第9話
あの空間系と治療系の半端な異能力者になったのが吾郷学園に入学のと同じ頃だったなら、それはあの二人が器物級だった時から敵に監視されていたか、吾郷学園の内部か近くに敵の目があるって事だ。
敵が器物級異能力者の中からどういう風に選び出しているかわからないものの、確実に秋臣は敵の目にさらされていたと言える。
つまり、秋臣が敵に選ばれて半端な異能力者になって敵に使いつぶされた場合もあったって事だよな?
……………………………………………………秋臣を害する奴らを探し出して全部斬るか。
これからの方針を決め顔を上げると、黒鳥夜 綺寂を始めとした学園長室にいる俺以外の奴らが異能力を発現させ戦闘態勢になっていた。
しかし、今の俺にとっては本当にどうでも良いため学園長室の扉の方へ振り向いたら、システィーゾと鈴 麗華と流々原先生が俺と扉の間に割り込んだ。
明らかに俺の行動を邪魔するつもりとわかりイラつきから、さらに殺気を強めたが三人は顔を引きつらせながらも扉の前から動かないし、黒鳥夜 綺寂、武鳴 雷門、入羽 風夏、香仙も異能力を解除しない。
「…………お前らどういうつもりか知らないが、どけ」
「どけるわけがねえだろうが……」
「ああ?」
「システィーゾ君の言う通りよ。今の鶴見君を好きにさせるわけにはいかないわ」
「それはまるで俺が何をするつもりなのかわかってる感じだな?」
「秋臣君を守るために暴れるつもり、よね?」
「違うな。暴れるつもりはない」
「え……? それじゃあ何を……?」
「探し出して細切れするつもりだ」
俺がそう言った瞬間、俺を香りと氷と影が包んだ。
…………なるほど、まず香仙の対象を眠らせる香りで俺を包み、さらに鈴 麗華の氷で香りを逃げないように圧縮しつつ俺の可動範囲を物理的に制限、そして最後に黒鳥夜 綺寂の影で氷を補強か。
おそらく圧倒的な殲滅力を持つシスティーゾや武鳴 雷門でも瞬時に対応できなければ刹那で無力化されるだろう三重の拘束だが、今の俺には無意味だな。
俺は三重の拘束を斬り捨てるという意思を込めながら強めので殺気を放つと、香り、氷、影の全てがバラバラになり霧散して消えた。
「形のある私の氷が破られる事は予想してたけど……」
「嘘……、私の香りが……」
「動かずに私の影までも……」
「前、蔵宮 霞を護衛した時にカスどもから妙な呪いを受けた事がある」
「それを……どうしたのかしら?」
「殺気を集中させて相殺させた」
「そんな事が……」
「質の悪い呪いを殺気で殺せるなら、お前らの異能力で生み出されたものでも同じ。それよりもだ。どうあっても俺の邪魔をするって事で良いんだな?」
俺が黒い木刀を出現させると全員の緊張感が一気に高まる。
「「「「「「…………」」」」」」
「よし、わかった。覚悟し……」
「つ、鶴見君……?」
今まさに俺対黒鳥夜 綺寂達の戦いが始まろうとしていたら突然俺の動きが止まったため、全員が困惑した顔になった。
だが、俺にとっては黒鳥夜 綺寂達よりも重要な存在が出現したからそれどころじゃない。
「おい、香仙」
「何よ……?」
「お前が香りを使って調査していたのは学内だけか?」
「…………そうだけど、それがどうしたの?」
「俺の殺気に耐えた奴がいた」
「異常なあなたの殺気にも耐えられる人はいるかもしれないじゃない」
「その耐えた奴は、一瞬俺へ敵意を向けた後に気配を隠しながら今も離れていっている」
「鶴見君、吾郷学園の学園長として命じます。あなたが怪しいと思った人を捕まえてきなさい」
「学園長⁉︎ それは……」
「はっきりとした敵の情報も狙いもわからない中で現れた存在なのよ? 多少の強引さには目をつぶるわ」
「「「「「…………」」」」」
黒鳥夜 綺寂の言葉にシスティーゾ達からそれ以上の反論は出なかった。
どうやら俺の行動は邪魔されないらしいと確認した俺は、学園長室の窓へ近づきそのまま窓の外へ飛び出す。
「鶴見⁉︎」
「「鶴見君⁉︎」」
地面へ落ち始めるとすぐにシスティーゾ達の慌てた声を耳にしたが、無視して音と色のない世界へ入り校舎の壁を蹴る。
そして他の校舎の屋上や壁、さらに学園内にある樹木や街灯を足場にして跳び続け体感十秒ほどで学園の外壁を超えると、今度は学外の建物の屋根を足場に高速で移動していった。
◆◆◆◆◆
音と色のない世界に入ったまま移動する事、だいたい三分くらいか?
俺が学園長室で感じた怪しい奴のいた場所付近に着いたため、周辺で一番高い建物の屋根に上がった後に音と色のない世界を解き周りの気配を全力で探った。
学外にいる人々の動きがぎこちないのは、学園長室で放った俺の殺気を感じたせいだとして……………………あいつか。
そいつは明らかに俺を意識していて離れながらも俺の方をチラチラ見ている。
向こうも俺に気づいていると、さてどう近づくべきだ?
俺は数瞬考えてから、前の世界で夜に敵陣へ奇襲をするために潜んでいた時を思い出して気配を消した。
お、向こうが俺の気配を感じ取れなくなり不自然じゃない程度に慌てている。
俺のこのほぼ使わない技術も捨てたものではないなと満足しながら建物の屋根を静かに移動していく。
そして完全に俺を見失っている奴を見下ろせる位置までくると、あいつの視線が俺と真逆へ向いている時を狙って飛び降り壁や看板なんかで減速しながら無音で着地した。
すると、空気の乱れを感知したのか、素早く身体を回転させ俺へ裏拳を放ってくる。
なかなかの動きだが驚くほどではないため、俺はスッと半歩下がり避けた。
見た目を含めていろいろ興味が湧いてきたから、こいつからどんな話を聞けるか楽しみだ。
頼むから中途半端であってくれるなよ。
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