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13.消せない光

 頭が真っ白になった。

 あいつの言葉が理解できなかった。

 

 俺のため……?

 俺の、側にいる為に、剣を取ったとそう言ったのか?

 嘘だろ……。


 年頃の娘がそんなことのために長かった髪を切って男に混じって剣を振りまわして、何度も死にそうな思いまでしてたのか?

 あいつがそうまでして叶えたい願いは、俺の側にいること……?


「ふざけんな!冗談じゃねぇ!!」

「ふざけてなんかない!!あたしはアンタが居ればそこが戦場でもよかった。

 何時死ぬかも知れない場所でもアンタといられるなら、あたしはそれでよかったんだ!!」


 真っ直ぐな声は、瞳は、揺るがない。

 俺の知らない感情を灯して、俺を追いつめる。


 どうすればいい?

 離さなきゃいけないんだ。

 俺は、求めたらいけない。

 決めただろう?誓っただろう?

 側にいられなくても、それが俺の隣でなくても、あいつが幸せそうに笑っているならそれでいい。

 そうだろう?


 落ち着け。冷静さを取り戻せ。この身体に流れる血はそれを許さない。



「いらない。アンタが居ない平穏なんて何の価値もない。

 そんなの、あたしは欲しくない……!!」


 やめろ。もう、やめてくれ。

 望んでない。こんなの、俺は望んでない。

 今ならまだ手を離せるはずなんだ。

 俺の重荷を背負わせる前に逃がしてやれるはずなんだ。


「あたしは、アンタといられるならそれだけで幸せだよ」

「馬鹿じゃ、ねぇのか。

 俺が、どんな思いでお前の手を離そうとしてると思ってる」


 せめてお前だけは平穏で普通の暮らしを手に入れて幸せになってほしかった。

 それだけが、願いだったのに。

 お前を守ると決めたそのときからずっと、お前が笑っていられるならなんでもよかった。

 お前さえ幸せだと笑ってくれるなら、戦争が何年続こうと国が滅びようとどうでもよかった。

 国や民の為に、親父や家族のために戦ってたわけじゃないのは俺の方だ。

 お前が笑って暮らせる時代が欲しくて、お前が安心して暮らせる世界が欲しくて、剣を握ったんだ。

 それなのに。


「……知るかそんなもん。

 あたしはアンタ以外、なんにもいらない」


 お前はそれさえも一蹴してしまうのか。


「あの時言った。あたしの幸せはあたしが決めるって。

 だから、それを理由に逃げるなんて許さない。ううん、絶対に逃がしてなんかやらない」


 真っ直ぐに俺を見る瞳は、決意を込めた声は、幼いころにかけられた呪いを打ち破るように俺を射ぬく。

 揺るがない心が、凝り固まった心を解きほぐす。

 いつだってこの澄んだ強い瞳が、俺を折れさせるんだ。


「……俺は、いつかきっと、この闇に引きずり込まれる日が来る」


 それは予感ではなく、確信だった。

 親父が俺に呪いをかけたその日から遠からずその日が来ると、求めるよりも諦めて生きてきた。

 英雄の系譜。代々国の為に働き、王を見張り、民を守ってきた一族。

 5代前の政略結婚で王族を名乗る権利さえ得てしまった呪われた血筋。

 そして、その血に、運命に、呪われたのは兄上でなく俺だった。

 王を見張り、必要とあらば親父のようにその地位を排するために動かなければならない。

 王にはなれないし、なるつもりはないが平穏な暮らしとは縁遠い。

 常に死の影が付き纏う。闘いが日常になる。闇にまぎれて生きなければならなくなる。

 与えられた爵位や領地だってそれが前提で所詮お飾りでしかない。

 ただ表と裏、光と影のバランスを保つ為に在る。


「夜の闇より遥か深い奈落の底に堕ちる日が来る。

 奈落の底で生きなきゃならねぇのは俺だけじゃねぇ。

 俺から先、この血脈が絶えるその日までずっとだ」


 お前に、それが耐えられるか?

 それでも、まだ俺の側にいたいと言えるか?





 気がつけばいつだって、お前が俺に手を伸ばしていた。



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