ事態に付いてゆけず、呆然としている間に……僕は本体とは別の客間に案内された。

 侍女がいつの間にか用意していたハーブティーを、目の前に置いてくれる。

「レナート様は、大丈夫ですから。さ、マルティナ様は少し気を楽になさってくださいまし」

「ありがとう」

 ハーブティーを一口飲んで。

 ようやく頭がはっきりしてきた。

 昔、ティナが僕の身体に入ったことはあったが、どうやら今回は逆の事態が起こったらしい。……待てよ?逆?もしかして今、ティナはこの身体の奥底に眠っていて、僕の思考がティナに筒抜けになっている……とか?そ、それはちょっと……嫌だな。

 …………。

 ……。

 いや、駄目だ。何も考えないでいると何も出来ない。

 えーと……ティナ?僕の呼びかけに応えることは……出来ないかな?

 ……無理だよなぁ。僕だって、あのとき、何度かティナに呼びかけたけど交信出来なかったもんなぁ。

 さて、どうしよう。やばいぞ。どうすれば、元に戻れるんだ?

 あのときは僕の身体が池で溺れて、ティナは元の身体に返ったんだっけ。じゃあ、溺れてみればいいのか?

 いやいや、ティナは泳げないんだから、元に戻ったら危ないだろう。

 恐らく、溺れることが条件ではないはずだ。たぶん、肉体的な衝撃が引き金になっている気がする。だからといってティナの身体で危ない手段―――例えば階段から転げ落ちるなどを試したくない。

 悩んでいたら、オルサが部屋に入ってきた。

「マルティナ様。着替えをご用意しました」

「あ……はい」

 よく見れば、ドレスのあちこちが破れ、汚れている。

「お怪我がないかも確認いたしますね」

 オルサの手が背中に伸びてきて―――僕はハッとした。

 まずい。

 非常~にまずい。

 このままではティナの裸を見てしまう。

 いや、もちろん、見たくないという訳ではない。見れるなら見……んん!違う。違うぞ?僕は決して、やましい下心なんて持ってないからな?ティナの胸を直に見たり触っ……んんん!!

 僕は不埒な思考を追い出すように頭を振って、急いでオルサの手を遮った。

「すまないが、やっぱりレナートのことが気になるから、レナートのそばに行かせてくれ……じゃない、行かせてください」

「まあ!お気持ちは分かりますが、今、診察中ですので……」

「いや、きっとそばにいる方が目覚めると思うから」

 というか、頼む、元の身体で“僕”を目覚めさせてくれ!このまま、ティナの身体で過ごすなんて……絶対に無理だ……!

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