第5話
俺は殺気を鎮めて参加者が落ち着くのを待った。
さて、これからどんな風に進めるべきだ?
一番わかりやすいのは今すぐ実戦に放り込む事だが最悪死傷者が出る事態になりかねないから、この選択肢は取らないでおく。
…………まあ、座学というか説明から始めた方が良さそうだな。
「皆さんは強さに一番必要なのは何だと思いますか? ええと……うん、あなたはどうです?」
「え? あ、その、恵まれた身体だと思います……」
「なるほど、それではあなたはどう思いますか?」
「才能……でしょうか」
「ふむふむ、あなたは?」
「すごい能力を持っているかどうかかなあ……」
「最後にあなたは?」
「誰よりも強い力を持っている事、だ」
「答えてくれてありがとうございます。他の皆さんも同じような考えでしょうか?」
答えていない奴らを見まわすと大きさは違うものの全員がうなずいてくる。
はあ、伸び悩んでいる奴らだからしょうがないのかもしれないが拍子抜けも良いところだぞ。
「これで皆さんの中では最重要と言っても良い視点が抜けているのがわかりました」
「「「「「…………」」」」」
俺の断言に対する反応はいくつかあったが、そのほとんどは困惑と疑問だった。
「ここで話を引っ張ってもしょうがないので結論を言いますが、強さにおいて最も大切なのは心です」
「「「「「は…………?」」」」」
「心というと漠然としすぎましたね。具体的に言えば覚悟ですね」
「お、俺に覚悟がないと言いたいのか⁉︎」
「はい」
「な⁉︎」
「きちんと戦いに対する覚悟ができていれば、少なくとも僕の殺気で動けなくなるなんて事はなかったと思いますよ?」
「そ、それはいきなりだったからだ‼︎」
「おかしな事を言いますね。僕のように聖や生徒会に所属して任務についていても実戦は突然起こるものです。そもそも敵が覚悟を決めるまで待ってくれると思っているんですか?」
「う……」
全員が俺の質問で押し黙ってしまう。
中には苦々しげに俺をにらむ奴もいるが反論をしてこないところを見ると、俺の殺気で動けなくなったことを自覚しているらしい。
「実戦において必要となる覚悟は二つあります。一つ目は相手の攻撃や事故で死ぬ覚悟。二つ目は相手を殺す覚悟です」
「死ぬ覚悟だと? そんな負けた時を考える必要がどこにある⁉︎」
「……他の方も似たような疑問を持っているみたいですけど、皆さん覚悟を勘違いしてます。覚悟とは読んで字のごとく覚え悟る事。つまり意識する事です」
「「「「「…………」」」」」
反応が返ってこないというか、どう反応して良いのかわからないっていう感じか?
…………質問は後で受け付ければ良いから、とりあえず話を進めよう。
「良いですか? 器物級は魔導級や精霊級に比べて圧倒的に戦闘能力が劣ります。それでもなお勝ちたいと望むなら常に戦えるだけの準備をしてください。例えば、この場にいる教官達が皆さんへ攻撃してきたら迎撃できますか?」
「「「「「…………」」」」」
「できませんよね? なぜなら皆さんには教官が攻撃してくるという考えがまるでないからです」
「そ、それは、常に警戒し続けろと……?」
「そうです。不意打ちの二、三回を反射的に迎撃できるだけの実力が皆さんにあれば話は別ですが、あるんですか?」
「「「「「…………」」」」」
「ないと自覚しているなら、いつ何が起きても動けるように考えて意識してください。それが弱いものが実戦で負けないため最低条件である死ぬ覚悟です。次に弱いものが実戦で勝つための最低条件である相手を殺す覚悟についてです」
俺が殺すという言葉を言った瞬間、場の空気がピリッと引き締まった。
まあ、こっちの方が変わりやすいから当然と言えば当然だな。
「言うまでもない事ですが実戦は命のやり取りです。僕が相手をした異能犯罪者も人外も容赦なく僕の命を狙ってきました」
「「「「「…………」」」」」
俺の戦闘内容を知っているのか、ゴクリと小さく固唾を飲む音が聞こえた。
「一瞬だろうと動きを止めたら死ぬ状況で必要なのはためらわない事。相手の猛攻に耐え、数少ない隙を察知し、相手の防御をかい潜り自分の攻撃を当てようとした時に相手を殺すのをためらったらどうなります?」
「「「「「…………」」」」」
「はっきり言って先ほど皆さんが答えてくれた恵まれた身体、才能、すごい能力、誰よりも強い力なんてものは本人の気持ちが整っていて十全に実力を発揮できなければ意味はないんです。死ぬのが嫌なら、勝ちたいなら絶対にためらわないよう、今すぐ相手を殺す覚悟を決めてください」
今までの説明が全部こいつらに伝わるとは思っておらず、むしろ俺としてはここからが本番と言える。
「それじゃあ全員構えて。あ、教官達は下がってください」
「鶴見君、何をするつもりだ?」
「今から僕の殺気をかなり強く放ちます」
「…………それをする理由は?」
「長々と説明しましたが、結局のところ覚悟を決めて実戦で動けるのかどうかは実戦でしかわかりません。だから実戦に近い状況を再現します。あとは向き不向きの確認でしょうか」
「鶴見君の殺気で心が折れるようなら、この先も実戦で戦えるようになる可能性は低い……か」
俺の説明を聞き、教官達はうなった。
伸び悩んでいる奴らを慎重に接するべきだとは思っていても、結局は実戦で生き残れる資質を持つかを確かめる必要性も理解しているようだな。
さて、後は黒鳥夜 綺寂とシスティーゾと鈴 麗華が俺のやり方を許容するのかだが、俺の感知範囲内で影の揺らぎはない。
黒鳥夜 綺寂は影を通して確実に俺の言動を認識していているだろうに何もないという事は、このままやって良いらしいな。
鈴 麗華もそれを理解していたようで、俺を呼び止めるために開きかけた口をまた閉じた。
システィーゾに関しては終始退屈そうにしているから、少しは興味を持てと言いたい。
ま、何はともあれ教官達が参加者達と距離を取ったから始めるか。
「強さを手にしたいなら、ぜひ耐え切って見せてください」
「ふ、ふざけるな‼︎」
俺が殺気を放とうとした瞬間、参加者の一人が叫んだ。
こいつは確か強さに必要なのは誰よりも強い力と答えて、俺に反発してきた奴だったな。
「お前が、器物級のお前が、俺を試すだと⁉︎」
「あなたも器物級だから、この場にいるんですよね?」
「俺は、俺は選ばれた存在なんだ‼︎ お前ごときが俺を下に見るな‼︎」
「あなたが選ばれた存在? 誰に選ばれたかは知りませんが、あなたから強者特有の雰囲気を少しも感じないので勘違いですよ」
「は?」
「聞こえませんでした? あなたはここに呼ばれるだけの存在ですよ」
「は、ははは……、死、びゃ‼︎」
「きゃあああ‼︎」
「うわあああ‼︎」
別の参加者から叫び声が上がった。
まあ、俺に反発して何かを仕掛けてこようとした奴の首が飛んだ……ように見えたから当然だな。
俺に反発してきた奴は地面にうずくまった後、自分の首や顔や頭部を触っている。
「ひ、あ、え……?」
「首をはねられた気分はどうですか?」
「な、にが……?」
「僕のあなたの首を斬るという殺気を浴びただけです。ところであなた、僕の説明を聞いてました? 戦おうとするなら死ぬ覚悟を決めてください」
「だ、だま、りぇ⁉︎」
今度は頭部を踵で踏み潰すという殺気を飛ばして、死を体験させた。
「何をしてくるつもりかは知りませんが、まだやりますか?」
「う……、うああああ‼︎」
俺に反発してきた奴が叫びながら立ち上がると、反発してきた奴を中心に風景が歪み始める。
器物級なのに空間系のような異能力を使えるという事はもしかしてと思いながら、俺は心臓を貫くという殺気を放つ。
すると反発してきた奴は、胸を押さえながら血を吐いた。
「がふ……」
「はあ、ちゃんと覚悟を決めていないから僕の殺気だけで自滅するんですよ。他の皆さんも、こうならないようにきちんと覚悟を決めてくださいね」
俺がそう言うと、血を吐いて倒れるところを見た他の奴らは青い顔で大きく頷いてくる。
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