「41.情報交換」
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部屋には、沈黙の時間がサラサラと流れる。
激しい睨み合いの末、先に怒りを解き喋り始めたのは、もう一人のアリシアだった。
「もういいよ。こんな言い合いしていたって無駄なだけ。今はあなたといがみ合っている場合じゃないわ。」
そう言って、馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情を浮かべる。それでもアリシアは、まだ納得がいかない様子だった。事実、もう一人のアリシアに「無駄」と言われ、彼女の怒りは増している。話し合いを主張する彼女にとって、今のこの状況を無駄の一言で済ませられては合点がいくはずがない。
「……。」
アリシアは黙ったまま睨み続ける。急に冷めてしまった、もう一人のアリシアにとって、その目は少しだけ怖く思えた。自分と同じ目なのに、何かが違う。その違和感が、彼女の心の中で恐怖を感じさせるのだ。
「わかったわよ。無駄だと言った事には謝るわ。ごめん。でも、ここでこのまま睨み合いを続けていたって、何も答えは見つからない。今はまず先に進まないと。そうでしょう?」
ゆっくり諭すように言葉を紡ぐ。謝ってくれた事に対し、少しだけ許す気になったのか、アリシアは「わかった。」と一言だけ言った。
「じゃぁとりあえず…」
「ちょっと待って。」
もう一人のアリシアの言葉を、急に制止するアリシア。もう一人のアリシアは、何事かとアリシアを見つめ、そして次の言葉を待つ。
「話の前に、私も謝りたい。ごめん。」
とても小さな声だった。うつむき、今にも泣きそうな声で、アリシアは謝った。そんな彼女の姿を見つめるもう一人のアリシアの目は、優しさを取り戻していく。そして、またパンパンと二度手を叩く音が鳴る。それは暗い雰囲気を変えようと、もう一人のアリシアが出した音だった。そして彼女はおもむろに話しだす。
「はい!しんみりタイムは終わり。元気良くいこー。」
「うん。」
一つだけ頷き、アリシアは顔を上げた。そして零れかけていた涙を拭い去り、すぐに笑顔を取り戻す。同じ顔をしているのに、同じアリシアなのに、お姉さんと妹みたい。そうアリシアは思ったが、あえて口には出さずに、そっと心の隅に仕舞い込む。
「さて。じゃぁ改めて、とりあえず今お互いが持っている情報をまとめたいの。」
もう一人のアリシアがそう切り出した。初めて会った時から、もうかれこれ1、2時間は経過している。その間にお互いが思い思いに行動し、色々情報を得ているだろうと、つまりはそういう事だった。アリシアはそれをすぐに理解し、了解した。
「それじゃぁまずは、私からね。」
もう一人のアリシアはそう言って、今まで自分に起きたことの全てを語り始める。
モニタールームを出た後、黒兵士と戦い、そして黒服の嘘の情報を得て地下に行った事。地下で急に停電になり、肉の塊と戦った事。その後訪れた大聖堂で、老いた神官に出会い、様々な話を聞いた事。そして最後に、自分が見た不思議な夢の事。彼女が経験した事の全てを、要領を得て素早く完結に語り尽くした。
それらを聞き、アリシアは少しだけ驚いた。彼女も自分と同じく、森の夢を見たのだという事に深く興味を示す。
「あなたも森の夢を見たんだ…。やっぱりアレは、私たちの記憶なのかな?」
そう言ってアリシアは、腕組みをして深く考え込む。
「アレが記憶かなんて、私にも解らない。でも、お互いが同じ夢を見るって事は、もしかしたらそうなのかも…。」
「そうだよね。」
そう言って、二人は同じく腕組をして考えた。でも答えなど見つかるはずも無く、もう一人のアリシアが言う。
「とりあえず、この話は後にしましょう。次はあなたの番よ。」
「そうだね。解った。上手く伝わるか心配だけど。」
そう言って、アリシアも今までに起きたことを話し始める。モニタールームで黒服が映った映像を見た事。その後急に停電になって、通風孔を通って隣の部屋に行った事。そこで、クレイとチュリアに協力して肉の塊を倒した事。チュリアが死んだ事。クレイと色々な話をした事。そして彼女も、最後に森の夢について語る。もう一人のアリシアほど上手くはなかったが、ちゃんと伝わっているようだ。
全ての話を聞き終わり、もう一人のアリシアは少し思案してから口を開いた。
「やっぱりそうだったんだ。」
「え?何が??」
「レプリカよ。私は今まで、自分が何者なのか正直解らなかった。普通の人間ではないとは思っていたんだけど。なるほど、それで私は12号。やっと全てが理解できた。ありがとう。」
もう一人のアリシアは、晴れ晴れとした顔でそう言った。全てを理解し、胸の奥にあったわだかまりから開放されたからだ。
「私は、自分が記憶喪失だと思っていたの。でも実際はそうじゃない、記憶は失ったんじゃなく始めから無かったのね。あ、でも…。」
そこまで話して、もう一人のアリシアは訝しげな顔になる。その顔にアリシアも困ったような顔をして聞いた。
「でも…何?」
「う〜ん。でもね、そのクレイとかいう人の話だと、アリシアは10年前に無に還った。たぶんね、あの森の夢がその事件の記憶だと思うの。」
「うん。私もそう思う。」
「でも、だとしたら、レプリカは作る事はできないって、そういう事でしょう?じゃぁ私たちって、本当にレプリカなのかな?」
「う〜ん…。」
2人は更に深く考え込む。思案すればする程に頭の中がぐちゃぐちゃになり、混乱していった。消え去っていた筈のわだかまりが、新たに生まれ始めていくのを感じる。結局2人の持つ情報を合わせたところで、何の進展も無かった。そのことに落胆さえした。
「もぉ〜〜〜!!考えていてもしょうがない。とりあえず、あの黒服を探して、アイツに全てを聞こう。」
一気に暗く沈みこんでいた雰囲気を、もう一人のアリシアの言葉が見事に打ち砕く。アリシアもすぐにそれに賛成した。とりあえず行動を起こすしかないと、二人はそう思い、お互いの顔を見つめ深く頷く。刹那、
「ふざけんじゃねぇーーぞ!このクソガキガァアアァア!!!」
部屋の外で男の怒鳴り声が聞こえた。
第四十二話へ続く…