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     「15.あり得ない」

 「も…もう大丈夫なの?」


 チュリアは心配と驚きを混じらせ、そう聞いた。もちろんその相手はクレイである。隊長、ギーハの二人と別れた後、すぐにクレイの居る部屋に戻った。そして、部屋の中に入ったと同時に、思わず出た一言だった。彼女の視線の先には、状態を軽く起こし、自分の体を何やら探っているクレイの姿があった。いくらチュリアが回復の力を施したとはいえ、この回復力は尋常ではない。それは、チュリア本人が一番よくわかっていたのだろう。


 「え?あぁ〜〜〜チュリアさん。もうオレ大丈夫みたいですよ。やっぱりチュリアさんの力はすごいですね。」


 部屋の入り口に立つチュリアの姿を見て、クレイはそう元気に言った。


 「ありがとう…。」


 少し小声で返事をするチュリア。その心中は、穏やかではなかった。


 魔剣アリシアとの戦闘後、倒れたまま動かないクレイの体を調べた時、肋骨や鎖骨大腿骨など様々な骨が折れていた。息も絶え絶えで、最期の刻はもうそこまで迫っていたのだ。それに対し、彼女はさほど大した回復を施しては居ない。隊長達に同行するため、とりあえずの応急処置をしただけ。なのに、クレイは目の前で元気そうに体を起こし、普通に話している。この脅威の回復力は、クレイ自身が持つ先天性のソレである事は間違いないのだ。


 「オレ、あのままやられちゃったんですね…もっと強くなりたいです。」


 うつむきながら言うクレイに対し、チュリアは何も言わずに入り口で佇んでいるだけ。いや、言えなかったと言うべきか。クレイの体について考えを巡らせている彼女には、その言葉は届いては居なかったのだ。


 「あの…チュリアさん?」


 自分の名前を呼ばれ、やっと彼女の意識は現実サイドに戻る。「そのうち、分かるときが来るだろう。」そう自分に言い聞かせ考えるのをやめた。そして、「ん?何?」と聞きながら、クレイのもとに歩み寄った。


 「あの後。オレが倒れた後、一体どうなったんですか?オレがこうして生きてるって事は、魔剣を倒したんですか?でも、隊長達の姿が見えないし…。」


 一気に複数の質問を浴びせるクレイ。意識が戻ったばかりで、周りの状況が分からないのは理解できる。だが、チュリアにはその質問攻めが、少しだけ気に障ったようだ。


 「一気に色々聞かれても困るわ。順を追って説明するから…黙って聞いてて。OK?」

 「すみません…黙って聞いてます。」


 「うんうん。」と二回頷き、チュリアはクレイの傍らに腰を落とす。そして、折れていたはずの骨を手で触り確認しながら話を続けた。


 「詳しく説明するのはちょっと面倒だから、簡単に説明するわね。」


 そう前置きを言って、クレイが倒れた後から今までの経緯をかいつまんで説明した。


 まず魔剣アリシアは、隊長のとっさの一言で地下へ向かった事。その後クレイを軽く治療し、三人でモニタールームへ向かった事。そこで大隊長から無線が入り、他の二人はそちらへ向かった事。自分はクレイの手当の為に、この部屋に戻った事。ざっと一分程度で話し終えた。それをクレイは所々頷きながら、黙って聞いている。


 「そうだったんですか!わざわざオレの為に戻ってきてくれるなんて感激です!!」

 「当たり前でしょう、あなた本当に死ぬ寸前だったんだから…。」


 大きな声で本当に嬉しそうに言うクレイに対し、チュリアはあくまでも冷静にそう言った。でも本当は感激と言われ、嬉しかった自分が居ることに気がついている。人の為に何かを施す事が、チュリアは好きだった。別に何か見返りが欲しいわけではなく、ただ感謝される事で、自分が存在する価値があると思えるからだ。


 「でも…どうなんでしょうね?」

 「ん?何が?」

 「アレは…あの女は、本当に魔剣アリシアなのかなぁ〜って思って…。」


 チュリアも同じ疑問をずっと前から抱いていた。初めてこの部屋のモニターで、アリシアの顔画像と名前等の情報を見た時からずっと。


 「たぶん、隊長は何も気がついていないだろうけど、あの人結構抜けてるところがあるから…。どこかで聞いた名前だぁ、なぁんてふざけたこと言ってたぐらいだし。」


 隊長の物まねを交えつつ、そう言って彼女は笑った。クレイもつられて笑う。だがすぐに笑いは消え、二人は並んだ筒状の機械の方を見た。


 そして暫くの沈黙の後、チュリアが口を開く。


 「確かに…クレイの言うとおり、アレが魔剣アリシアだなんて…あり得ない。」

 「………」


 頭に浮かぶ色々な考えをまとめつつ、ゆっくりとゆっくりと話すチュリア。クレイはその言葉を邪魔しないようにと、黙りを決め込み機械の方をじっと見ていた。そうすることで、チュリアが答えを導き出してくれると思ったからだ。事実、チュリアの考えは徐々に確信へと迫っていく。


 「アレがレプリカなのは間違いない。そしてソレを造るには、もとになる人物の一部が必要なのよ。例えば髪の毛や皮膚や爪や……本人の要素が含まれた何かが。」


 そこまで言って、少し休んだ。ゆっくりだが確実に、彼女の脳内は整理されていき、そして最終的に一つの答えに結びつく。


 「…でも……10年前のあの事件で、アリシアは無に還ったはず。…もうこの世界には存在していない。だから、もとになるモノなんて…あるはずが………ない……。」


第十六話へ続く…



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