第4章 「森//4」
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深い闇の末、アリシアは再び森にいた。
自分の姿を確認すると、先ほどまでと同じ白衣を着ている。現実と、この森は繋がっているのだろうかと、彼女は思った。しかし、そんな事を悠長に考えている時間はなかった。
何故だか勝手に体が動く。それは、とても不思議な感覚だった。自分の意思を無視して、腕や足、口や目の玉まで、体の全てが何かのスイッチが入ったかの様に勝手に躍動を始める。
真っ先に彼女の目に飛び込んできたのは、見たことの無い女性の亡骸だった。だけど口が勝手に動き言葉を吐き出す。
「どうしてよ!どうして、お母さんを殺 す必要があるのよ!私はどうやってお父さんを止めることができるのよ!!!」
自分でそう叫んでいるのに、頭の中のアリシアには暫く理解できずにいた。目の前の亡骸を、自分はお母さんと呼んでいる。そして、たぶんお母さんを殺 めたのは、自分なのだろうという予想はできた。でも、何故殺 めててしまったのか、そして父親を止めるというのはどういう事なのか。その二つについては理解不能であった。
「私が魔剣の娘だからって、何もできっこない!ねぇ答えてよ!お母さん!!」
そう言ってアリシアは、母親を死の世界から引き戻そうとしたのだろう。亡骸の両肩を持ち、何度も何度も揺さ振ろうとした。その刹那、彼女はあることに気がついた。自分が触った部分の服が引き裂かれ、母親の生暖かい肌からは血が滲んでいるのだ。彼女はその事実に気がつき、驚いてすぐに手を離した。そして、恐る恐る自分の手を見る。
「キャッ!」
と、思わず叫びを上げてしまう程、彼女は驚いた。自分の手は、もはや人間のソレではないのだ。指の一本一本が鉤爪のように変形し、皮膚も肌の色を失い灰色っぽく変色している。更に見ると、その異様な変化は手だけではなく腕まで達していることが解った。それはまさに、母を殺 した「罪」に対しての「罰」がなせる変化。魔剣として目覚めた瞬間だ。
「これで…お父さんを殺 せるの?」
また勝手に口が動き、そう呟いた。その声はとても冷静で、先ほどまでの動揺は微塵も感じられないと、頭の中のアリシアは思う。体のアリシアと言うべきか、彼女は魔剣へと変化しつつある自分の手を見て、全てを悟り、そして全てを覚悟したのかもしれない。
体が勝手に動き始め、今度は後ろを振り返った。視界には、頭のアリシアが始めてこの森で見た光景が広がっている。大きな剣と、異形のモノたちが激しい戦いを繰り広げていた。そこで頭の中のアリシアは、これはやはり自分の過去なのだと理解する。自分の中にいる、本物のアリシアが見せてくれているのだと、そう考えた。
やがて腕が動きだし、パンパンと二度自分の頬を叩いた。それは、アリシアが気合を入れるときの癖だった。不思議とその痛みを、頭の中のアリシアが感じる事は無い。
「フゥ〜…。」
と、両目を瞑り、深い呼吸を一つつく。
「お母さんの死を、無駄にはしないよ。」
そう呟いたかと思うと、彼女は目の前にそびえる大剣へ一気に向け駆け出したのだ。
だが、自分と大剣の間にはたくさんの異形の者たちがいる。物凄い勢いで駆けるアリシアを、何匹かの異形のものが気づき、雄叫びを上げ、彼女の存在を周りのモノに知らせ始めた。すると、一斉に複数の鋭い眼光がアリシアへと向けられる。
それでも彼女は臆する事無く、駆ける速さを更に上げ突っ込んだ。まさに猪突猛進の勢いである。
「うわぁあああぁああああぁ!!!!!」
大きく開かれたアリシアの口からは、異形のモノに負けないほどの雄々しい咆哮が吐き出された。そのまま、異形のモノたちの軍勢に突入したのだった。
剣や銃や炎、更には打撃や投石等、様々な攻撃を軽快に避けつつ、アリシアの両腕が異形のモノたちの胴や首や背中を次々と薙ぐ。その動きはあまりにも見事で、異形のモノたちの中には戸惑いを見せるモノもいるぐらいだった。それでも尚、激しい攻撃がアリシアを襲う。
どれぐらいの数を切り裂いただろう。彼女が通った後には、無数の亡骸で作られた絨毯ができていた。この時点で彼女の変化は腕だけではなく、体中が灰色に変色していた。もはや人間の姿では無いと言う事に、彼女は全く気がついてはいないだろう。
今はそんな事を考える程の余裕などない。頭の中のアリシアも、自分の戦況を理解するのに精一杯だったはずだ。
大剣に近づくにつれ、敵の密集率は上がる。故に、攻撃も更に激しさを増していった。それでもアリシアは攻撃をかわし続ける。さすがは魔剣の血筋なのか、それとも生まれながらの戦闘センスなのか。これが始めての戦いとは思えない程、それはあまりにも見事だった。
迫る敵を次から次へと切り裂いているうち、彼女の周りで明らかな変化に気がついた。自分の腕以外の何かが、敵を切り裂いているのだ。それは紙のように薄い灰色の物体で、どうやらそれは自分の体から伸びているらしい。
初めて大剣を見た時も、刃の部分から何かが伸び、周りの異形のモノを突き刺していた事を思い出す。これが魔剣本来の力なのだろうと、頭のアリシアは推測する。
やがてその紙のような刃が、体から伸びては敵を切り裂き、そして体へと戻り巻き付いていくという、一連の行動を繰り返し始めた。それはまるで包帯のように体を包み、彼女の体を徐々に変化させていく。もはや女性独特の曲線などはなく、ごつごつとした異形の姿に変わり始めていた。
そしてついに、彼女は腕を振るう事もままならなくなってしまう。刃が腕にも巻きつき、その行動を封じてしまった為だ。しかし、今の彼女にはもう腕を振る事は無意味なのかもしれない。体から伸びる刃が、周りの全てを切り裂くのだから。
足だけはまだ、無事だったので。今は走ることだけに専念しているようだった。
やがて、大剣はもうすぐそこまでの所まで到達していた。もうこの時には、顔すらも刃に覆われているらしく、しゃべることができないのだろう。体のアリシアの思念が、頭のアリシアには聞こえたようだった。
「お父さぁーーーーん!!!」
思念はそう叫んでいた。その時になって、頭のアリシアは、目の前にそびえる大剣が父なのだと気がついた。
そしてついに、刃は軽快に駆けていた足までもを捉え始めたようだ。徐々に走る速さが落ちていく。「このまま止まってしまうのでは?」と、頭のアリシアが思った時、アリシアは最後の一歩を踏んだ瞬間、思い切り上へと飛び跳ねたのだ。
もはや人間ではない魔剣の体は、その跳躍力も頭のアリシアの想像を遥かに越えていた。一気に大剣の柄の先をも超え、天高く舞い上がる。だがそこにも、空を飛び回る異形のものが存在していた。その数、数十匹。だが、魔剣アリシアはそれらをいとも容易く切り裂き、地面へと還したのだ。
その時にはもう、それが人間だったのかも解らない程、変化は進んでいた。返り血に染められた、紅い魔剣。もはや、完全に剣そのものだ。
やがて魔剣は落下を始める。魔剣アリシアが落ちる先は、柄と刃が交わる部分。よく見るとそこに、ドクドクと波打つ小さな物体が見て取れる。まさにそれが大剣の心臓なのだ。
「うわぁあああぁああああぁ!!!」
体のアリシアの思念が頭に響く最中、魔剣アリシアは見事大剣の心臓を突き刺したのだった。
第四十話へ続く…
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