最後の平穏
ここは、『アーリヤ族国』。
褐色の肌に暖色の目を持つ人々が闊歩するこの国は、別名『炎の国』。
────『炎の国』『水の国』『土の国』『風の国』
遥か昔より、人々は人種や種族間でいがみ合い、戦争を繰り広げてきた。
それを見かねた神が下界に降臨し、それぞれの一族、種族の王に『紋章』と呼ばれる力を与え、
お互いを尊敬しあうように仕向けたのだ。そして王たちは世界を四分割し、世界に平和は訪れたのであった。
「もう聞き飽きたよ、父さん。」
この話はもう耳にタコができるほど聞かされた。うちの父の話のレパートリーときたらあまりに乏しいのだ。
「む、そうか。ロマンがある話だとは思わないか?今となっちゃただの木工師だが、俺は若いころ──」
「歴史学者になりたかったんでしょ。それも聞いた。それに、平和が訪れたのはほんの数十年だけじゃないか。」
「む、それも、そうだな・・・・。現に今も水の国、ディナール神聖国と戦争中だしな。」
そう、父はしがない木工師。そして僕はその倅。特に凄腕ってわけではないが食い扶持に困らない程度には稼げているし、顧客も確保している。きっと僕はこのまま父の仕事を継いで、木工師として生涯を終えるのだろう。
夢なんて持っても無駄だ。そりゃ、やりたいことを仕事にできたら素晴らしい人生になるのだろうけど、そもそもやりたいことがないのだ。
僕たちはアーリヤ人。褐色肌に赤い瞳が特徴的で、元々遊牧民だったせいか気楽な性格をもつ人が多い。父のように、学者を目指したがる人のが珍しいってもんだ。最も、例にもれず父も僕も褐色肌に赤い瞳。アーリヤ人にしては珍しいホワイトブロンドの髪をもっているが、間違いなくアーリヤ人だ。
「時にバハドゥ。少々頼み事があるのだが・・・」
「なに?」
「この商品を、いつもウチを贔屓にしてくれているタミルさんの所に届けてくれないか?何でも、忙しくて此処まで取れにこれないらしい。」
「あぁ、あの人か。うん、わかった。タミル家は羽振りいいしね。」
タミル家は、アーリヤ族族長の一族アーリヤ家に代々仕える一家だ。そんな一家の頼みときたら断れない。
「助かるよ。今日中に片付けなきゃいけない仕事があってね。宮殿街の方となると馬を使っても帰ってくる頃には日が暮れてしまうからな。大丈夫だとは思うが、今は戦争中だからくれぐれも気を付けるんだぞ。」
「戦争の巻き添え喰らうよりも、モンスターに襲われてお陀仏っていう方が可能性高いけど・・・
まぁ、わかったよ。ありがとう、行ってきます。」
そうして僕は護身用のダガーと弓を手に取り、宮殿街「クシャーナ」へと馬を走らせた。
変わりない日々が、終わりを告げたことなど、知る由もなく────────
少年は、運命に踊らされる。