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     「5.力の差」

「ガハッ!」


 アリシアは大きく口を開き、嗚咽と唾液を漏らした。喉の奥、腹の底から熱いモノがこみ上げてくるのがわかる。それほどに、みぞおちを捉えた鋭い突きは強烈だった。そして、腹部を両手でしっかり押さえ、その場に膝から崩れ落ちる。


 みぞおちにめり込む拳を通して、確かな手応えを感じたギーハ。「ふんっ…」と、軽く鼻で笑い飛ばした。たぶんその一撃で、勝負がついたと思ったのだろう。目の前でふさぎ込む女の姿を見下ろし、更に攻撃を仕掛けようと体勢を整えた。「案外余裕だったな…」ギーハの脳裏には、もう勝利への確信しかなかった。でも彼は気づくべきだったのだ、仲間の兵士が6人、この部屋で殺されているのだという現実に。


 次の瞬間、ギーハ以外の三人は知る事になる。魔剣の圧倒的な力を。そして、目の前の女が本当に魔剣アリシアなんだと言うことを。


 「!!!」


 隊長は絶句する。チュリアと新米兵士に至っては、何が起きたのか分からないといった感じで呆然とその場に立ちつくしていた。三人が見つめる先、ギーハの背中からは鋭い刃物状のモノが突き出ている。紅い液体を刃先から滴らせ、ぬらりと怪しく光るソレこそが、アリシアが放った魔剣の一撃に違いなかったのだ。


 三人の居るところからは、ギーハの大きな背中が邪魔になってアリシアの姿を確認することはできない。ただ、ギーハだけは気がついていた。目の前でうずくまって居たはずの女が、今は自分の顔を見上げ冷徹な笑みを浮かべていることに。アリシアにとって先程の強烈な一撃は、ただ衝撃を受けただけ。痛みという感覚は、全く感じていないのである。


 「邪魔しないで…」


 ギーハを見上げ、口元に着いた唾液や胃液を左腕で拭いながらアリシアは言った。ここでやっと、ギーハは腹部に強烈な痛みを感じる。視線を更に下ろし自分の腹部に目をやると、そこには女の右手から伸びた刃物のようなモノが突き刺さっていた。傷口の辺りで、ドクドクと生命の鼓動が波打っているのを感じる。頭の中では、アリシアを軽く見ていた自分への後悔と悔しさが大きな渦となってグルグルと渦巻いるかのようだった。


 「あの男の居場所を教えて。」


 もう一度アリシアが聞く。だが、何度聞かれても、ギーハにも他の三人にも一体誰のことなのかが分からなかった。苛立ちを覚え、魔剣アリシアが刃物へと変化した自分の右腕に力を込める度、ソレはズブズブとめり込んでいく。さらなる激痛がギーハを襲うが、力一杯口を塞ぎ声を漏らすことはなかった。


 「神よ!オレに更なる罪をぉおぉおおお!!!」


 そう大きく叫び、ギーハは自分に突き刺さるアリシアの右腕を両手で力強く握った。ありったけの力を込め、刃物を更に自分の肉体にめり込ませ動きを封じる作戦だ。それは、まさに自 殺行為である。両手のグローブは切り裂かれ、手のひらにもろに痛みを感じた。それでも、握った手を緩めることはない。


「今だクレイ!オマエの力を、この女に見せつけてやれぇぇ!!!」


 後ろを振り向きつつ叫ぶギーハ。急に自分の名前を呼ばれ、新米兵士は一瞬怯んだ。だがすぐに気を引き締めなおし、隊長の方をちらりと見る。そして、隊長が軽く頷いたのを確認し、おもむろに左手の防具を取った。そこに現れたのはただの人間の手だったのだが、徐々にソレは形を変えていく。人の肌の感じを失い、徐々に鋼鉄化していくクレイの肌。最終的には銃口のような形に変化していた。それは、魔銃の力が覚醒した瞬間である。


 素早く魔剣の姿を完全に捉えられる位置、ギーハの右後ろにあたる所まで移動し、生まれ変わった左手を目標へと向ける。その光景を静かに見守る隊長とチュリア。いつ自分に攻撃の矛先が向けられるかもしれない。そんな恐怖感が二人をそうさせているのだ。


 銃口をアリシアへ向けたまま、クレイは少しためらっていた。ギーハの体が大きすぎて、自分の攻撃が当たってしまうのが目に見えていたからだ。そんなクレイの心の動揺を察したのか、隊長が激を飛ばす。


 「ギーハに当たるなんて事考えるじゃねぇ!!!早く打ちやがれバカヤロウ!!!」


 その一言で、クレイの中の何かが弾けたようだった。そして、ギーハにも負けない程の雄叫びを上げ銃撃を開始したのだ。


 ズバババババババババッ…


 無数の弾丸がアリシアを襲う。そういう光景を、クレイは頭の中でイメージしていた。だがそれは、単なる妄想へと変わる。アリシアが空いた左手を軽く薙と、そこから凄まじい衝撃波が生まれた。そして、いともたやすく弾丸を四散させたのだ。そのまま、衝撃は力を失うこともなくクレイの元まで伸びる。


 「!!」


 不意をつかれたクレイは、それを交わすこともできず正面からまともにくらった。そして、一気に後ろの壁まで吹っ飛び体がめり込んだ。見ると防具の一部が粉々に砕け、素肌が露出いる。


 「だから邪魔しないでって言ってるでしょ!」


 怒りを露わにしてアリシアが叫けぶ。


 三人が視線を送る先で、クレイの体はドサリと音を立て床へと落ちる。その上に、ぱらぱらと壁の砕けた破片が降りかかった。壁にできた大きな窪みと亀裂が、衝撃の激しさを無言で語っている。「この部屋にまた一人、生を失ったモノが増えた…。」三人の残された兵士達は、動かなくなったクレイを見つめそう思う。そしてこのままでは確実に、自分たちもその仲間の一人になってしまうのだとも実感したのだった。



第六話へ続く…



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