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ネトコン13参加作品

晴天に届けられなかった願い

作者: 白夜いくと

 ――――要らなかった。飛べない羽なんて、要らなかった。


 人間の母さんと、羽人間の父さんの間に生まれたボクは、不良品だ。だって、人間のように筋肉が発達しやすいわけでもなく。羽人間のように空も飛べない。オマケに、色白で貧弱な身体をしている。

 

 飛べやしないのに、引っ張っても抜け落ちない長く白い羽が1枚だけ右肩甲骨あたりについている。醜い。周囲の人間や羽人間は決して口には出さないけど、全く目を合わせてくれない。


 特に足の筋力は弱く、歩くのだけで息絶え絶えだ。そんなボクは、やはり両親のことを憎んだ。「好き勝手にボクを産み出しやがって!」と。きっとそれは2回目の反抗期ぐらいの頃。1回目の時は、抱きしめられて納得した。


 でも、あの日から何も変わらない。母さんはボクの存在を「愛の結晶」と言い続け。父さんは「すまない」と謝り続けた。もはやケンカにもならない現状。もう、うんざりだ!


「愛だとか、謝罪だとか、そんなものでボクの心の傷が癒えるもんか! もし本当にボクのことを愛していて謝罪する気があるのなら、このボクの羽をどうにかしろ!」


 ボクが服を脱いで1枚の羽をピクピク動かした。「これでは飛べないんだ!」と主張するために。父さんと母さんにどうにかして欲しかった……いや、構って欲しかったのかもしれない。


「え、父さん母さん、何を……!?」


 ――――父さんと母さんは、泣きながらボクの羽を強引にべりッとむしった。その羽を愛することを決めたらしい。これが愛。これが謝罪。そうなのか……。


「さよなら」


 ボクは激痛と自身を恨み、それでも醜くも生きることを選んだ。貧弱な人間として。ゴミ拾いや物乞いをして。時折哀れに思った旅人がお金を恵んでくれる。それで食い繋いでいた。


 そう生きるしかなかった。


 ――――それから数10年経った。


 ボクのようなものが多くなると、世の中は大きく変わるもので。巷では、筋肉の発達をよくする薬や、育羽剤などが販売されていた。医療費免除にもなっており、非常に暮らしやすそうだった。


 その頃にはボクのような貧弱な狭間の者は「この世界に居なかった」存在になっていた。苦しい。寂しい。何のために産まれてきたのか。行きついた先は懺悔室だった。


「神様。ボクは世界が発展するために産まれてきた実験体ですか?」


 何も悪いことをしていないのに、膝をついて言ってみた。ごつごつした床が痛い。でも神様なら。それに近い人なら、ボクの心を救ってくれるだろう。


 ――――そう、思っていた。


「神はあなたに試練を与えたのです。よく耐えましたね。来世では幸福が約束されています」

「……そうですか」


 その言葉を聞いた深夜。ボクは教会に火をつけた。何千年もの歴史への冒涜。ボクがやった、最初で最後の反抗。死刑が決まったと同時に、ボクの「たった1枚の羽」が裏ルートで高値で取引されているのを知った。

 お金に困った両親が売ったらしい。


「はは、はははは!」


 これは、そんなボクのおかしな話。時代がちょっとだけ歪だったんだね。でも、愛というものを知ってから死にたかったな。


 ――――ねぇ神様。


 来世では完全な身体で産まれて、普通に生きられますように。

 こんな悲しい心と身体を持ったヒトが産まれてきませんように。

 すべての人々が自分の存在する理由を見つけられますように。

 誰もがこの世界を好きになれますように……。


 そんな長い祈りを晴天に捧げようとしたら、ギロチンの刃が先に落っこちた。


 ――――ねぇ神様。

 

 ボクの願いと祈りは今、叶っているだろうか。教えてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的に好みがドンピシャな作品でした。 [一言] 子ども自身より、たった一枚の羽を選んだのに、結局手放す。 しかもお金のために。 この両親の子どもへの愛とは、なんだったのか。 主人公と…
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