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     「16.寄り添う二人」

 2人の間に、しばしの沈黙の時が流れる。チュリアとクレイが頭の中で思い描いている想像は同じ、十年前の事件についてだった。だが、その内容を口に出そうとはしない。互いに頭の中で考え、そして推理している様だ。


 「あの…俺一つ思ったんですが…」


 不意にクレイが口を開く。深く考えを巡らせ、そしてあることに気がついた、そんな風な口ぶりだ。


 「ん?何か思いついたの?」

 「はい。ただ…これはあくまでも俺の推測なので、まだハッキリとした事は言えませんが…」

 「なによ!何でも良いから早く言って。」


 言いかけた事を、また飲み込もうとするクレイに対し、チュリアは苛立ちを覚え少し大きめの声で急かす。それに驚いたクレイは「あ…はい…すみません…」と、二度頭を下げ謝罪の態を取った。その態度が、チュリアの怒りを更にあおる形になったのだろう、先ほどよりも大きな声で怒鳴った。


 「男なんだから、言いかけたことは最後まで言いなさいっ!」

 「はい…。」


 そして、2人の間にまたしばらくの沈黙が生まれた。怒られた事に対し落ち込むクレイと、こんな事で大声を出してしまった自分に苛立ちを覚えるチュリア。


 先に口を開いたのはクレイだった


 「じゃぁ…俺の考えを話します。」

 「う…うん、お願い。」


 大声を張り上げてしまった事に対し、バツが悪いのだろう。チュリアの声はとても小さかった。


 「もしかして、あの魔剣はセシリアなんじゃないかなって思ったんです。それだったら、あれがアリシアだと考えるよりもつじつまが合うし。」


 クレイの話に対し、チュリアは何も言わなかった。いや、言えなかったと言うべきか。彼の推理が、自分の予想を遥かに超えていたからである。だが全く的外れな意見という訳ではなかった。逆に鋭いところをついていて、彼女には頷く事で精一杯だった。


 「チュリアさんには悪いですが、もしかしてあのモニターを見た時に、名前を見間違えただけなんじゃないかなって…」


 そう言って、クレイは筒状の機械の横にあるモニターに視線を送った。つられてチュリアもそちらに目をやる。確かにあの画面にはアリシアと書かれていた。…ような気がする。今クレイに指摘され改めて考えてみると、もしかするとセシリアと書かれていたのかもしれない。


 「魔剣アリシアが現れるまでは、セシリアこそが最強の剣だと言われていたんです。仮にあの女がセシリアだとして、あの強さは充分に有り得ますよ。」

 「確かにセシリアなら…。」


 チュリアはスッと立ち上がり、魔剣の情報が映し出されたモニターへと歩を進める。もちろん、もう一度名前を確認する為だった。百聞は一見にしかず。2人で論議を並べ立てるより、もう一度画面を見たほうが早いと思ったからだ。


 一歩一歩確実に近づいていく。ようやく画面の文字が若干確認できそうな位置に来た時、思いもよらない出来事が2人を襲った。急に部屋の全ての電気が消え、漆黒の闇が訪れたのだ。


 「キャッ!何何??停電???」


 急に目の前の視界を奪われ、動揺をあらわにするチュリア。彼女の心臓の鼓動が、一気に加速を増す。クレイは彼女があげた怯えた声を頼りに、「大丈夫ですか?チュリアさん。」と声をかけ歩み寄った。彼の声のおかげで少しは平常心を取り戻せたのだろう、チュリアは小声ながらもハッキリと答えた。


 「えぇ、大丈夫よ。誰かが電気系統を抑えたんでしょうね。」

 「たぶんそうですよ。」


 視界ゼロの闇の中、気がつくとチュリアは隣まで来ているクレイに対し身体をぴったりと寄せている体制になっていた。左腕を通し彼女の温もりをモロに感じ、クレイは少し照れながらもそれを悟られまいと話を続ける。


 「でも…結局、名前の確認は出来ませんでしたね。」

 「そうね。」


 そしてまた少しの間、沈黙が続いた。今の2人の思考の中には、あの魔剣がアリシアなのかセシリアなのか、そういう疑問は消えていた。これから先、この闇の中でどう行動するべきか、それが第一に考えるべきことだったからだ。


 チュリアは暗闇が嫌いだった。それは過去のトラウマが原因なのだが、今はその事について説明するのはやめておく。闇の中でどう行動するか、闇、暗闇。そう考えただけで、不安が次から次へと溢れて来る。こんな状況下で、彼女にまともな考えを巡らせることは出来ない。クレイにしても似たような状況だった。生まれて初めて異性の温もりをモロに感じているのだ。身体は硬直し、頭の中はチュリアの事でいっぱいいっぱいだった。


 そして、お互い口を閉じたまましばらく時間は流れた。


 時間の経過とともに、チュリアはクレイにどんどん身体を預けていく。それは不安をかき消す為、そこに彼が居るという事実だけが彼女の不安要素を中和しているのだった。


そして急に耳を突き刺すような音が2人を襲う。



第十七話へつづく…



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