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     「6,嘘」

 おもむろに立ち上がるアリシア。その顔は先程までの笑顔を忘れ、怒りの形相に変わっていた。更に詳しく見てみると、こめかみの辺りには血管が浮き上がってるのが分かる。まさに憤怒しているのだ。


 ギーハは、今は不動人と化したクレイから視線を戻し、目の前の魔剣を見据える。心の中で怒りが沸々と湧き上がり、そしてついには恐怖や痛みを凌駕していく。瞳孔の開かれた目で思い切りにらみをきかせ、グッと唇を噛み締めた。仲間を失った事実が、彼の正気を失わせているのだろう。


 「テメェ!!絶対に許さねぇぇえぞおおおおお!!!」


 体中に怒りをみなぎらせ、両方の拳を力一杯握り、そして吠えた。まさに理性を失った野獣の如く、強烈な拳撃が炸裂する。アリシアはそれを交わそうともせず、真っ向からモロに食らうのだった。次々を繰り出される怒濤の攻撃。


 「やめろギーハ!無駄な力を使うな!」


 隊長は叫んだ。しかし、我を見失ったギーハにはその声は届いては居ないらしく、更にアリシアを殴り続けた。部屋には肉を捉えた重く痛々しい音が、何度も何度も響く。


 その光景にシビレを切らせた隊長がギーハの元へと走り、後ろから羽交い締めにして攻撃を止めようとした。だが、背中から突き出る刃物が邪魔で、うまく腕を押さえつけることができない。「攻撃をやめろ!コレは命令だ!」と叫びながら、なんとか腕を取ろうと試行錯誤する。


 「うるせええええ!!!」


 ギーハがそう叫ぶ刹那、右腕が制止するモノを捉えた。そして隊長の体は、まるで投げ捨てられた空き缶の様に宙を舞った。


 「クレイはオマエのせいで、無に還る事ができなかったんだ…」


 更に何度も何度も、重い拳がアリシアの体を貫いた。後方へ吹っ飛んだ隊長は何とか立ち上がり、「チュリア!」と女兵士の方を見た。何とかしろ、と彼はそう続けたかったのだろう。だがそれを察してか、チュリアは顔を左右に二度に振るだけだった。怒り狂ったギーハを止める術は無い。それは隊長自身にも分かっていることだった。


 「だからオマエも無にはぜってぇえ還さねぇええ!!!」


 三度アリシアに対し、ギーハの咆哮が轟く。一体何度目の拳撃だったのだろう。それはもう誰にも分からないが、ギーハの右手は急に空を貫いた。あまりに力任せに殴っていたため、ギーハの体勢がそのまま前のめりになってしまった。倒れ込みそうになるのを、何とか右足で踏みとどまる。一体何が起きたのか理解できず、目線をアリシアが居たところに移した。そこにはもう拳のターゲットの姿はない。


 「なに…」

 「ギーハ横だ!左横だ!!」


 隊長の声がギーハの耳に届くのと同時に、ギーハは左にかぶりを振った。だが、すでにその時には彼の運命は決まっていたのだろう。目の前でうつむく女が一人、おもむろに顔を上げぎらついた目で睨んだと思ったその刹那、ギーハに向かって飛んだ。


 「だからぁああ!邪魔するなって言ってんだろうがぁああぁあ!デカブツゥ!!!!」


 そう言って、刃物と化した両腕を思い切り薙ぐアリシア。そのまま床に着地したかと思うと、くるりと向きを変え隊長とチュリアの元に駆けた。そのあまりの素早さに、二人は目を奪われ動くことはできない。


 「うぎゃああああぁあ!!!腕が…オレの腕がぁあああ!!」


 アリシアが隊長の目の前に到達した丁度その時、ギーハの断末魔の叫びが部屋中に響いた。隊長はアリシアの肩越しにギーハの姿を確認する。あくまでも視線の隅では、魔剣の動きに注意を払ったままで。


 失われた自分の両腕を見つめ叫ぶギーハ。その足下には、先程まで強烈な拳撃を繰り出していた二つの凶器が無惨に転がっている。先程の魔剣の斬撃が、ギーハの両腕を切り落としたのだ。「うがぁ!うがぁ!」と、もがき苦しむギーハはすでに戦意を喪失していた。


 「あなたは知ってるよね?アイツの居場所…」


 隊長はそう聞かれて、慌てて視線の全てをアリシアへと戻す。そして驚愕した。ボコボコに殴られてたはずの体には、その跡は何一つ残ってはいない。それに、あれだけの動きをした後にもかかわらず、息も乱れず汗もかいてはいないようだった。隊長は心の中で、最期の刻を覚悟した。あまりにも力の差がありすぎる。恐怖を超越し、逆に冷静を取り戻す。


 「アイツなら…さっき地下の書庫にいたぜ。」


 隊長はそっと言った。もちろん嘘である。だがそれを感づかれまいと、必死で演技した。このままでは部隊は全滅してしまう、何とかこの窮地を逃れる方法。今の彼にできた、最大の危機回避行動、それがこの一言だった。


 「本当?」


 アリシアの疑いの眼差しが隊長の体を、そして心に突き刺さる。それでも彼は耐え、祈った、祈った、祈った。数秒の後、彼らが崇拝するアグニ神はその祈りを聞き入れたらしい。


 「わかったわ。ありがとう…」


 そう言ってきびすを返すアリシアの姿を見て、隊長はこの上ないほどの脱力感を感じた。それはチュリアもそうだったに違いない。扉へ向かうアリシアの両手は、見る見る人間のソレに戻っていく。そして、部屋を出て、廊下を進む魔剣の背中をただただ見つめる二人。危機は去った。


 部屋には、ギーハの悲痛の叫びが何度も何度も響く。



第二章へ続く…



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