ここにいる
慣れない地面の感覚と、少し湿り気を含んだ風に、違和感を感じ目を覚ます。
「どこだよ…ここ…」と男は呟きながら上体を起こす。
見知らぬ神社の境内に倒れていた。どこの神社かも、今がいつなのかもわからない。分かることといえば、自分の名前と、学生であったことのみで、今の状況の理解に繋がるような情報はあいにく何も持ち合わせていない。
男の名は黒坂扇日本人の高校生である。今の状況において高校生と言い切って良いのかも定かではないが。自分の一番新しい記憶では確か高校2年、17歳であったはずだ。これといって特徴のある人間ではないが、外見の説明をするとすると、身長は背の順でだいたい前から五番目くらいになる程のもので、髪は、全体的にくせ毛で、特に普段からセットすることを心がけていないため、だらしなさが見てとれる。過去に何があったのか思い出せないが、制服を着ているから、学校帰りか、もしくは、通学中だったのだろう。
今一度周囲を見渡す。そこはどこかわからないが、神社の境内であることは間違いないようだ。神社と言っても本殿は酷く荒廃していて、天井を支える柱は折れ、どうやって育ったのか、本殿の中から立派な樹が生えており、折れた柱の代役を担い、本殿はギリギリ元の形を保てている。敷地の周りはなかなか樹齢が高そうな木々に囲まれている、つまり、相当昔からこの神社は存在しているのだろう。本殿の正面の大きな鳥居の先には人口ではないが、多少太めの獣道が一本あるだけだ。
本殿をぐるっと一周してみたり、境内を歩き回ったものの、結局手がかりは何一つなかった。扇はとりあえず鳥居をくぐりその先の道をゆくことにした。
五分ほど歩いて、扇は奇妙ない事実に気づいた。道は真っ直ぐ続いていた、はずなのに、振り返ると先程の神社が見当たらない。それどころか20メートル後方辺りから道が無く、そこからは森が広がっている。この奇妙な事態を見なかったことにしようと速足で道を進む。
異変にに気づいてから数分のこと、扇は前方に鳥居が見えた。鳥居の先が濃い霧で見えないが、やっと森の端まで来たと安堵の息を吐きながら鳥居をくぐる。
「ん、なんだ?」
扇は鳥居をくぐってまたもや異様な光景を目にする。
「なんなんだよ…これ」
鳥居の先にあったものは鳥居だった。扇を中心に正六角形を形取るようにそれは立たずんでいた。一体誰がなんの目的で造ったのだろう。
風が全く止んだ。だのに木々は先程よりもより一層大きな音でザワザワと鳴る。まるでこの空間が世界から隔絶されているかのように。その空間にはただ重たい空気がたたずむだけだった、まるで扇に選択を迫るかのように……