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ブラウエル「ヴァイキングのお姫様が来た? 一体何の冗談だねそれは」

「10年前にポイ捨てした娘、実は海の英雄になっていた! なのにちょっと物乞いの真似をしただけで他人のフリですか? 今さら母親面してももう遅い! イケメン提督と王女様が迎えに来たのでもう行きますさようなら」


ホントにタイトルをこう変えたら、PVが増えるかしら……?


今回は短め、ストークの皆さんが何故ここに居たのかという話。

 少し前の話。

 ストークの騎士グレーゲルが、フルベンゲンに居た公爵令嬢マリー・レンネフェルトをストーク王都イースタッドに護送し、その副次的な知らせがストーク宰相とレイヴン外交特使を仰天させた翌日の朝。ロヴネル提督のヒルデガルド号は南大陸北西部の港ファイルーズから、無寄港でイースタッドへと戻って来た。


 ロヴネルの知らせはさらにストーク宰相エイギルを仰天させた。フレデリクという名の男を捕らえに行ったはずのロヴネル提督は戻って来た時には()()()()()()に心酔しており、腰にはいつもの軍刀ではなく、フレデリクから預かったというロヴネルの身長では寸足らずに見える内海風のサーベルを提げていた。


「状況は変わりました。御覧下さい、南大陸北西部の商港ヤシュム港と軍港ファイルーズ港の使用権と委任状、マジュドの首長イマード陛下直筆の物です。御本人にも拝謁を賜りました……これがフレデリク卿の大計の成果です。フレデリク卿は強いストークの再生の為、たった一人で戦っていたのです」

「……ロヴネル提督、実はこちらでも動きがあったのだ、つい昨日の事なのだが」


 エイギルもロヴネルにその出来事を説明した。フレデリクという名の男がスヴァーヌ北部で海賊を相手にレイヴン海軍と共闘して大勝利を収め、接収した艦船をレイヴン国王に捧げたというのだ。そのせいでストークとレイヴンの折衝は攻守逆転し、今はストークがレイヴンの弁明を待つ段階フェーズに到達しているという。


 そんな二人の話を、満を持して盗み聞きしていたシーグリッド姫はテーブルクロスの下から這い出し、エイギルに迫った。


「いつまでも待っているだけでは面白くありませんわ! この際こちらから参りましょう、ブレイビスに! レイヴンがどんな顔でわたくし達を迎えるか見物じゃない!」

「どこから出て来るのです姫! しかし……確かに姫のおっしゃる通り、この状況であればこちらから積極的にレイヴンに働きかける事はやぶさかではない……解りました。年明けにも先遣使節を送りまして、夏までには正式な使節団を」


 エイギルも戦略的に考慮して、そこまではシーグリッドに同意したのだが。


「何をおっしゃるのおじさま、今よ、今行くの! ロヴネルさま、帰ったばかりで申し訳ありませんがわたくしをヒルデガルド号に乗せて下さいませ、ただちにブレイビスに向かいましょう!」

「い、い、い、今!? 無茶苦茶をおっしゃらないで下さい、ああそうだ、海軍だって戻ったばかりで水夫達も」

「いつでも出航出来ます。いえ、姫の御座所と侍従の皆様の居室を用意いたしますので、半日いただければ」

「ロヴネル提督ッ、貴公まで何を言うのだ!?」

わたくし、水夫達と同じハンモックでも平気ですわよ?」

「ははは、さすがにそれでは私が心苦しい」

「姫ッ……貴女は単に自分が冒険に行きたいだけなのではありませんか!?」



 結局の所最低限の準備に一晩かかったものの、ストーク王国の第一王女シーグリッドは本当にその翌日、軍艦ヒルデガルド号に乗り込みイースタッドを離れてしまった。


 行き先はさすがにレイヴンのブレイビスではなく、レイヴン本土の近くの準友好国であるクラッセ王国のウインダムと決まった。そこで準備を整えてからブレイビスに乗り込むのである。


 ヒルデガルド号の水兵達の士気はいやが上にも高まった。彼等は船酔い一つせずバウスプリットの近くで羽扇を振り回して自分達を鼓舞するシーグリッド姫を見て、あれでこそヴァイキングの女王だと陰でたたえた。


 そして快速の準戦艦ヒルデガルド号はストーク海軍が慌ててて用意した他の7隻の護衛艦と共に、出航から9日後、何も聞いていないクラッセ王国の沿岸に現れてしまったのである。



   ◇◇◇



 ヒルデガルド号が、慌てて応対したクラッセ海軍の警備艦に誘導されウインダムに入港した時、フォルコン号はウインダム港の外れの方の桟橋に、他の中小の商船に混じって係留されていた。

 先にそれを見つけたのは、参謀のクロムヴァルと旗艦艦長のイェルドだった。


「提督、どうか落ち着いてお聞き下さい……ウインダムにフォルコン号が停泊しています」

「今行く。イェルド、ふねをフォルコン号の隣に寄せてくれ」

「ですから落ち着いて下さいと……我々はクラッセ海軍の誘導を受けて大桟橋に移動中、フォルコン号は港の外れに停泊しています、近づけません」

「ではボートの用意だ、何分かかる? 私もすぐ着替える」

「ボートも今は出せません、どうか冷静な判断を御願い致します、提督」


 その話はすぐにシーグリッド姫にも聞き付けられた。侍従達は姫の御転婆おてんばに気を揉んでいたのだが。


「ロヴネルさま! フォルコン号がウインダムに来ているというのは本当ですの!?」

「本当です。東から二番目の浮き桟橋に連なっている14隻の舟の、左から5番目の一本マストの艦尾楼の低い船、あれがマリー・パスファインダー船長のフォルコン号です……フレデリク卿はあの船で海賊を打ち破ったのでしょう」

「提督、姫を煽らないで下さい、姫、いけませんぞ、接岸したらまずクラッセ王国の代表者の方に挨拶を……」



 しかし、ヒルデガルド号が大勢の野次馬に見守られながらウインダム港の大桟橋に接岸すると、ロヴネルは真っ先に船を降りて急ぎ足で東のハズレ桟橋へと向かい、少し遅れて下船したシーグリッドも侍従達を振り切り、ロヴネルの後を追ったのである。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
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