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行先未定

作者: 文代 呉波

 バスの終着点は、落ち着いた色の道の駅だった。途中で見た一面の緑と比較すれば、人が居る場所に降り立ったことを喜ぶべきか。または、この道の駅以外に観光客向けの施設がなさそうなことを悲しむべきか。それが目的地のない一人旅の楽しさではあるけれど。

 売店でラムネを一つ買った。いつもの旅のお供、飲み干せば夏の化身。カラカラと鳴る球が暑さを和らげる。道の駅から出て道なりに行く中で、周りからは色々な音が聞こえてくる。右手には海、左手には山、上には青空、近くには田んぼ。おおよそ二色のこれらの組み合わせも随分見てきたはずなのに未だに飽きないように思えるのは、きっとこの色の組み合わせが好きだからだろう。

 海沿いの住宅街をぶらぶら歩いていると、家々の間から覗いていた海に続く道を見つけた。歩いていくと、舗装されていたのは初めの少しだけで、それからはずっと草を踏み鳴らしただけの道が続く。歩く度に、草が擦れる音や、波が押し寄せる音がする。風走る草原の中に立っている気もしたが、生憎潮の匂いがする。

浜に着くと、そこには白いテントと机、海には一部を切り取るようにブイが弧を描いて浮いていた。恐らくその区域内だけは泳げるのだろう。当然水着などは持ってきていないし、サンダルもないので、履きなれたスニーカーで濡れない程度に近づいて潮風を浴びた。寄っては消えていく波と音で時間が過ぎていく。

 机に座りながらボーっとしていると、ふと行きしなの風景を思い出した。上下に分かれた二色が青と緑でなくとも心地よさを覚えるのなら、真に私が好きなのは色ではないのか。青い色が夕暮れの赤でも、曇天の灰でも、深夜の紫でもいいのだろう。それこそ、二色だけでなく、三色、四色、きっと空に色相環が燦々と輝くようなときにも思うというのは過言か。時折変に話が逸れて戻っても、私が心地よさを感じているものが何なのかは一向に見えてこない。

 それでも時間は経ってしまうから、仕方なく写真に収めて他の場所へ行こうとする。さっきとは逆方向の音と風が新鮮さを与え、余計に方向音痴を加速させる。右へ行こうか左へ行こうか、気の向くままに足を運べるのも一人旅の楽しさだ。といっても、宿のことは多少気にかけないといけないけれど。あともう少しの時間の使い方を考えながら、適当に左に曲がった。ラムネ瓶がカランと鳴った。夏の夕方。

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