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黒猫とハイ・エルフ



 ガリアンセーズ王国の西部に、一本の巨大なトネリコの木がある。

 宇宙(そら)に届きそうなほど高く、山のように太いトネリコの樹皮や盛り上がった根には、いくつもの建物が建設されている。

 それは一千年の歴史を持つ、求道者のための学び舎の群れ。

 魔術の始祖、『知恵』のゾーエ・ザーニが作り上げた、シャノワール魔術学園である。


 そして、その幹の上層、鳥も飛ばないほどの高度に生える太い枝葉の根元に、小さなログハウスが建てられている。

 丸い魔力のドームで覆われ、保護されたログハウスだ。

 そのログハウスから、ひとりの女が現れた。

 一見すれば、古めかしい制服を着た十四、五の少女に見えるが、両耳が木の葉のように尖った形をしている。


 少女は枝の上に小さな折り畳み式の椅子を置いて座り、空を見上げた。

 時刻は夜。満点の夜空が広がっている。

 しばらくそうしていると、ふと、一匹の黒猫が少女の椅子に寄り添っていると気づく。


「うるさい猫が来た」


 と呟くと、黒猫はにゃあと鳴いて、人間のように笑った(・・・・・・・・・)


「やあ、永遠の留年生」


 そして、声が変わる前の少年のような声音で喋った。


「もう何年ぶりになるかな。調子はどうだい。たまには下に降りてきなよ」

「十五年ぶり。調子はいつも通り。降りない。私には仕事があるから」


 少女は仏頂面で黒猫の頭を撫でた。


「無限に成長するトネリコを抑えつける仕事かい? ゾーエのアホも、大変なものを残してくれたものだね。世界を食い破る巨木なんてさ。ぼくなら耐えられないなぁ、そんな退屈な仕事」


 黒猫が楽しそうに笑う。


「しかも、夏の暑さを避けるための日差しとしてトネリコを大きくしただって? 冗談じゃない、ゾーエが自分で『アッツい!』つってキレて魔法をかけたのにね。なんでもかんでも生徒のせいになる」


 少女はやはり仏頂面で、しかし大きくうなずいて同意する。

 尻ぬぐいをするのもまた、いつも生徒だったから。


「……私は先生が男ってことになっているのも気に食わない。あんなの、魔術がすごいだけの酒乱のダメ女。神界に帰っちゃったけど、どうせまた落とされてくる」

「そだねー。それがいつになるかは、わからないけどね」

「だから、それまでは私が世界を守っておく」


 少女は嘆息した。


「本当――、先生は私がいないとダメなんだから」

「キミもたいがいめんどくさいねぇ」

「うるさい」


 言って、少女は星を見上げた。


「下はどう?」

「愛と恋がいっぱい」

「人間は相変わらず青春で忙しい」

「きみもしたらいいのに。せーしゅんをさ」

「何歳だと思っているの、私を」

「うーん、一二〇〇歳くらい? でも、年齢は関係ないと思うなぁ。それに、寂しくなるときくらい、あるだろう? たまには降りてきなよ」


 黒猫は尻尾をくるくる回す。


「ぼくは街と子供たちを守るだけ。そういう契約だ。絶え間なく変化する人間たちは、見ているだけで楽しい。でも、きみは違うだろう? こんな代わり映えのしないところで、毎日同じ作業の繰り返しだ」

「夜空だって変化する」

「そうは言っても、話し相手だっていないじゃないか。おかしくなっちゃうよ」

「大丈夫。下の街に興味がないわけじゃないけど、あなただって来てくれる。だから、まだしばらくは、ここにいる」

「そっかぁ」


 しばらく、ひとりと一匹は黙って夜空を見上げていた。

 ややあってから、ひとりが口を開いた。


「先生が降りてきたとき、いちばん最初に出迎えられるのは、ここだから」

「……そっか、そっか」


 黒猫は少年みたいな声で笑った。


「してるじゃん、せーしゅん」

「本当に、うるさい黒猫だこと」



以上で、『黒猫学園短編集』を締めさせていただきます。

サイコロを振って組み合わせを作ればいくらでも書ける設定ではありますので、気が向いたら書こうかなと思います。


よろしければ☆☆☆☆☆で評価、感想、レビューをいただけると幸いです。

特にレビューは多くの方の目に留まる機会になりますので、簡単にでも書いていただけたらとても嬉しいです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また別のお話でお会い出来ることを楽しみにしております。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 程よい甘さと涼しさで、夏の午後を過ごすのに素敵な作品でした! また、お話がおりてくるといいなあ
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