第14話
老人を担いで吾郷学園へ戻ると、ちょうど影のドームの中から出てきた流々原先生と聖副隊長の入羽 風夏について来るよう言われたため、俺は影のドームを抜けて敷地内へ入った。
そのまま学園長室へ直行すると学園長の黒鳥夜 綺寂を始めとした主要な奴らがおり、入口近くにいた聖の隊員二人へ未だに痙攣している老人を渡すと二人は老人に拘束具をつけていく。
俺はいくら物理的に拘束したところで異能力を使われたら意味はないだろうと思っていたら、少女姿の香仙が老人に近づきものすごく濃い桃色のもやを大量に発生させた後、それを老人の鼻から体内へ流し込んでいった。
「香仙、何をしているんだ?」
「私の香りで、こいつに異能力を使えないっていう強烈な暗示をかけているところよ」
「ああ、なるほど。だが、それなら拘束具は必要だったのか?」
「私の香りの効力を異能力を使えない暗示へ集中させるためね。前から重要な情報源を捕まえたらこうしようって綺寂と話し合って決めてたの」
俺が香仙の言葉を確かめるために視線を向けると、黒鳥夜 綺寂は軽くうなずき返してきたから本当らしい。
まあ、最高責任者が許可しているなら俺の言う事は無いなと納得していたら、唐突に学園長室内にボゴンッという打撃音が響き渡る。
音の発生源は俺のすぐ近くで、見ると香仙が袖口から取り出しただろう身の丈ほどの棍棒を老人へ振り下ろしていた。
あまりに意外だったため俺を含めた学園長室内にいた全員が唖然としていたら、香仙は怒りと憎しみに染まった顔で何度も棍棒を振り下ろしていく。
そのまま棍棒が数回振り下ろされるのを見てから、まずいと正気に戻った俺は香仙の棍棒をつかんで止める。
「最初にそいつをぶちのめした俺の言う事じゃないが、それ以上はそいつの命に関わる」
「ふー、ふー、…………頭を冷やしてくるわ」
「気を紛らわせるために動きたいなら模擬戦に付き合うぞ?」
「……一人になりたい気分だから良い」
香仙のはっきりした口調から、とりあえずやけになっているとか何かで混乱させられているわけではなさそうなので、俺達はそのまま学園長室から出ていくのを見送った。
◆◆◆◆◆
さすがに重要な情報源の老人をこのままにしておくわけにはいかないため流々原先生がサッと治療を済ませ、ひとまず寝かせておいても問題ないくらいまで回復させる。
…………それにしても、香仙の顔がすごかったな。
よっぽどの事情があるんだろうが、誰だって話したくない事の一つや二つはあるだろうから聞くほどでもない。
それよりも今は襲撃の内容を把握する方が重要だと判断して、近くにいる鈴 麗華へ話しかける。
「俺がここから飛び出していった後、どんな風に襲撃されたんだ?」
「…………」
「どうした?」
「それが、本当に突然だったからよくわかってないの」
「うん? 黒鳥夜 綺寂の影を通じた感知でもわからなかったのか?」
思わず黒鳥夜 綺寂に顔を向けたら、学園長室内の影が激しく波打った。
…………今回の襲撃は黒鳥夜 綺寂にとって、かなり不本意なものだったらしい。
いや、問題なのはそこじゃない。
「時間的に考えて俺がこの部屋を飛び出した時には、すでにあいつらは学園の周りにいたはずだ。それなのに俺も黒鳥夜 綺寂も気づかなかった?」
「その点については心当たりがあるわ」
「心当たり?」
「そう、鶴見君がこの部屋を飛び出す前に全国で異能力の消失が五件確認されたと言ったわね」
「そうだな」
「その内の一人は精霊級で、あらゆるものを隠す事ができる異能力者だったのよ」
「…………つまり、どうやったかわからないが、敵は他人の異能力を奪って自分達で使えるようにしていると?」
「あくまでも可能性の話だけど状況的には合ってるわ」
俺は紋綴りが言っていた事を思い出した。
「そういえば俺が戦った奴は葛城ノ剣と同類だったが、そいつは我らのような人の器に干渉できる存在と言っていた」
「いろいろ気になるところはあるけれど、まずは鶴見君の方の状況を聞かせてもらえるかしら」
「あ、悪い。忘れていた」
報告を怠っていた事を謝ってから俺は対象を強化する紋様を描ける筆の紋綴り、メイドで頑丈な糸使いのフレア、ポストっぽいアルコール使いのシンヤ、警官で銃弾を生み出し軌道を操る烏丸、二人で閉鎖空間を生み出す彼方と此方の六人について説明する。
そして俺の説明が、どうやって閉鎖空間を抜け出し学園まで戻ってきたのかに移ると学園長室内にいた全員が驚いた顔になった。
「鶴見……、お前、空間を斬ったのか?」
「そうだが、それがどうした? システィーゾも邪魔な敵は消し飛ばすだろ」
「炎で敵を消し飛ばすのと空間を斬るのをいっしょにするなよ……」
「そうか? 本当の空間を斬るのはまだまだ難しいとは思うが、異能力者の生み出した人工の人造の空間が斬れないと、なぜ思うんだ?」
「う……」
「まだまだ自分の異能力に確信が持てないみたいだな。自分の炎ならどんなものでも絶対に焼き尽くせると確信できるまで鍛錬すれば良い。話を紋綴りに戻すぞ」
「そうね。気になるのは「我ら」ね」
「紋綴りの言っていた人の器に干渉できるもの、それが他人の異能力へ干渉できるものという意味なら、まず異能力を強化できる紋綴りが一人目、次に異能力者から異能力を奪っているらしい奴で二人目……だよな?」
「そうね。たぶん他にもいそうだけど、その情報については、ね?」
黒鳥夜 綺寂が床に倒れている拘束された老人を見ながらの言葉を聞いた全員がうなずいた後、尋問で役に立てない俺は黒鳥夜 綺寂の許可を得て学園長室から出る。
俺が移動した先は学園長室よりも高い場所である中央棟の屋上だ。
この場所に来た理由は二つで、一つ目はここならどの方向で何か起こっても飛び降りて最短最速で向かいやすいため。
そして二つ目は……、ここに学園長室から出ていった香仙の気配があるからだ。
一応、香仙の一人になりたいという意思を尊重して香仙とは反対側の屋上の端に座る。
…………よし、影のドーム越しでも学園周辺の気配は探れるな。
改めて俺を外と断絶させた彼方と此方の閉鎖空間のすごさにうなりつつ、俺は目を閉じて気配の感知に集中した。
◆◆◆◆◆
気配の感知を始めて十数分が経過した頃、一つの気配が俺に近づいてきて数歩離れたところで立ち止まったので、目を開け顔を向ける。
「もう良いのか?」
「だいぶ頭は冷えたわ」
「そうか、それなら香仙がいた方が尋問もはかどるはずだから学園長室へ戻れ」
「また、あいつに暴行を加えるかもしれないのに?」
「プライドの高いお前は、これ以上の醜態を見せずに冷静にやれるだろ?」
「くす、私の事、よくわかってるじゃない」
「さっさと行け」
「私とあいつの間に何があったか聞かないの?」
「俺は秋臣を守る事が最優先で、他の事は基本的にどうでも良い。それと……」
「それと?」
「必要だと判断したらお前の方から話す判断をする経験値は持ってるだろ。流々原先生の師匠になるくらい長く生きてるみたいだし、な」
香仙が両腕を俺へ突き出すと、袖口から短刀が何本も撃ち出されてきたから座ったまま両腕を加速させ全てつかんで放り捨てた。
「いくら戦場育ち野蛮人でも女性の年齢に関する事を言わないくらいの常識を身につけた方が良いわよ?」
「覚えておく。だが、その野蛮人から言わせてもらうと年上なら年上らしい余裕を見せろ」
「「…………」」
「ふん‼︎」
俺と香仙は数瞬にらみ合った後、香仙が勢い良く身体をひるがえし俺から離れていく。
ふむ、あれだけ力強く歩けてるなら落ち込みが消えたか、とりあえず隠せるくらいには小さくなったようだと納得し、俺は再び目を閉じて気配の感知に集中した。
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