第8話
何かをしてきたクソ野郎をにらみつつ、俺はゆっくり立つ。
…………自己診断だが吹っ飛んだ割に身体の芯に残るような被害はなく、梓の匂いみたく感覚に鈍りは起こっていない。
どうやら本当にただ対象を吹っ飛ばす異能力みたい…………いや待て。
俺の蹴りを受け止めたのも同じ異能力なのか?
単純に別々のものか、それとも一つの異能力を複数の形態で使い分けられるのか?
最悪の想定としては、何種類もの異能力を持ちながら各異能力をうまく使いこなしている奴だな。
「ふははははは‼︎ ずいぶんと考え込んでいるようだが、葛城ノ剣である我の力の一端を味わった気分はどうだ?」
「まあ、便利だな」
「ふはははははははははっ、そうであろう‼︎ よく聞け‼︎ 我の力である吸収と放出だ‼︎ 剣に生じた衝撃を蓄積し自在に放出するというものだが、最大の強みは放出の自由さだ‼︎」
「…………」
何で、こいつは前のめりで自分の異能力を話し始めたんだ?
俺がそんな事を考えていたら、クソ野郎は剣を光らせ俺のいない方へ無造作に剣を振った。
すると、ブォンという音と共に剣の刃から光の斬撃が飛び、石の舞台の床をえぐっていく。
「攻撃に使えばこの通り、そして防御に使えば」
今度は剣を光らせたまま胸の前に持ってきて構える。
そして、フンッと気合を入れると剣の刃から光が広がり、クソ野郎の身体を卵の殻のように包んだ。
「この通りだ」
「それで、さっきの俺の蹴りを防いだのか?」
「そういう事だ。しかし、蹴りを防がれたのを嘆く必要はない」
「何?」
「我の光で蹴りを防がれたという事は、それだけお前の放ってきた斬撃に威力があったという事だからな。むしろ誇るが良い‼︎」
…………ここまではっきりと説明されたら、逆に別の何かがあると考えてしまう俺はひねくれているんだろうか?
いや、間違いなくクソ野郎の説明には嘘がある。
例えば……。
「その光に意味はあるのか?」
「ほう、なぜそう思う?」
「さっき俺の蹴りから身を守った時は光ってなかった。だから、今はわざわざ光らせていると考えただけだ」
「ははは、ふはははははは‼︎ やはり気づいたか‼︎」
「チッ、やっぱり無意味な説明かよ」
「いやいや、無意味ではないさ。なぜならお前に分析力があると、これでわかったのだ。これからは我の力を理解できぬよう一方的に攻めてやろう‼︎」
クソ野郎の事は心底気に入らないものの、ただの考えなしじゃなく相手の力を見極めるだけの知恵があるから脅威度を上方修正しておく。
俺の戦い方に加えて、衝撃の吸収と放出、それに光を発する。
さて、あとは何があるんだろうな?
◆◆◆◆◆
俺達の戦いが再開して十数分経過した。
まあ、当然と言えばおかしいが、圧倒的に俺の不利な状況となっている。
まず衝撃の放出は、横笛の乱節とは違い本当に予備動作をせずにしてくるため極めて避けづらい。
また吸収した分を放出しきるのを狙おうと回避に徹しても、クソ野郎は自分で剣の刃を叩いたり石の舞台の床を砕くほど打ちつける事で、衝撃を生み出し吸収し続けている。
そして最後にして一番俺が不利な点は、クソ野郎は秋臣の記憶から俺の戦い方をわかっていて、俺と同じくらいの速さで動けている事だな。。
今までの奴らは速さで上回って、全て斬り捨てられていたからどうとでもなっていたが、それをできないのはなかなか辛い。
「ふはははははは‼︎ どうした? 避けるだけでは我に勝てんし、大事なものを取り戻せんぞ⁉︎」
こういう煽りを忘れない点も腹が立つ。
しかし、俺が怒りに任せて攻撃しようものなら敏感に察知して衝撃の放出による壁を作り、いつでも強烈な光を発せられる用意をする。
…………このままだと一方的に追い詰められるだけか。
俺は、チラッと周りを確認してそろそろいけると判断したため、立ち止まってからクソ野郎に向かって集中を高めつつゆっくり歩き出した。
「……おい、何を考えている?」
「…………」
「答えぬか。まあ、良い。的が止まっているのなら狙うだけ、だ‼︎」
クソ野郎は俺の様子を怪しんでいたものの何かに納得してから剣を振り衝撃を放出してきたので、俺は二歩横にズレて衝撃を避ける。
「偶然……か? 良いだろう。確かめてやる‼︎」
どうやら剣の振りで俺に衝撃の軌道がバレたと判断したらしいクソ野郎は、胸の前に剣を構えたまま無数の衝撃を放ってくる。
量から考えると、今吸収している衝撃の半分以上を使った攻め方だな。
何にせよ俺にとっては好都合だ。
放出された衝撃の隙間を縫うように歩き、クソ野郎へ近づいていく。
お、自信のあった攻め俺に避けられて唖然としているクソ野郎の顔がよく見える。
「バカな……。なぜだ? は、まさか⁉︎」
クソ野郎は何かに気づいたようで自分を包む衝撃を放出してから、ジッと観察していた。
そして数瞬後に俺を鋭い目でにらむ。
「我の放出する衝撃の軌道を空気中に漂う埃で見ていたのか」
「それもある。始めは本当にわからなかったが、お前が何度も石の舞台の床を砕いてくれたおかげで見えるようになった。感謝する」
「く……、それならば、これでどうだ‼︎」
カッ‼︎
クソ野郎は俺に向けて手を伸ばすと、掌から強烈な光を発した。
埃の動きの変化の何もかもを光で見えなくしてしまおうという考えらしい。
待ちに待った瞬間がようやく来たと小さく笑った後、辺りが白く染まった中身体を前に倒して床スレスレを滑るように突き進み、クソ野郎の足もとへと最接近する。
ゴキンッ‼︎
「ぐわっ‼︎」
よし、クソ野郎の片足を砕いた感触が木刀越しに伝わってきた。
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