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仙の道  作者: たくあん
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古代中国

「なにがなんだかわからねえ。それに、さっきから古代中国っていうのはどういうことですか?」

しばらく状況を飲み込むのに時間をかけたあと、徹は聞いた。目眩はもうほとんど治ったようだ。


「はい、荒いですが、ここは紀元前20世紀から紀元0世紀の間の中国じゃないかと。ここ一帯の藁と木造の建物、石の井戸、土器を含む原始的な生活用品から、ここは現代社会にはまずないと思います。特別な観光のスポットか、あえて作られた場所なら別ですが。ぼくはさきほど厨房のような小屋にいましたが、白米の跡がありました。白米を主食とするのは主に東アジア、東南アジア一帯か、メソポタミア文明だけだと覚えています。ただ、決定的なのはこれとこれです。」

そういって蓮は小さい盃のようなものを片手に、もう片方の手には黒焦げになったなにかを持っていた。


「こっちは飲み物を盛るのに使っていると思いますが、赤みがかった光沢があるが、緑っぽい錆ができてる。硬さは純銅よりも若干やわらかい。これはおそらく青銅です。青銅は古代日本にもありましたが、伝来まもなく鉄に代わられているので、庶民に使われている時期はほとんどないとされています。けれども青銅といえば中国というだけあって、数千年に渡って庶民にも使われています。もう一つは肉の焦げた跡ですが、匂いからしておそらくこれはすっぽんですね。日本は海が豊かなので川のいきものを日常的に食べていたとしても少ないはず。中国の内陸は海から遠く、川のいきものをよく食べるもので、すっぽんはその一つだと覚えています。」

蓮は試しに二つのものをそれぞれ徹とののこに渡した。徹は青銅の盃を手に取り、ののこは黒焦げたすっぽんの肉片と言われるものを手に取った。


「すごい、よくわからないけど、古代中国にいるかもってことはわかった。橘さん、詳しいですね!歴史の学者さんですか?」

理解することを諦めて黒田は言った。


「いいえ、そんな大した者ではないです。受験で勉強したことが初めて使えましたね。」

そんなことを受験で勉強するのか、と徹は思った。徹も大学受験をしたが、青銅の年代とか、古代中国の生活など一ミリも勉強した覚えはない。専門の問題なのかと黒田は心の中で思ったが、それはいま大事なことではなかった。


「この短時間で推理したのですか?」

ののこも驚きを隠せなかった。この黒焦げたものがなんなのかはののこには検討もつかない。かと言ってすっぽんの肉じゃないとも言い切れない。少なくともこれがすっぽんだとわかるのは勉強で得られるような知識ではなかった。


「ただの当てずっぽうです。にしても、このままここにいるのはたぶんまずいです。」

蓮は返した。蓮が話し続けると見て二人は黙って聞き続けた。蓮は続けた。

「ここが本当に古代中国かどうかに関わらず、ここは誰かの薪の貯蔵部屋です。知らないひとがいたら盗賊と見られるでしょう。ここが古代ならなおさら、よそ者は殺されてもおかしくありません。」


「そうですね、ここから離れましょう。」

徹は同意した。


「はい、もう少し情報収集もしたいですし、移動したいですが、どこにいきましょうか。」

ののこはようやく持ってる木の枝を地面に落として聞いた。

この橘蓮というひとは特殊な人生経験を持っているか、なにか隠してるとののこは思った。

同時に、彼の言葉には不思議と説得力があった。はっきりしていないことは多いが、この人は信用できるような気もした。黒田徹に対しても同じく感じられた。それはののこの直感で、合理的に説明できるものではなかった。


「とりあえず山に入りましょう。あと2、3時間もすれば夕暮れです。理屈ではそろそろ村の人たちが仕事から帰ってくる時間です。急ぎましょう。」

蓮はそう言いながら小屋の外に出た。二人も蓮に続いた。


外は蓮の推測に引っ張られているかもわからないが、中国古代にありそうな山村で、周囲には見渡す限りの山とちらほら木造の家屋、家畜小屋、井戸などがあった。

家屋は一番高いものでも2階しかなく、特別栄えているわけではなさそうだった。南北に伸びた道は長い坂になっていて、南の方が山村のふもと、北は山の奥というような構造のようだった。ところどころ畑が広がっていて、典型的な農村といった具合だった。


三人は早歩きで山の奥の方に向かった。依然としてお互いに距離を保っているが、少し打ち解け始めている。お互いにいまの状況、これからの行動について話しながら慎重かつ素早く移動した。三人とも表情は晴れない。


「さっきは古代中国と言いましたが、なにかがおかしい。」

蓮は言い出した。

二人は不穏そうに蓮を見ながら聞いている。

「知らない植物が多すぎる。この竹林もそうだ。竹は竹だが、大きすぎる。直径が30cm弱もあって、ぱっとみ40mを余裕で超える。こんな竹は聞いたことがありません。それに。。。」

蓮がそう言ってるまさにその時に、異変が起こった。

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