ちっちゃな魔女さまは家出したい!
むかしむかしあるところに、とてもかわいい女の子がすんでいました。
女の子のなまえはシーナといいました。
シーナは魔法をつかうのが大好きで、ちいさいころから魔法のれんしゅうばかりしていました。
そのままたくさんたくさん魔法をつかっているうちに、シーナは国いちばんの魔法つかいになりました。
シーナはとても美しくすぐれた魔法つかいになりましたが、ふたつほど欠点がありました。
それはシーナがおっちょこちょいで、少しばかり背が高すぎることです。
シーナは大きくなったらその国の王子さまと結婚するよていでしたが、その王子さまよりも背が高くなってしまいました。
また魔力が強すぎて、しょっちゅう魔法をぼうはつさせてしまっていました。
ある日シーナは、王子やそのなかまたちがシーナの悪口をいっているのをきいてしまいます。
「あーんなデッカいおんな、王子にはふさわしくないよ!」
「しかもおっちょこちょいで魔法もばくはつさせてばかりだし、キケン人物だよ!」
「王子のおヨメさんには、もっとやさしくてちっちゃくてかわいい女の子がいいとおもう!」
「そうだな、ボクもそうおもう。あした、お父上にそうだんしてみるとしよう」
さいごのセリフは王子さまのものでした。
「王子さまは、わたしのことがお嫌いなのね。きっとあした王さまによびだされて、結婚のはなしはなかったことにされてしまうんだわ」
みんなにいじわるをいわれてかなしくなったシーナは、家出をしてとおい国に行こうと決心します。
そうして船にもぐりこんで何日も何日もたびをして、たどりついたのは巨人たちの国でした。
「すごいわ!ここの人たちはわたしよりずっとずっと大きいわ。ここなら大きすぎるといじわるされずに過ごせるわね」
シーナは巨人の国のお城にいって、住む場所をさがしました。
「ここなら、食べものにこまることもないわ。寝るところだってありそうね」
そうしてお城のちゅうぼうを気に入り、そこに住むことにしました。
だれかがいるときは魔法ですがたをかくし、つかっていないふきんをおふとんにしてねむりました。
人がいなくなったら、テーブルにのこっている食べものをもらってごはんにしました。
なにしろシーナはここではとてもちっちゃいので、サンドイッチをつくるときに出たパンのかけらや、小さなハムのきれはしでも、一回で食べきれないほどのおおごちそうになるのです。
もちろん、もらうだけでなくてシーナはちゃんとお返しをしていました。
さむいふゆの朝にはストーブのまきに魔法で火をつけておき、水くみをしなくていいよう大きなツボに魔法でいつも水をいれておきました。
お城のコックさんたちは『妖精のしわざじゃないか』とふしぎがりながらもよろこんでくれました。
シーナも、ここでは大きな魔法をつかってもだれにもめいわくがかからないので、きがねなく魔法をつかえておおよろこびでした。
そんなある日、シーナは巨人の国の王子にみつかってしまいました。
王子は『妖精はきみだったんだね』といって、シーナを手のひらにのせました。
追いだされてしまう、とシーナはかなしくなりましたが、王子はシーナを自分のへやにつれていってくれました。
「ちいさな妖精さん。きみがいたいのなら、ずっとこの国にいたっていいんだよ?」
「ありがとう王子さま!でもわたし、妖精じゃないのよ」
「じゃあきみはいったいだあれ?」
「わたしはシーナ。魔法つかいのシーナよ!」
「そうなんだ。よろしくね、ちっちゃな魔法つかいさん」
そうしてシーナは王子のへやに住むことになりました。
けらいのなかには反対する人がおおぜいいましたが、王子は気にとめませんでした。
シーナは王子のことが好きになり、王子の役にたとうとしました。
王となるためのべんきょうをてつだい、剣のれんしゅうのあいてをし、ねむれないときはねむりの魔法をのせた唄をうたいました。
そして魔法ですがたをけしたシーナは城のいろいろな場所に出かけ、悪だくみをしている人をみつけては王子にそれとなくしらせました。
シーナがおしえたおかげでいくつもの悪事がみぜんにふせがれ、巨人の国の王さまはおおよろこびです。
王子もよろこんでくれましたが、それまで悪いことをしてもうけていた大臣や商人からは、シーナはものすごく嫌われてしまいました。
「ねえシーナ。きみのおかげで国はどんどんよくなってきたけど、ぼくはきみが悪い人たちにねらわれるんじゃないかとしんぱいになるんだよ」
「へいきよ。わたし、逃げるのはとくいなの!もといた国からだって逃げたんだもの。つかまったってカンタンに逃げられるわ」
そういってシーナは人助けをつづけ、王子のおぼえはどんどんとよくなり、ついには王子に次の王さまになってほしいという声がたくさん出るようになりました。
そのはなしにおどろいたのは王子のお兄さんです。
兄の王子は次の王さまは自分だとおもっていたので、こまったことになった、とあせりました。
そしてそのはなしの原因であるシーナをつかまえさせて、鳥カゴに閉じこめてしまいました。
兄王子はつかまえたシーナをあの手この手で自分のなかまに引きこもうとしましたが、シーナはすべてことわりました。
ごうをにやした兄王子は、「だったらおまえを人質に、弟に王になるのをあきらめるようおどしてやろう」とへやを出ていきました。
「たいへん、わたしのせいで王子が王さまになれなくなってしまうわ」
シーナは王子の足をひっぱらないよう、巨人の国からも逃げることにしました。
さらにちいさくなる魔法を自分にかけたシーナは鳥カゴから逃げて、大好きな王子のへやにもどりました。
何日もすがたの見えないシーナを王子はずっとさがしていたのですが、このとき王子はつかれきってねてしまっていました。
シーナはいままでのお礼にしっている魔法のじゅもんをかきつけたノートと、出ていくことのおわびの手紙、それに王子にだけノートと手紙がよめるようにしたとくべつな魔法のむしメガネを、王子のベッドのまくらもとにおきました。
「さようなら、王子。大好きだったわ。りっぱな王さまになってね」
そうしてねている王子のほっぺにキスをして、シーナは巨人の国をさりました。
ちっちゃいちっちゃい魔法つかいになったシーナは、つぎはどこの国にいこうかとなやんでいました。
だれかにいじわるをされるのも、だれかにめいわくをかけるのも嫌でなやんでいました。
「大きくても小さくてもダメなら、人のいないところにいけば、きっともう嫌なことにもかなしいことにもならないわ」
そうかんがえてシーナは森のおくにすすみ、かぜの魔法をつかって一番そら高くまでのびている木のてっぺんにのぼって、そこで小鳥たちといっしょにくらすことにしましたーー
「それで、その後シーナはどうしたの?」
「今日のお話はここまでよ。続きはまた明日ね」
「えー、もっと聞きたい!」
「ふふふ、面白かったのね。でももう寝ないと。たくさん寝ればたくさん背が伸びるわよ」
「うーん、じゃあ寝るよ。ボク絶対母さまより大きくなりたいんだ!」
「ええ、きっとなれるわ。ーーじゃあおやすみなさい、良い夢を見てね」
「うん、おやすみなさい」
子供部屋から出て廊下を歩いていると、男の子の母親は男の腕に捕まえられてしまいました。
「こんばんはレディ。私たちの天使はおやすみかな?」
「ええ、もうぐっすり。きっと朝まで起きないわ」
「それは眠りの魔法をつかって?」
「まさか!暴発するかもしれない魔法を我が子に掛けると思う?」
「私には何度も掛けてくれたろう?」
「だって、あの頃の貴方は大きかったものーー今じゃこんなに小さくなってしまったけど」
そう言って女性は夫である男に近寄ると、男のおでこに自分のおでこをコツンとぶつけました。
抱き合った二人の背はぴったり同じで、大きくも小さくもなくなったシーナはとても幸せそうに笑いました。