思惑
その後の宴会は特別何事もなかった。
日はとうに暮れ、蓮以外の3人は早々に満腹宣言をして部屋に戻ったが、蓮は少しだけ長くいた。蓮は少なくとも宴会中はなにも特別なことはしてこないと睨んで周りの人々をよく観察していた。同時に村の人々と喋りながらいまいる場所の情報収集をした。彼自身に関してもなにを聞かれても適当に返し、彼が予想以上に無知かもしれないという疑惑以上の情報はほとんどなにも村人に渡さなかった。
「戻ったか。そろそろいくか?」
部屋に戻ってきた蓮に対して徹が待ちくたびれたかのように言った。
「いや、まだだ。まだ村人は寝てない。」
蓮は座りながら返した。
「やつらが来てからでは遅いぞ。」
徹は反論した。
「わかってる。ぼくはいま帰ったばかりだ。やつらがくるとしても1時間後か、うちらがここの明かりを消したあとだと思う。なにかするならうちらが寝てからの方が都合がいい。」
蓮は冷静に言い、徹は頷いた。
「帰りに出されたお酒を鶏に試しに飲ませた。」
ののこは言い出した。
「どうだった!?」
蓮たちはののこの機転と行動力にびっくりしながら聞いた。
「特に問題なかった。お酒を飲んだ鶏はピンピンしてた。」
ののこは言った。
「よかった。」
徹はほっとした。
「いや、お酒じゃなかった。」
ののこは深刻そうに続けた。
「なに?」
蓮は食い気味に聞いた。
「この小屋の外にある井戸の水も試した。数口飲んだ鶏は1分くらいしたら倒れ込んだ。息はあるけど、眠った。」
ののこは続けた。
「まじか、本当に薬が入っていたのか!?」
徹はびっくりして思わず声を荒げた。蓮も顔をしかめた。
「うん、たぶんそう。」
ののこは答えた。
「起こそうと叩いたりしたけど、起きなかった。井戸に入った水がもともとよくなかった可能性もあるけど、、」
言うまでもなく、そこにいた4人は全員深刻な顔になった。
。。。。。。
その頃、村長の部屋には8人の男が集まっていた。
(日本語訳)「じいさん、あいつら本当に碧林門の者なのか?」
博仁と呼ばれていた大男が村長に向かって小声で話している。
「間違いないじゃろう、あの服装といい、あやつ碧林のクナイを一目で見定めたんじゃ。」
村長は静かに言った。その顔は少し震えている。
「待ってくれ、碧林門に南疆の弟子がいるなんて聞いたこともねぇし、南疆っていう場所すら聞いたことがねえ。」
「南疆はおそらくある。わしも詳しくは覚えとらんが、昔聞いたことがある気がする。」
「にしても急にそんな遠くから何人も弟子を拾ってくるのか?」
「それはわからん。碧林門の根は深く、ネットワークは広い。だれか先生の故地なのかもしれん。」
「それなら柳蓮とかいうやつのぎこちない言葉もどこかの方言というのか」
「そうじゃろう。あやつはこのあたりのことはよくわかっとらんようじゃった。名前も聞き慣れん。」
「あれはどうだ!碧林門に酒が飲めないなんていうルールは聞いたことはないぞ。」
「あれは言い訳じゃ。うちらの酒に薬が入ってることを警戒しとる。」
「勘がいいやつらめ。酒じゃねえが、あそこの井戸の水に強ええ薬を混ぜておいた。一杯飲んだらイノシシが動けなくなる代物だぜ。」
「なに、余計なことをしおって!それを怪しまれたらどうするんじゃい。」
「じいさん!すみません、つい。。でもおかしい。あのちび女は言うまでもなく、二人の男どちらも大した武道の使い手には見えん。碧林門の弟子なら相当な使い手なはず。」
「その通りじゃ。4人とも体付きは武道を志すもののそれにも見えるが、立ち方からして初心者の初にも入らないじゃろう。4人はおそらく碧林門の新入りじゃ。門派が20歳を超える新入りを取るなんてことは聞いたことがないから確かに怪しいが、これも南疆の事情じゃろう。」
一息ついて、村長は続けた。
「柳というやつに関しては底知れぬ雰囲気が漂っていた。頭も相当切れるじゃろう。門派のなかでは軍師のような存在やもしれぬ。見くびってはならぬ。もう一つ無視できないのがあの二人の女じゃ。ありゃ相当なたまだ。わしゃこれまで60年生きてきたが、あれほど人の欲をそそる女はみたことがない。ありゃ碧林門のような名門のなかでも上玉に違いない。それも同時に二人じゃ。」
「それなら諦めてやつらを放っておくんか!?あの女二人を逃がすんか?」
博仁は少し間をおくと声を少し荒げて聞いた。
「そんなわけないじゃろう。わしはクナイを渡すと決めたときからもう後戻りはしないわい。わしの息子4人を殺した碧林門の連中どもめ、今日わが子の仇を返すんじゃぁ。」
村長の目はひどく歪み、かつてないほど嫌になるようなかすれた声で言った。