第6話
さて、この自滅した器物級から精霊級になった奴の治療を流々原先生に頼もうとしたら、俺の事を引きつった顔で見ている参加者の間から一人の女子生徒が出てくる。
「哲君‼︎ 今治すからしっかりして‼︎」
器物級として呼ばれているはずの女子生徒の口から出た治すという言葉を疑問に思っていると、走り寄った女子生徒は自滅した奴の胸に触れた。
そして女子生徒が歯を食いしばり両手に力を籠めたら彼女の手が光り始め、その光は自滅した奴の胸の傷に浸透していく。
「…………出血が治まってきて顔色も良くなってきている。なるほど、あなたもその人と同じで本当なら器物級では使えないはずの治癒の力を与えられたんですね」
「哲君は強くなるためにずっと鍛えてた……。でも、全然成果が出なくて……」
「それで誰かの誘いに乗ったわけですか」
「強くなろうとする事の何が悪いのよ⁉︎ 私だって誰かの役に立てる異能力がほしかっただけ‼︎」
「それ自体は何も悪くはありませんが、非合法な手段に手を染めた事は絶対に認められません。なぜなら、強力な異能力を持っていなくても違法に走らない人達がバカを見る事になるからです」
俺がはっきりと拒絶したら女子生徒は下を向いてしまった代わりに、女子生徒から哲と呼ばれた奴が治療されている状態で俺をにらんでくる。
「だったら、どうしたら良かったんだよ⁉︎ 一生、器物級で惨めな思いをしろっていうのか⁉︎」
「自分の事を惨めに思うかどうかはあなたの自由です。どうすれば良かったのかと疑問に答えるなら、こう答えましょう。自分を信じて鍛錬を続けるべきでした。そうすれば絶対に強くなれましたよ」
「気休めの嘘をつくな‼︎ そんな事で精霊級に勝てるようになるわけがないだろが‼︎」
「いえ、必要な鍛錬をして理想的な状態になれれば勝てるようになります」
哲は俺の断言を聞き反射的に起き上がろうとしたものの、治療中で無理に動いたため治りかけの傷が開きその痛みで身体をけいれんさせた。
「哲君、動かないで‼︎ それと今の言葉は撤回して‼︎」
「なぜです?」
「その言い方だと、まるで哲君が途中で挫折したみたいじゃない⁉︎」
「そう言ってますから」
「な⁉︎」
「そもそも、その人は本当にきちんと鍛錬してたんですか?」
「当たり前よ‼︎」
「それなら聞きますが、その人は鍛錬で何度骨折しましたか?」
「は……?」
「鍛錬中に気絶した事は?」
「え?」
「内臓が壊れて血を吐いた事は?」
「え? え?」
「目が見えなくなった事は? 耳が聞こえなくなった事は? 匂いを感じなくなった事は? 味がわからなくなった事は? 自分が何をしているのか、どこにいるのかわからなくなった事は?」
「ちょ、ちょっと待って‼︎」
「何でしょう?」
「そんな壊れる経験をしている人がいるわけない‼︎」
「ああ、それだと弱いままなのは当然ですね」
「あ、あんた何を言ってるの……?」
前の世界の戦場で生き抜いている時に経験した事を一つ一つ上げていったら、目の前の二人も俺の話を聞いていた参加者達も教官達も顔が青ざめさせている。
なるほどなるほど、そういう事か。
「どうやら僕と皆さんでは強くなるための鍛錬の意味合いが違うみたいですね」
「意味……?」
「良いですか? 僕の言っているきちんとした鍛錬というのは、自分を壊して作り変えるという意味です」
「「「「「…………」」」」」
全員の顔がこいつは何を言っているんだという表情になった。
説明がどんどん長くなるが仕方ないな。
「器物級のいうのはただの物体を生み出す異能力者を指し、通常であればこの生み出された物体に特殊な力はないので戦うなら自分の身体と技術を使うしかないわけですが、ここに重大な問題があります。そこのあなた、その問題とは何ですか?」
「え⁉︎ ええと、その……器物級が強くない事ですか……?」
「まあ、漠然としてますがその認識で大丈夫です。正確に言えば、器物級の身体能力は鍛えた一般人とそう変わらないという事が問題となります。なぜなら魔導級であれば身体強化や普通なら不可能な軌道や手数の攻撃ができ、さらに精霊級なら攻撃の密度も範囲も桁が違うからです」
「「「「「…………」」」」」
致命的に不利な現実を説明されたせいで参加者達の表情がさらに暗くなるものの、俺は構わず説明を続ける。
「それでは次の質問ですが、それじゃあ教官、そんな状況でも器物級が魔導級や精霊級と戦わなければならないとすれば、どんな戦術をとる必要がありますか?」
「…………パッと思いつくのは犠牲覚悟の複数人で戦う人海戦術、ひたすら隠れ潜んで隙を狙う奇襲、あとは相打ち狙いの自爆とかだな」
「はい、だいたいそんなところでしょう。ですが、何も犠牲や相打ち狙いにならなくて構いません」
「他に器物級が勝てる道があると?」
「もちろんです」
「ぜひ、聞かせてくれ」
「やる事は単純で魔導級や精霊級が異能力を使う前にこちらの攻撃を叩き込んだり、相手の攻撃を全部避けるか迎撃すれば良いだけです」
「は、ははは、ふははははは……」
「何で笑うんですか?」
「それは理想論だよ。不可能だ」
「どうしてです? 僕が実際にやっている事ですよ?」
「あ……」
…………はあ、教官達を含めてこの説明もしないとダメか。
「さっき言った器物級が魔導級と精霊級に勝つための単純な戦法を実現するためには、限界を超える鍛錬で身体を壊して作り変える必要がありますが、それと同時に作り変えなければならないものがあります。それは、こことここです」
俺は右手の人差し指で頭部を指し、左手で胸に触れた。
「思考と精神、この二つも強くなりたいなら作り変えてください。それを怠ると、この二人のように中途半端になります」
「なっ⁉︎ 私達のどこが半端なのよ⁉︎」
「そうだ‼︎ 俺達は力を求めて手に入れたんだ‼︎」
「手に入れただけで全く使いこなせてないですよね? 治癒のあなた、治療はいつになったら終わるんですか? それと空間系のあなた、僕の殺気に乱されてたとは言え、あんな発動速度と発動精度で実戦に使用できると?」
「「う……」」
「何度でも言いますが、器物級は魔導級や精霊級に比べて圧倒的に劣ります。それでも強くなりたいなら勝ちたいなら、身体を壊して作り変えてください。そして器物級の自分には無理だみたいな限界を決める思考や、今のままで仕方ないみたいな負け犬根性は捨ててください。停滞は本当に無意味です」
「「「「「…………」」」」」
誰も何も言わなくなった。
俺の言葉が伝わっているのかもわからないが、そろそろ説明にも飽きたな。
参加者達にも教官達にも考える間を与えず、俺は違法に手を出した二人以外の参加者達へ殺気を放ちながら木刀を出現させる。
「まあ、いろいろ言いましたが、皆さんには今この場で限界を超えてもらいます。僕は大抵のものは斬れるので皆さんの防御は不可能。死にたくなければ僕の斬撃を避けてくださいね」
参加者達を無理やり俺へ全神経を集中させて、呼吸もまばたきも思考も忘れさせる。
そして俺を凝視している参加者達全員の首を狙って斬撃を繰り出した。
◆◆◆◆◆
俺が元の位置に戻ると、全員が地面に倒れている。
しかし、これは首を斬られて死んだからではなく、転がるように俺の斬撃を避けたためだ。
「皆さん、お見事です。死を乗り越えた皆さんは一瞬前の自分よりも確実に強くなっています。このまま身体、思考、精神の限界を突破し続けてください」
俺は地面に倒れている参加者達の消耗を考え、これぐらいが及第点だろうと思い終わらせたのだが、そのあとすぐに流々原先生と鈴 麗華からやり過ぎだと説教を受ける。
いきなり戦場へ放り込まれるよりは事前の説明もしたから優しいだろと反論しても、ここは学園で参加者達は生徒だからもっと段階を踏めとひたすら怒られてしまった。
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