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一度死んだ男は転生し、名門一族を追放された落ちこぼれの少年と共存する 〜俺はこいつが目覚める時まで守り抜くと決意する〜  作者: 白黒キリン
第5章 異世界の男は斬る

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第33話

 システィーゾと(りん) 麗華(れいか)の攻撃が押し潰されたのを見て、俺と秋臣(あきおみ)は驚いていた。


『光ってますが、あの炎と氷は僕の勘違いじゃなければ……』

『ああ、今まで何度も見たから間違いない。あの光る炎と氷はシスティーゾと(りん) 麗華(れいか)のものだな』

『ですよね。それにクレーターの底の方から放たれたという事は』

『異能力図鑑がシスティーゾと(りん) 麗華(れいか)の異能力を記録して使えるようになったって事だ』

『お、落ち着いてください』

秋臣(あきおみ)、悪い』


 システィーゾと(りん) 麗華(れいか)の異能力を使われたという事実にイラつき、俺は殺気をあふれさせる。


 しかし、すぐに秋臣(あきおみ)が俺をなだめたため冷静さを取り戻せた。


秋臣(あきおみ)君、今の殺気は鶴見(つるみ)君のものかしら?』

『そうです。システィーゾと鈴先輩の異能力を使われた事に怒ってます』

『おい、秋臣(あきおみ)⁉︎』


 秋臣(あきおみ)流々原(るるはら)先生に俺の事をしれっと説明しやがった。


鶴見(つるみ)君が少なくとも怒れる状態だとわかって良かったわ。秋臣(あきおみ)君、鶴見(つるみ)君に身体のケガは、あと少しで完治すると伝えてくれる?』

流々原(るるはら)先生、表に出ていなくても外の事は僕の感覚を通してわかっているので大丈夫です。このまま言ってください』

『あら、そうなの。それじゃあ、鶴見(つるみ)君、才歪(さいびつ)からあなたにかけられた衰弱を解く事はできていないわ。秋臣(あきおみ)君の身体を治してながらいろいろと解析してみたけど、やっぱり衰弱を施した才歪(さいびつ)本人をどうにかするしかなさそうっていうのが結論よ』


 えぐられた内臓がこの短時間で治るとは、やはり本職の治癒術は心強い。


 そしてそれと同時にその本職である流々原(るるはら)先生でも対処できない才歪(さいびつ)の異能力の厄介さをも味あわされている。


 追い込まれていたとは言え、才歪(さいびつ)の攻撃を受けてしまったあの時の俺自身が原因だから誰にも怒りをぶつけられない。


 あー……、つくづく情けなさ過ぎる。


『どう? 鶴見(つるみ)君には伝わったかしら?』

『はい、大丈夫です。今は少し落ち込んでるみたいですが、長く引きずる性格ではないので安心してください』

『おい、秋臣(あきおみ)‼︎ 俺の事を細かく説明するんじゃねえ‼︎ それよりもシスティーゾ達が大丈夫か聞け‼︎』

『あはは、ごめんなさい。学園長、システィーゾ達は大丈夫なんですか? 異能力図鑑さんの手札がまた増えたんですよね?』


 こういう状況じゃなかったら秋臣(あきおみ)と気軽なやりとりができている事に嬉しさを感じるんだろうが、今はそれどころじゃない。


 状況が動き続けている今を黒鳥夜(くろとや) 綺寂(きじゃく)はどうとらえているのか確かめるため、秋臣(あきおみ)の感覚を通して黒鳥夜(くろとや) 綺寂(きじゃく)を見たら意外と言えばおかしいが落ち着いていた。


『正直に言えば異能力図鑑に私達の異能力を盗られる前に決着をつけるのが理想ではありました』

『学園長……』

『異能力図鑑に新たな力を与えてしまうという悪い展開にはなってしまいましたが、決して最悪ではありません。システィーゾ君達はまだ異能力を使えているので戦力は今までのまま。こちらに(たける)がいるという事を考えれば、異能力図鑑側が強化されたぐらいなら許容範囲です』


 …………まあ、黒鳥夜(くろとや) 綺寂(きじゃく)の説明は納得できるか。


 このまま状況をジッと見ているよりかは俺も何かするべきだな。


秋臣(あきおみ)、俺は表に出れた時のために研ぎ澄ます。集中するから、もし状況が大きく動きそうになったら教えてくれ』

『わかりました。今は任せてください』

『おう、頼む』


 俺は秋臣(あきおみ)答えた後、奥底で片膝を抱えるように座り目を閉じた。


 すぐ近くで俺を見ている葛城ノ剣(かつらぎのつるぎ)の視線を感じるが、それも無視して呼吸を深く深く繰り返す。


 ただただ己を一振りの剣とするために……。


◆◆◆◆◆


 クレーターの底から放たれた光る炎と氷は、次の瞬間に消えた。


 そしてその数瞬後、今度は光る竜巻がクレーターの底から立ち昇る。


 全く攻撃の意思を感じられないこの竜巻に何の意味があるのかわからなかったものの、光る竜巻の中を異能力図鑑と才歪(さいびつ)が浮き上がってきたのを見て理解した。


「チッ、新しい手札を手に入れてはしゃいでるだけかよ。舐めやがって‼︎」

「はっはっは、君達からすれば確かにそう見えるだろう。だが、我輩にとっては、ようやく訪れた待ち望んだ瞬間なのだ。はしゃぐくらいは多めに見てもらいたい」

「消し飛べ‼︎」

「ふむ、先ほどぶつかり合った結果を忘れているらしい」


 俺はのんきに話している異能力図鑑に向かって全力の炎を放ったが、俺の炎は光る竜巻の外側に生まれた光る炎の壁で防がれてしまう。


「…………さっきのは、たまたまじゃなかったわけか」

「その通り‼︎ 我輩は君達四人の異能力を我輩の図鑑に吸収登録した事で、まず君達の異能力を半分ほどの出力で扱えるようになった。さらに精霊級(エレメンタル)の異能力を四つも登録できたため、我輩の図鑑は強化されこれまで不可能だった事をできるようになっている‼︎」


 異能力図鑑の今までで一番大きな動作と声が、どれくらい興奮しているかを表していて本当にウザい。


「この光る炎や竜巻は、我輩の光の異能力と君達の炎と風の異能力を合わせたもの。つまり我輩は二つの異能力を融合させ威力をはね上げる事ができるようになったのだ‼︎ この後、黒鳥夜(くろとや) 綺寂(きじゃく)の異能力を記録した時にどうなるかが楽しみである。ふは、ふははははははははは‼︎」

「愚かだな」

「…………何?」

「聞こえなかったか? 愚かだと言ったんだ。それに加えてくだらないとも思っている」

「ほうほう、我輩を愚かと言うか。それなら、なぜそう思ったか説明してくれるかね?」

「良いぞ。説明も体験もさせてやるよ」


 バチンッ‼︎


 龍造寺(りゅうぞうじ)が指を弾くと、異能力図鑑の生み出した炎と竜巻が形を失っていく。


「おおおう‼︎ 我輩の炎と竜巻が……」

「お前の図鑑から発生した炎と風にお前の光が混ざっていても、システィーゾ君の炎や|風夏(ふうか)《いりはね》さんの風と同じものなら俺は消せる」


 あ、身体を浮かせていた竜巻が崩れた事で空中に放り出されたが、すぐに才歪(さいびつ)によって身体を支えられその後クレーターの外へ飛び出した。


「自分の異能力の事は本能的にある程度わかるとは言え、どんな副作用が起きるか実際に使ってみないとわからない面もある。それにも関わらず絶対的不利な状況にまで追い詰められたわけでもないお前が、嬉々として新たな手札を使うのは愚か以外の何ものでもないだろう?」

「貴様……」

「…………挑発ニ乗ラナイデ」

「挑発? 違うな。単なる事実だ。才歪(さいびつ)、お前も少し考えればわかる事を見逃して異能力図鑑に新たな手札を切らせている。口先だけの薄っぺらい制止は白々しいぞ」

「「…………」」


 異能力図鑑と才歪(さいびつ)の視線と意識が龍造寺(りゅうぞうじ)の間違いなく挑発だろう発言で俺からそれた。


 できるだけ静かで発動速度の速い攻撃を準備し放つ。


 ズドン‼︎‼︎


 直撃して爆音と土煙が起きた……が、煙の間から見えたのは光る炎の壁。


「無駄だと言うのが理解できないのか? 少年の炎は我輩に意味をなさんよ」

「クソが……」

「システィーゾ、そのまま異能力図鑑への攻撃を続けろ」

「あ?」


 龍造寺(りゅうぞうじ)の何一つ動揺していない淡々とした声が聞こえ振り向いたら、龍造寺(りゅうぞうじ)は異能力図鑑へ指先を上にしたままの右腕を伸ばしていた。


「システィーゾ、聞こえなかったか? 続けろ」

「お、おう‼︎ おらあっ‼︎」

「何度やっても少年の炎だけでは無意味だ‼︎」


 バチンッ‼︎


 異能力図鑑が迫ってくる俺の炎を防ごうと光る炎の壁を展開した時、龍造寺(りゅうぞうじ)は指を弾く。


 すると、異能力図鑑の光る炎の壁は揺らめいていたその動きを止め、ただの光の壁となった。


「な⁉︎ うぐおおお‼︎」

「…………異能力図鑑⁉︎」

「お前の光る炎の壁はシスティーゾの炎を防げる。それなら俺が光る炎の壁から炎を消し去れば良いだけだ」

「お、おのれ……」


 光の壁をぶち破った俺の炎の直撃を受けた異能力図鑑は、吹き飛んで数回地面を跳ねた後少しふらつきながら立ち上がる。


 …………チッ、俺の炎が直撃した割にあんまりダメージを受けてないな。

 

雷門(らいもん)さん、風夏(ふうか)さん、(りん)、システィーゾ、異能力図鑑はみんなの異能力を吸収した事で、雷、風、氷、炎に耐性ができている。そのおかげでシスティーゾの炎をくらっても俺をにらんでこれるくらいの軽傷で済んでいるわけだが、やはり四人が持っている本来の耐性にはほど遠い。加えて俺が異能力図鑑の防御を乱せば奴は四人の攻撃を防ぐ事は不可能。このまま畳み掛ければ倒せるから攻撃を続けてくれ」

「そういう事か。全力でやってやるよ‼︎」

「会長、了解しました」

「はっはっはっ、わかりやすくて良い‼︎ なあ、風夏(ふうか)⁉︎」

「同感です」


 俺と(りん)が腕を、雷野郎と風女が全身を精霊化させいっせいに攻撃を浴びせていく。


「ヌオオオオオッ‼︎ なめ、るな‼︎」

「今度は重力と(りん)の氷を合わせた超重量、超硬度の氷か。その防御力には目を見張るものがあるだろう。しかし無駄だ」


 バチンッ‼︎


 再び龍造寺(りゅうぞうじ)が指を弾くと、異能力図鑑と才歪(さいびつ)の周りを覆っていた氷は崩れ二人へ俺達の攻撃が殺到した。


 ズドーーーーンッ‼︎‼︎


 …………よし、重力で俺達の攻撃の軌道がそらされたとしても、あの至近距離で炸裂したなら絶対にダメージを受けているはずだが、俺はここで攻撃を緩める必要はないと判断して、さらなる追撃をしかける。


「はあっ、うおっ⁉︎」

「きゃあっ⁉︎」


 まさに追撃を放とうとした瞬間、身体をぐいっと強く引っ張られて追撃を中断してしまう。


 ブレた視界が安定したため何が起こったのか見回すと、俺と(りん)は雷野郎に抱えられていた。


 そして、すぐに雷野郎の腕から抜け出そうとしたら俺と(りん)のいた辺りの土煙がバンッと弾ける。


「…………俺と(りん)は反撃されたのか」

「さっきの俺達の攻撃を受けても反撃されるとは思わなかった。ギリギリの回避になったのは許せよ」

武鳴(たけなり)隊長、ありがとうございます」

「悪い、助かった」

「おう。それよりおろすぞ。あいつらから目を離すな」


 土煙が晴れて見えてきたのは、服が焼け焦げ片膝をつきながら肩で息をしている異能力図鑑と、パッと見無傷でいつでも攻撃するために構えている才歪(さいびつ)


 俺達の攻撃を受けたにしてはダメージが少ないのは龍造寺(りゅうぞうじ)の言っていた通り炎、氷、雷、風への耐性ができているからだとして、才歪(さいびつ)が無傷なのはどういう事だ?


「…………異能力図鑑、助がっだわ」

「とっさに光と重力を合わせた壁をお前の周りに作れた自分が誇らしいのである。才歪(さいびつ)、今の我輩達に不利な状況を覆す手段は一つ。頼めるか?」

「…………任ぜで。私が龍造寺(りゅうぞうじ)を始末ずるわ」


 なるほど、身体を張って才歪(さいびつ)を守ったわけか。


 そうまでして残した対龍造寺(りゅうぞうじ)の手札である才歪(さいびつ)がグッと腰を落として力を溜めた。


 一目で俺は才歪(さいびつ)が一気にこっちへ近づき龍造寺(りゅうぞうじ)をしとめるつもりだと判断して、攻撃対象を異能力図鑑から才歪(さいびつ)に変えようとする。


 しかし、龍造寺(りゅうぞうじ)から待ったがかかった。


「システィーゾ、さっき俺は異能力図鑑への攻撃を続けろと言ったはずだぞ」

「はあっ⁉︎ 龍造寺(りゅうぞうじ)、お前の異能力は才歪(さいびつ)に効きづらいんだろ⁉︎ 今てめえがやられるのは困るんだよ‼︎」

「…………何を勘違いしてるんだ、システィーゾ」

「何だと⁉︎」

「俺を守るのはお前じゃない。吾郷(ごきょう)学園の生徒会を舐めるな。みんな、俺を守ってくれ」

「了解‼︎」


 生徒会書記の奈綱(なづな)が掌と拳を打ち合わせながら答えたと同時に、生徒会の奴らは龍造寺(りゅうぞうじ)の前に出て陣形を組む。


 うん? 生徒会会計の斗々皿(ととさら)は定位置なんかないと示すようにフラフラ歩いている?


 疑問しかない陣形だが、龍造寺(りゅうぞうじ)があの先頭は奈綱(なづな)でその少し後ろに荒幡(あらはた)、副会長は龍造寺(りゅうぞうじ)の右隣に並びつつ斗々皿(ととさら)がフラフラ歩いているという陣形に何も言わないなら意味はあるんだろう。


 俺が一人で納得していたら、才歪(さいびつ)は動きを止めた。


「…………私の目的ば龍造寺(りゅうぞうじ)だげ。あなだ達にば無理」

「そういう事は私達を倒してから言った方が良いわよ?」

「…………後悔じなざい」


 くそ、絶対に注意するべきなのは異能力図鑑なのに、生徒会が才歪(さいびつ)とどう戦うのか気になってしょうがないぞ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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