「43.天使の力・罪人の力」
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ルキアは少し考えた後、一つの答えにたどり着く。それは、「自分で考えるよりも、直接本人に聞くほうが早いと!」という、意外と安易な答えだった。考えるよりも先に、体が動くタイプの、最も彼らしい回答ではある。
そしてルキアは、クレイの傍に座るミアに、優しい口調で話しかける。
「おいミア、スマンがそいつの回復を急いでくれるかぁ。ちょっと、聞きたいことがあってな。ミア天使様のお力で何とかしてくれや。」
そう言われても、ミアは喋る事もしないで一つ頷くだけ。でも決して、怒ってそういう素っ気無い態度をとっている訳ではない。回復を施す為に言葉を紡ぎ、話すことができないだけなのだ。
その事はルキアも解っていたので、それ以上は何も言わない。只でさえ、愛するクレイをここまで痛めつけられ、彼女は虫の居所はすこぶる悪い。自分の無駄な言葉で、更にミアがへそを曲げてしまっては、さすがの大隊長ルキアでさえも手に負えなくなってしまうのだった。
ミアにしてみれば、ルー隊長に急かされなくても、自分は充分急いでいると思っていた。鼻や口からダラダラと血を流し、ボロボロになったクレイを見たくは無い。その一心で、少しでも早く治してあげたいと心の底から願い、言葉を紡ぐ速さを上げている。それはクレイの為であって、自分の為でもあるのだから。
数秒後、ついに回復の準備は整った。ミアはクレイの腫れ上がった顔にそっと手をかざす。そして今まで紡いできた言葉達を、一つの言葉にまとめ力強くソレを発した。
「ウィキアーデ♪」
癒しをもたらす神聖な言葉が部屋に響いた。
たちまちクレイの凸凹だった顔が、元通りに復元されていく。出血も収まった事を確認し、彼女はもう一度同じ作業を繰り返す。そして、今度は腹部に堕天使の力を施したのだ。
見た目では全く分からなかったが、クレイの体内では折れていた肋骨や、破裂寸前だった内臓器官が元の正常な状態に戻っていく。ルキアがあと数回蹴りをくわえていれば、たぶんクレイは天使の力ではどうしようもない状態になっていたのかもしれない。
「う…うぅ…。」
意識を取り戻したのだろう、クレイが低く唸る。その事実に真っ先に反応を見せたのは、ミアだったという事は言うまでもない。
「クレイちゃん!クレイちゃん!」
そう叫びつつ、クレイの体にしっかりと抱きついた。そうする事で彼女は、心の底からの嬉しさを表現したのだ。その姿を見ていたルキアは、クレイを叩き起こし直ぐにでも話を聞きたい気持ちを堪え、二人をそっと見守っている。それはルキアだけではなく、その場にいた全員が同じような状況だった。皆が2人に視線を送り、二人の世界を邪魔しないように温かく見守っていた。
「う…ぐぅぅ…。」
ミアにきつく抱きしめられ、クレイはたぶん息苦しくなったのだろう。一気に目を開け、自分にしがみ付くミアを見た。
「ミア…たのむ…苦しい…。」
言葉も途切れ途切れで、クレイが言う。その声が更にミアを喜ばせ、自分に追い討ちがかかる結果になるとまでは考えてはいないようだった。
「クレイちゃ〜〜〜ん♪ミア、本当に心配だったんだからっ!」
そう言ってミアは、しがみ付く腕に更なる力を込め、クレイの腹部にどんどん食い込ませていく。今の彼女に、「加減」と言う言葉は無いようだ。グイグイ締め付けられ、クレイの顔が徐々に紅く染まっていく。さすがにこのままではやばいと判断したルキアが、そっとミアに話しかけた。
「ミア、そろそろクレイと話たいんだが、いいかな?それにそのままだと、クレイまた倒れちゃうぞ…。」
そう声をかけられ、ミアは急に腕を解きルキアを見た。その顔は確実に怒っている。それを見てルキアは「しまった。」と後悔したのだが、もう遅かったようだ。ミアはルキアを睨みつけながら言った。
「ルー隊長!今度私のクレイちゃんにこんな事したら、もう絶対に許さないから!分かった?」
「あ…あぁ…肝に命じておくよ…。」
ミアの気迫に押され、ルキアはたじたじになりながら答える。どうやらこれが、この部隊の本来の姿のようだった。このルキア部隊を裏で仕切っているのは、紛れも無く最年少のミアなのだろう。
「返事はハイでしょ!」
「は…はい…。」
まるでルキアは、母親に叱られる子供のように身を縮めていた。その姿を見て周りの外野は必死に笑いを堪えていることに、彼は気がついていないようだ。
「よろしい。」
そう言いながら頷き、ミアはその場をルキアに譲った。ルキアは咳払い一つして、調子を整えクレイの横に膝を落とし軽くしゃがむ。その姿を確認したクレイは、驚いてすぐに上体を起こそうとしたのだが、ルキアがそれを軽く制した。
「いや、そのままでいい。さっきは悪かったクレイ。上司として恥ずかしい行動を取ってしまった。深く謝る。」
「いいえ、オレの方こそ悪いんです。知らなかったとはいえ、本当にスミマセンでした。」
「そうか。…とりあえず、この話はもういいんだ。実はお前に聞きたいことがあってな。」
そう切り出され、クレイの心臓は跳ね上がる。ルキアが今のような感じで、前置きを置いてから何かを聞く時は、大抵自分に非がある質問なのだと彼は分かっていた。一体何を聞かれるのだろうと、内心ドキドキの状態でルキアの次の言葉を待つ。一方、ルキアは一呼吸置いた後、また話すのを再開した。
「あのな、オレは気になったんだ。お前は、本当にその魔銃の力だけで、あの奈落を倒したのか?まさか戦闘能力の無いチュリアを、前線に立たせ戦わせてはいないだろう?」
「え…えと…。」
ルキアの言葉がクレイの心臓を突き刺し、彼は止めを刺された気分だった。そう聞かれるとは思ってはいたが、それに対しての答えを用意するほどの時間が無かったのである。彼は、動揺する心を隠そうと必死になった。でも、隠そうと思えば思う程、明るみに出てしまうのだ。
「お前の報告はこうだった。奈落を倒した後、一瞬の隙をつかれてチュリアが刺されたと。そう聞いて俺はチュリアの事だけを考えてしまった。だけど、どう考えてもおかしいんだ。オレでも奈落を倒すのに一人では厳しいのに、お前なんぞが一人で倒せるもんなのかね。」
「…。」
クレイは何も答えられぬまま、だんまりを決め込んでしまう。それがかえって、彼の状況を悪い方向へと追いやって行った。
「まぁ、自分で答えられないならそれでもいいさ。悪いが今すぐ答えが知りたいのでな。ギギの力を使わせてもらうぞ。」
そうルキアに言われ、クレイはその場で凍りついた。何故ならギギは読心術の使い手なのだ。「愚かなる罪人」であるギギだけが使えるその術の前では、クレイが素直に答えようと、頑なに沈黙を決め込もうと全く関係は無いのである。確実に全てが、アリシアとの時間がばれてしまう。そう思い彼は、思い切って口を開いた。
第四十四話へ続く…