第2章 「7.森」
つにに魔剣伝も第二章へ突入しました^^
これも全て読者の皆様の御陰です。
今後ともさらなるご支援のほどよろしくお願いします♪
森がある。広大な深緑が目の前に広がっていた…。いや、目の前というよりは周りの全てが森。四方を見渡すとソレは、何処までも何処までも永遠に続いているようだった。
「ここは…何処?」
アリシアは頭に浮かんだ疑問をそのまま宙に投げかける。当たり前と言えば当たり前の行動だ。ついさっきまではモニタールームで画面を見ていたはずなのに、急に自分は森にいた。なんとも不思議な感覚が心に広がる。
ふと上を見上げると、木々の間からは暖かな木漏れ日が降り注いでいた。遠くの方からは鳥の鳴き声が聞こえ、。爽やかな風が一筋、アリシアの頬を撫で森の奧へと消えていく。なんとも心地の良い、穏やかな時間の流れが森全体を包んでいた。
研究室で初めて目覚めた時とは違い、今は不思議と不安はない。ここがどこなのかは全く分からないはずなのに、何故だろうか目の前の風景に懐かしさを感じる。いっそのこと、この場所にずーっと居られればいいのに。心の中でそう願う。だがしかしその願いを嘲笑うかのように、平穏な風景が一変して牙をむいた。
ドゴォオオォオオン!
さほど遠くもない位置から轟音が聞こえた。それと同時に、地響きが足の裏から伝わる。アリシアは驚いて、すぐに音のした方を見る。バサバサバサっと無数の鳥が飛び立つ音が聞こえたかと思うと、茂みの奧から突如影が飛び込んできた。しかもその影は1つ、2つではない。無数の動く影がどんどんこちらに向かって溢れてくる。一瞬の出来事にアリシアは後ろに仰け反り、そしてしりもちをついてしまった。目の前に迫る影、それは100を軽く超える動物達の群れだった。
鹿や猪。馬や猿達が一気にこちらへ向かって駆けてくる。そしてアリシアを避けるようにして二手に分かれ、そのまま進行方向へと駆け抜けていった。砂埃が舞う中、アリシアは何とか周りを伺う。気がつくと周りの木々達は炎を従え、アリシアを見下ろしている。森一面が火の海だった。
モクモクと立ちこめる煙を避けるため、アリシアは口と鼻を右手で塞ぐ。そして急いで上体を起こし、先程の轟音がした方へと駆け出した。「何があったんだろう?」という興味本位が、彼女をそうさせたのだろう。場所も定かではない、未知の目的地に向けひたすら走った。
しばらくして、目の前が開けた場所にでる。それはちょっとした広場と言うべきか、そこそこの広さがあった。その先には更に森が続いていた。アリシアの脚はそこで動きを止める。広場の中央にそびえる巨大なモノに目を奪われたからだ。ソレは、少しいびつではあるが剣の形をしてた。森の木々よりも遙かに高く、刃先を大地に突き刺さし不動の態を装っている。
その周りでは、この世のモノと思えない異形の者達が雄叫びを上げ、そびえる大剣に向けて攻撃を仕掛けているように見えた。地上では、角の生えた者や機械的な姿をした者が接近戦を、上空を見れば鳥や竜の姿の者が悠々と風を切り裂き縦横無尽に宙を舞っていた。更には炎を身にまとった大男や、硬い岩石の巨人まで、その種類は様々だった。ざっと数えて50を軽く超える程はいるだろう。大地で息絶える姿も含めれば、更にその数は二倍以上に跳ね上がる。
ドゴォオオオォオオオン!
再び、先程と同じ轟音がアリシアの聴覚を襲った。どうやら大砲を背中に従えた者が、大剣に向け砲撃しているらしい。キーンと耳鳴りが聞こえる。目の前で繰り広げられる光景に、アリシアはそれ以上微動だにできないでいた。ただただ、その戦いの行く様を見守るだけ、それだけで精一杯だったのである。
大剣に視線を戻すと、その周りには黒い霧のようなモノが発生し始めていた。よく見るとその霧は、地面に転がる異形の者の屍から発生している様にも見える。徐々に大剣の柄の部分に吸い込まれるように消えていき、やがて全て飲み込まれていた。そして次の瞬間、大剣の刃の部分から無数の突起物が伸び、異形の者達の体を串刺しにしていった。そのあまりにも無惨な光景に、アリシアはとっさに目を閉じた。怖かったのだ。だが、異形の者達が叫ぶ断末魔の声が耳に届く。だから両耳も塞いだ。
やがて闇がやって来る。全てを覆う、深い漆黒の闇がアリシアを飲み込んだ。徐々に意識が薄れていく。なのに…、
グオオオォオオォオオォオオ!!!
ゴガァアアァアァ!!
グエグェグエエェェエェエエエエ!!!!!
耳を閉じたはずなのに、異形の者の断絶の声は何度も何度も頭に響く。どんどん膨らむ恐怖。「もう、何も聞きたくない!」そう強く念じた。でも、声はどんどん大きくなり、こだまのように心に反響していく。
やがて声も恐怖も存在も、全ては闇の中に消えた…。
…………………。
………。
第八話へ続く…