晴天に届けられなかった願い
――――要らなかった。飛べない羽なんて、要らなかった。
人間の母さんと、羽人間の父さんの間に生まれたボクは、不良品だ。だって、人間のように筋肉が発達しやすいわけでもなく。羽人間のように空も飛べない。オマケに、色白で貧弱な身体をしている。
飛べやしないのに、引っ張っても抜け落ちない長く白い羽が1枚だけ右肩甲骨あたりについている。醜い。周囲の人間や羽人間は決して口には出さないけど、全く目を合わせてくれない。
特に足の筋力は弱く、歩くのだけで息絶え絶えだ。そんなボクは、やはり両親のことを憎んだ。「好き勝手にボクを産み出しやがって!」と。きっとそれは2回目の反抗期ぐらいの頃。1回目の時は、抱きしめられて納得した。
でも、あの日から何も変わらない。母さんはボクの存在を「愛の結晶」と言い続け。父さんは「すまない」と謝り続けた。もはやケンカにもならない現状。もう、うんざりだ!
「愛だとか、謝罪だとか、そんなものでボクの心の傷が癒えるもんか! もし本当にボクのことを愛していて謝罪する気があるのなら、このボクの羽をどうにかしろ!」
ボクが服を脱いで1枚の羽をピクピク動かした。「これでは飛べないんだ!」と主張するために。父さんと母さんにどうにかして欲しかった……いや、構って欲しかったのかもしれない。
「え、父さん母さん、何を……!?」
――――父さんと母さんは、泣きながらボクの羽を強引にべりッとむしった。その羽を愛することを決めたらしい。これが愛。これが謝罪。そうなのか……。
「さよなら」
ボクは激痛と自身を恨み、それでも醜くも生きることを選んだ。貧弱な人間として。ゴミ拾いや物乞いをして。時折哀れに思った旅人がお金を恵んでくれる。それで食い繋いでいた。
そう生きるしかなかった。
――――それから数10年経った。
ボクのようなものが多くなると、世の中は大きく変わるもので。巷では、筋肉の発達をよくする薬や、育羽剤などが販売されていた。医療費免除にもなっており、非常に暮らしやすそうだった。
その頃にはボクのような貧弱な狭間の者は「この世界に居なかった」存在になっていた。苦しい。寂しい。何のために産まれてきたのか。行きついた先は懺悔室だった。
「神様。ボクは世界が発展するために産まれてきた実験体ですか?」
何も悪いことをしていないのに、膝をついて言ってみた。ごつごつした床が痛い。でも神様なら。それに近い人なら、ボクの心を救ってくれるだろう。
――――そう、思っていた。
「神はあなたに試練を与えたのです。よく耐えましたね。来世では幸福が約束されています」
「……そうですか」
その言葉を聞いた深夜。ボクは教会に火をつけた。何千年もの歴史への冒涜。ボクがやった、最初で最後の反抗。死刑が決まったと同時に、ボクの「たった1枚の羽」が裏ルートで高値で取引されているのを知った。
お金に困った両親が売ったらしい。
「はは、はははは!」
これは、そんなボクのおかしな話。時代がちょっとだけ歪だったんだね。でも、愛というものを知ってから死にたかったな。
――――ねぇ神様。
来世では完全な身体で産まれて、普通に生きられますように。
こんな悲しい心と身体を持ったヒトが産まれてきませんように。
すべての人々が自分の存在する理由を見つけられますように。
誰もがこの世界を好きになれますように……。
そんな長い祈りを晴天に捧げようとしたら、ギロチンの刃が先に落っこちた。
――――ねぇ神様。
ボクの願いと祈りは今、叶っているだろうか。教えてください。