第9話
寮の秋臣の部屋を出て歩き出す。
……照明、清潔さ、窓ガラスの均一さなど建物の大きさだけじゃなく目に入る全ての要素が前の世界を桁違いに上回っている。
それに俺が今着ているこの学園の制服や下着に靴もそうで、どう考えても前の世界なら王族や貴族が着るようなものだ。
ほぼほぼ戦場でしか生きていなかったため前の世界に思い入れなどないが、ここまでの文化・文明の違いというか差があると複雑だな。
まあ、秋臣の記憶を検索しても、これから行く場所こそ最も差を実感するだから覚悟を決めておく必要がある。
俺は内心でこれから戦場に行く時よりも気合を入れて寮の玄関を出た。
ゴミ1つ落ちていない道、素人目に見ても手入れの行き届いている街路樹や広場の芝、綺麗な水が流れ出る噴水などに驚きながら目的地に着いた。
「……ここが食堂か。わかってはいたが俺の知っている酒場を兼ねた大衆食堂とは比べ物にならんな」
前の世界で見た前線の拠点となる砦と同じくらいの大きさか。
秋臣の記憶によるとこの学園には万を超える異能力者の学生がおり、今俺が見上げている食堂は学園で1番大きい中央食堂と呼ばれるところで、学園に在籍している者なら誰でも利用できる速い・美味い・安いと評判らしい。
また、この中央食堂以外にも精霊級専用の食堂や教員・職員専用の食堂もあるらしいが、だいたいの奴らはここを利用するようだ。
いつまでも見上げていてもしょうがないから中に入るか。
玄関を抜けるとすぐに広々とした食堂内で大勢の人が食事をしているのと、大勢の人間がいるザワザワとした音が聞こえてきた。
仕切りのない大きな空間が広がる屋内、中の音が外に漏れない防音性、入り口の自動ドア、……こういうのに慣れて驚かない日が俺に来るのか心配になってくるな。
入り口近くにあるメニューを確認してから注文をするために空いているカウンターに行って、向こう側にいる職員の女性に呼びかけた。
「すいません。注文良いですか?」
「あいよ。って、あんたかい。大活躍だったね。見てたよ。もうケガは大丈夫なのかい?」
「はい、流々原先生に許可をもらいました」
「そうかい。それなら何よりだ。注文はなんだい?」
「うどんと豆の煮物とほうれん草のおひたしをお願いします」
「えらくヘルシーだね。そんなので足りるかい?」
「流々原先生に今日と明日は食べるなら消化の良い物をと言われているので」
「そういう事かい。わかったよ。少し待ってな」
「はい」
数分後、注文したメニューがカウンターに出てくる。
……見た目だけで料理の質が違うのがわかるな。
前の世界は、どれだけ低かったんだ?
いや、秋臣の記憶にもあるが、初めからこの世界も今の質だったわけじゃ無い。
単純に戦争続きで文化や文明の発展が致命的に遅れていたんだろうと考えれば、前の世界は今後に期待というところだな。
俺は手首にはめている学生証の決済機能を使って料金を払った。
席に移動しようとして職員の女性が俺の事を見ている事に気づく。
「何でしょう?」
「あんたは、これから苦労するだろうけど頑張りな」
「苦労ですか?」
「そうさ、見てみな」
職員の女性が俺の後ろを指差したから振り返ると、ザワザワしていた食堂内が静まり返り食事や会話をしていた奴らが俺を見ていた。
……視線に含まれる感情はほとんどが闘争心・敵愾心・嫉妬・憐憫・不信なんかの負の感情で、善の感情は興味・感心なんかは少しだな。
「出る杭は打たれるものだね。潰されたくなけりゃ突き抜けるしか無いよ」
職員の女性が真剣な助言を言ってくれたから、俺も真剣に返答する事にした。
「システィーゾより弱い奴には勝てますので大丈夫です」
「おや、大言を吐くねえ」
「システィーゾがこの学園の精霊級でも上位なのは、あなたも知っているはずです」
「まあねえ」
「僕とシスティーゾの決闘の結果をまぐれだとか偶然とか言っているんだと思いますが、目の前で起こった事実を認識できないような質の低い人達に負ける方が難しいですよ」
俺が言葉を発した瞬間に、俺と職員の女性の会話を聞いていた奴らの何人かが派手な音を立てて立ち上がり能力を放ってきた。
職員の女性の顔が引きつっているし、別の席の方から悲鳴が聞こえるので、さっさと対処する。
身体の力を抜いて素早く息を吸うと同時に振り向き黒い木刀を出現させて、俺に迫ってくる炎の弾丸・水の玉・雷・岩の塊・かまいたちなどを全て切り捨てていった。
……埃が舞うのを考えてなかったな。
まあ、外のテラスで食べれば良いか。
あっさりと対応した俺に唖然としている職員の女性にあいさつをして後、注文したうどんなどが乗っているトレーを持って外のテラスに出ていく。
…………一連の言動は秋臣らしくなかったか?
秋臣と話せるようになったら謝るとしよう。
それと今ぐらいの動きなら、激しい動きに入らないはずだから、流々原先生にバレても問題ない…………と思う。
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