「4.対峙」
何分、仕事を抱える身なので
ここからちょっと一話一話が短くなりますが・・・
ご理解の程よろしくお願いします。
角の生えた兵士の傷口を撫でつつ、女兵士が隊長の言葉に続いた。
「じゃぁ私たちも、こうなりかねないって事ね…。」
「そういう事だ。」
隊長と女兵士は、二度と目を開く事の無くなった角兵士を見つめる。「無に還る事無く果てた者達に黙祷…」隊長が言った。他の三人はその命に従い目を閉じ、心の中で哀悼の意を捧げる。そして、しばらくの静寂が部屋を包んだ。
数秒の後、隊長が頭を上げる。重いため息を一つつき、三人に視線を送りながら言った。
「よし!詮索を再開する。三人とも気をつけろ、魔剣はまだその辺りをうろついてるかもしれないからな!」
「わかったわ…」「了解。」「わかりました隊長。」隊長の号令の元、三人はまた部屋の詮索を始める。女兵士は二つ並ぶ筒状の機械を、がたいの良い兵士は他の仲間の遺体を、新人兵士は床に散らばる紙切れをそれぞれ調べた。
女兵士は床に散らばったガラスの破片を気にしつつ、ゆっくりと機械の周りをぐるりと回る。そして正面だと思われる辺りに戻り、目の前にあるモニターに目をやった。そこには女の顔の画像と、詳細なデータが映し出されていた。
「隊長、ちょっとコレ見て…」
「ん?どうした、何かあったのかチュリア?」
女兵士の名を呼び、散らばるガラス片など気にすることもなく機械の方へと向かう隊長。ジャリジャリと音を立て、破片は更に粉々になっているのだろう。そして、女兵士チュリアが指し示すモニターを覗き込んだ。
「ほぅ…こいつが魔剣か…まさか女だとはな………ん、アリシア…?どこかで聞いた名前だな…」
画面に軽く指を置き、なぞるようにしてデータを見る。名前や性別、身長や体重等々、上から順を追って見ていった。一通り目を通し、隊長は「う〜ん…」と軽く唸る。思い出せそうで思い出せない、なんとも嫌な感覚に襲われているのだ。チュリアは一つため息を漏らす。
「何変な事言ってるのよ隊長…アリシアって言えば…」
「おい……あれ……」
呆れ半分でチュリアが何かを言いかけた時、がたいの良い兵士の野太い声がそれを遮る。声のトーンは先程よりも低く、押し殺 しながらもその場にいる他の三人には十分伝わる程の大きさだった。
「ギーハどうした?」
「何よ?」
そう疑問を投げつつ、がたいの良い兵士ギーハの方を見る隊長とチュリア。新人兵士も、書類をかき集める手を止めそちらを見る。ギーハはしゃがんだ格好で、研究員の白衣を調べていたのだろう。片手に脱がせた白衣を持ち、もう一方の手には手帳のようなモノがあった。だが、その顔は扉の方を見ている。防具のせいで表情は見ることはできないが、体は硬直していたように見えた。
ギーハの異変に気づき、扉の方を見る三人。そして、ほぼ同時に驚きの声を上げてしまう。扉の先、伸びる廊下の途中で、全裸の女がこちらを見て立っているのだ。遠くてよくは分からないが、その表情は確かに笑っているように見えた。
「おまえら、戦闘準備はいいか?」
視線はそのままで、隊長が小さな声で聞く。廊下にいる女の顔、それは今モニターで見た魔剣のソレだったからだ。戦いになる、そしてここで無惨な死を遂げるかもしれない、そう思いつつ体中に力を込めた。他の三人は軽く頷き、それぞれの位置で体を女の方へと向けた。目の前にいる女が魔剣である、三人はとっさにそう判断したからだ。
ゆっくりとゆっくりと部屋の方へ迫る魔剣の女。ある程度距離が詰まると、その表情が伺うことができた。口の端に笑みを浮かべ、獲物を見つけたかのようなぎらついた目が印象的である。
「あの男は何処?」
魔剣アリシアが口を開いた。部屋いいる四人は、その質問に答えることはない。沈黙を決め込み女の様子を伺っているのだ。脚の動きを、腕の動きを、表情の変化を、そして呼吸の変化を。女の一挙手一投足の全てに全身全霊をかけ注意を払う。
「なんで答えてくれないの?私はあの男に用があるの。」
アリシアがそう言った頃には、もう部屋の入り口までたどり着いていた。部屋中に緊張が走る。兵士達は未だ動きを見せず、黙ったまま女の言葉に耳を向けた。だが、彼女の言う「あの男」とは誰なのか、兵士達には皆目検討もつかないのだ。
「一体、誰のことを言っているんだ?」
隊長が聞いた。長年戦いに身を置いてきた、熟練兵士の姿がそこにはある。緊張する心を悟られまいと、あくまでも冷静を装い憮然とした態度をとった。他の三人は未だ黙ったまま、アリシアを見つめ動くことができない。何か目には見えない強い力が、三人の体を羽交い締めにしているようだ。
「誰って…」
アリシアは少し考えを巡らせた。誰と聞かれても名前など知らなかったし、何者なのかも分からない。だから、何とか兵士に男の特徴を伝えようと思い、頭に残る男の姿を思い浮かべたのだ。頭の中には、ただただ黒い服を着た姿だけが浮かぶだけ。その瞬間アリシアに隙が生まれる。そして激動するモノが一人。
「うおぉおおぉおぉおおお!!!!!」
この瞬間を待っていたのか、雄々しい雄叫びに似た声を上げギーハが突っ込んだ。だが、手には武器になるような代物は持ってはいない。肉弾戦が彼の十八番なのだ。一気に距離を詰め、ありったけの力を込めた拳をお見舞いする。そして、ギーハの強烈な一撃は、確かにアリシアのみぞおちを捉えていた。
第五話へ続く…