私は王女の生体パーツ
私の名前は「生体パーツ」。
国に住まう王女の欠けた所を埋める為の代替品。
死にたくないと言ったお姫様がおねだりした、誕生日プレゼント。
私と言う存在は、代えの効く部品の、そのさらにまた代えだそうです。
なので私の親は研究者となります。
彼らは私を生み出した時、中々の良品であるとそう述べて、頭を撫でて私の誕生を祝ってくれました。
いつか来るその時の為に、役に立てるように。彼らはいつもそう言います。
体調管理は万全に。日々の生活の中で気を付ける事はとにかくたくさん。
病気をしないように、体形維持、などなど要注意項目はたくさんあります。
後は体力づくりに、お勉強に、と。
そうそう、見た目も気を付けなければなりません。
私は王女様の「生体パーツ」なので、それにふさわしい気品が求められます。
ドレスに化粧に、美容に気を付けて。靴に装飾品に。
後は、礼儀や淑女の嗜みなど。
王女に求められるものと同じ物を、私は身につけなければならなかったりします。
見聞も広めて、視野も広く。
世界情勢から、民の暮らしぶりなども覚えておかなければ。
王女の「生体パーツ」として、本物にふさわしくあれ。いつも言われている事です。
ですが、私にとって「なる」ことは苦ではありませんでした。
それはさておき、
もしもの場合の話。その時が来た時の話をしましょう。
取り替える部分は、足でも良い。手でもどこでも良いそうです。
私の体はとても本物にそっくりなので、本物のどこが駄目になったとしても安心だと親から言われます。
もしものその時の「生体パーツ」。
それはひょっとしたら、腹部や頭部かもしれません。
けれど毛髪や爪などは、さすがにないでしょう。
そんな事を思う時は、丁寧に手入れした私のそれを少しもったいなく思います。
けれど、それらが想定されるのはまだ穏やかな方。
緊急事態になれば、取り換えるパーツはもしかすると心臓や、内臓などという事もあるかもしれません。
私が心を込めて丹念に手入れをしてきたそれらなので、取り換え手術の結果、不適合などという最悪の事態になるという事はないでしょう。
私にとってそれらの存在は、全て自分の子供の様な物でした。この私の子供なら……。
体内で育った子供たちは、きっととても健やかな状態で取り替えられ、本物の役にたってくれるはず。私にはそんな自信がありました。
ただ一つ、その場合になると自分で結果が確認できないのは、残念な事でしたが。
そんな風に日々「生体パーツ」として、私は私の手入れを欠かさずに出番を待っていました。
そして幾年が経った時、とうとうその機会がやってきたのです。
ある日、国が傾きました。
争いが起き、悲劇がいくつも生まれ、命が消えていきました。
大層な浪費家であった王女は国のお金を使いつくして、人々に悪影響を……。
民たちの生活が回らなくなってしまったので、そのせいで内乱が起きてしまったのです。
王女様は次々に家臣や肉親も失ってしまい、すぐに一人きりになってしまいます。
けれど王女様は幸いでした。
なぜなら、この予備である私がいるのですから。命が二つあるようなものです。
少しくらい怪我をしても、生き延びられる事が出来るのですから、王女様はきっとこの世界で一番の幸せ者でしょう。
そして私と言えば……、ああ……やる事はいつもと変わりませんでした。
その時が来ても、求められた事をこなすだけ。
なぜならそれが私の、「生体パーツ」の役目なのですから。
怪我をしたという王女様の状態を確かめに、王宮へ私の親達が検分に行きます。
ついにお役目を果たす時がやってきたのです。
招かれた王宮の王座の間。
けれど本物の王女様は、どこにもいません。
壊れた人形の部品の様に、バラバラの物となって床に転がっているだけなのですから。
これでは急いでくっつけたとしても修復できないでしょう。
私はそこにいた親に王座に就く様に言われました。
「今日から貴方が本物です」
それが役目なのだとも。
私は、首を傾げましたが、王女様の「生体パーツ」である事を改めて考えました。
私は王女様の欠落した部品を提供し、その穴を埋める為の存在。
その王女様自体がいなくなっても、為すべき事はおそらく変わらないのです。
仕方ありませんでした。
王女様のお役に立てない事は悲しいですが、私は「生体パーツ」。
私の存在意義は、無くなった穴を埋める為の代替品なのですから。
そうして、就いた王座の務めをこなせば、国は以前の有様が不思議だったように安定を取り戻しました。
民も、親も、生き残っていたらしい前の王女様の家臣たちも、皆笑顔に溢れています。
やはり王女様は幸せ者でした。
私の様な、完璧な代替品をお持ちになられていたのですから。
短い物語ですが目を通していただきありがとうございます。
気が向いた時でもいいので、12月25日から連載を予定している以下四作品、
〇エターナル・ブレイブ ―傾ぐ世界に響く星涙の歌と、孤独な王の箱庭―(ジャンル:詩)
〇異世界行ったらポチ(ケルベロス)の餌 「仮タイトル」
〇お母様転生 ―異世界行ったら追って来たー
〇バッドエンドを覆せ(仮題)
目を通していただけると嬉しいです。
以上告知実験でした。