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     「20.魔剣叫ぶ!」

今後の活動の糧にしたいので、

ぜひともコメントや評価お願いします。

 先ほど戦闘を交えた時は、どこか冷たい印象を受けた。でも目の前で自分達を助けようとするアリシアは、人間味があるというか、どこか暖かい雰囲気だ。誰かを探しているようだったし、隊長の言葉を聞き地下へ向ったはず。なのに、なんで戻ってきたのだろう。


 チュリアは色々な事を考える。だが、それをアリシアに聞くことは無かった。もしかすると、自分達を油断させるつもりなのかもしれない。だから口を開く代わりに、アリシアの一挙手一投足を鋭く観察することに決め込んだのだ。


 クレイの方は少し動揺気味で、銃口を向ける先を肉の塊にするべきか、アリシアにするべきか悩んでいるようだった。どちらにせよ、彼らにとっては始末するべき対象なのだ。暫く悩み、そして今は最も危険度の高そうな肉の方をターゲットに決める。


 「イダイ…イダイ…ワダシノカラダガァー…オマエ…ゴロスゥウゥウウ!」


 肉の塊が叫んだかと思うと、新たな触手が数本伸びてきた。「来ます!」とアリシアは声を張り上げつつ、迫り来る肉の攻撃を魔剣と化した右手で薙ぎ払う。それでも数本残ってしまい、それは後ろのクレイとチュリアへと襲い掛かった。


 腹部の痛みからだろう。二人の動きは少し鈍っているようで、その攻撃を横へ飛んで避けるのが精一杯のようだ。クレイは着地後すぐに、肉へと銃口を向け銃撃を開始した。だが今回は全く手ごたえを感じられない。着地後すぐということもあり体勢が悪かったし、腹部から届く痛みと痺れのせいで手が震えている。それでも数発は、目標を捉えているようだった。


 「イダイ…ゴロス…イダァーイ…ゴォロォズゥウウウ!!」


 次々と生まれる肉の武器が、執拗なまでに三人を襲う。アリシアは何度も何度も薙ぎ、徐々にだが肉との間合いを詰めて行った。このままではらちが明かない、一気に本体を倒すしかないと理解したようだ。


 何本も何本も、鋭利な突起物のような肉の武器が伸びてくる。アリシアがどれだけ薙ぎ払ったところで、その数が減ることは無い。逆に、地面に落ちた肉片の数以上に、新たな獲物を生み出しその数は増え続けている。アリシアの剣撃だけでは、攻撃を受け流すのは困難な状況になってきた。


 クレイは必死に銃撃を続ける。チュリアは左手で腹部をかばいつつ、クレイの後ろへ陣取っていた。そして口の中で、なにやらモゴモゴと唱えている。それこそが、彼女お得意の治癒術を使う為の呪文のようなものなのだろう。だが、クレイの脇を抜けて迫る肉の攻撃を交わす度に、呪文の詠唱は遮られなかなか治癒術を使うことができないでいた。


 「チュリアさん、こいつを倒したらどれだけの罪が得られるでしょうね?」


 「そんな事、解らないわよ。私は神じゃないんだから!!」


 クレイの声は少しだけ楽しそうだった。この戦いを楽しんでいる様なその態度がチュリアは気に食わず、投げやりな言葉を返す。それによってまた呪文の詠唱が遮られる形になった。


 「何でもいいから攻撃に集中しなさい!私の邪魔はしないで!!」


 そう言ってまた呪文を再開する。腹部の痛みに耐えつつも意識を集中し、頭に浮かぶ言葉の羅列をそのまま口に出す。


 「ルビデゥデス…ゴルンバサジモ…バレ…ユキアデリアート…」


 呪文を紡いでいくにつれ、彼女の両手に温かな力が生まれていった。そして、右手を自分の腹部に当て、左の手をクレイの傷口に当てる。「ウィキアーデ!!」それが呪文の最後の節だった。彼女の両手から一気に温かな治癒の力が解き放たれ、2人の傷口を癒していく。魔に堕ちた天使が使える治癒の力。それは個人差が若干あるものの、これ位の傷なら直ぐに塞がり癒えてしまう程強力な力だ。


 「ありがとうございます!さすが天使の力ですねっ。」


 傷の痛みも熱も痺れも一気に消え、クレイは元気よく彼女に言った。だが、チュリアにとってその言葉は侮蔑の言葉でしかない。


 「私を天使と呼ばないでと、いつも言っているでしょう!」


 今までに無いほど怒りを込め彼女は叫んだ。頭の防具のおかげで直接覗う事はできなかったが、彼女が放つ鋭い視線をクレイは読み取ることが容易だった。それほどにチュリアは憤怒しているのだ。


 「す…すみません…すみません…。」


 クレイは何度も何度も謝った。だが、彼女の怒りが収まるような気配は全く無い。二人のやり取りが続く中、肉の塊が絶叫する声が響いた。


 ギャアアァアアァアアアァアアア!!!


 チュリアも、そしてクレイも直ぐにそちらに視線を凝らす。アリシアの右腕が、見事に肉の塊を貫いている様がうかがえた。あの猛攻をすり抜け、やっとアリシアの直接攻撃が肉に致命傷を負わせた瞬間だった。


 「この!この!このぉおおぉおおおおお!!」


 アリシアは思い切り叫び、尚も右腕に力を込める。突き刺さった腕を、更に奥へと突き通すためだ。怒りと、困惑とがアリシアの心を襲う。敵を倒すという強い思いと、初めて命を奪う事を体験した憤りが、アリシアを軽いパニック状態にさせているようだ。


 これ以上奥まで届かないと悟ると一度右腕を引き抜き、そして今度は違う場所へと魔剣と化した腕を突き立てる。それを何度も何度も繰り返した。


 「ぐおぉおぉあああぁああぁああ!!!」


 アリシアの咆哮が部屋中に響き渡り、それは後ろで状況を見据える2人にもハッキリと届いていた。2人の元に伸びていた肉の剣もやがて力を失い、地面へと力無く落ちる。だがその事には、アリシアの異様な様に気を奪われている2人には気づいていないだろう。命が救われたという事実よりも、次にあの魔剣の餌食になるのは自分達かもしれないという憶測が、2人をその場に凍りつかせていた。


 グェグエグェエグエ…グエ……グェェ……


 アリシアが剣を刺す度、肉の塊は悲痛の声をあげていたが、やがてはそれも聞こえなくなる。絶命したのだ。それでもまだ、アリシアは魔剣を突き立て続けていた。そして徐々に動きが鈍くなり、ついにはピタリと止まる。体力が尽きたせいだ。突き刺さった腕もそのままで、アリシアの両肩は小刻みに上下しているように見えた。


 その時になって、やっと我に返ったクレイがチュリアのほうを振り返った。この状況でどう動けばいいのか解らず、チュリアに指示を仰いでいるのだ。このままここで休むべきなのか、力尽きているアリシアを今が好機と襲うのか、それとも気づかれないようにこの場を去るべきなのか。


 チュリアは彼の視線に気づき、そして悩んでいることに気づき少し考えを巡らせた。だが、それがいけなかった。肉の塊が動かなくなった事で、少しだけ警戒心を解き、思案し、隙を作ってしまった結果だった。


 「!!」


 突如チュリアの左胸に熱い感覚が走る。


 「チュリアさん!」


 クレイもその事実に気がついたのだろう、困惑と悲痛を交えた声で彼女の名を叫ぶ。見ると、チュリアの左胸には、肉の剣が突き刺さっていた。



第二十一話へ続く…



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