「14.よく似た二人」
ガーランド隊長はその場で暫く固まりつつ、頭の中では必死に何をどう話そうか考えていた。しかし、考えれば考えるほど頭の中が滅茶苦茶になっていく。正直な話、ガーランドはルキア大隊長があまり好きではない。数々の戦歴を残す一人の兵士としては、大いに尊敬している。だが、人間としては、どうしても優秀な存在だと認めることができないのだ。
「おい!聞こえているのかガーランド!?聞こえてるんなら返事ぐらいしろよ…。」
どこまでも傲慢で、偉そうなルキア大隊長の言葉が三人の耳をつんざく。事実、上司であるのだから偉いのは当たり前なのだが、その傲慢さがどこか自分に似ている。ガーランドは、そこが気にくわないのである。
その昔、ガーランドがまだ新米だった頃、ルキアはその部隊の隊長を務めていた。その功績や戦術を見て「いつか自分もルキア隊長のようになりたい。」と、そう思ったものだ。しかし、今は違う。どんどんルキアのように傲慢になって行く自分が嫌いで、そのお手本になったルキアが更に許せない気持ちが強いからだ。身寄りのなかった自分にとって、ルキアは親のような存在だったという事が二人の性格を近づけたのも、また紛れのない事実だった。
「おいギギ…この無線壊れているのか?」
「い…いえ…。壊れていることは無いと思われます大隊長。」
無線の向こうでの会話が聞こえた。ギギと言うのはルキアの直属の部下の名前だろう。ガーランドにとっては、この会話は皮肉以外の何ものにも聞こえない。ルキアは壊れていないと知っていて、あえてそう部下に聞いているのだ。湧き上がるフラストレーションを必死にこらえ、ガーランドはようやく口を開いた。
「すみませんルキア様。ルキア様の大きすぎる声はちゃんと聞こえてますよ。何かご用でしょうか?」
目には目を、皮肉には皮肉でそう返した。しかし、ルキアはそれを気にする風でもなく会話を続ける。
「そうか、まぁさっきの発言は大目に見てやろう。今どこだ?」
「今は二階の東奧、モニタールームの前ですが?」
「じゃぁ今すぐこっちに合流してくれ。そっちの豪腕ギーハの力が必要でな。」
そう言われて驚いたのはギーハだった。突然自分の名前が出てくるとは予想もしていなかったので、意表を突かれたのだ。「でも、自分の力が何に必要なんだろう?」と、すぐにギーハはそう思う。その疑問はガーランドの頭にも浮かんだらしく、ギーハが口を開く前に大隊長に聞いてくれた。
「ギーハの力が、何に必要なのですか?」
「お前はいちいち質問で返してくるな。悪いクセだぞガーランド。」
その一言がまたガーランドの癇に障る。しかし、今はそんな下らないことで腹を立てている場合ではないとも思う。いくら自分が食い下がったところで、この上司にだけは勝てないと分かっているからだ。
「以後気をつけます。で、ギーハを何に?」
言葉では自分の悪いクセを認めながらも、実際は質問で返す。本人にそれを直すという意志は全くない。それは長年ガーランドを見てきたルキア自身が、一番よく知っている事だった。だから、それ以上指摘することを諦めた。言っても無駄なのだ、「無駄」はルキアが一番嫌う言葉である。
「うむ。今3階の北、所長部屋に来ているのだが、案の定もぬけの殻だった。だが一つ気になる石像があってな、どうやらこの奧になにか秘密がありそうな感じなんだ、だから…」
「その石像をギーハに破壊させると?」
ルキアの言葉を遮り、ガーランドはまた聞く。たぶんこの時、ルキアは少し苛立っただろう。自分の話を最後まで聞けば、今の質問は必要のない「無駄」な言葉なのだから。そして、コホンと咳払いを一つ。それを聞いたガーランドは「またやってしまった…」と思ったが、それをあえて言葉に出すことはなく、相手の反応を待つ。
「とにかく至急来てくれ。以上。」
そう言って一方的に無線は切られた。暫く黙りを決め込むガーランド。他の二人はその姿をじっと見つめ、次にどう動くのか、隊長の号令がかかるのを待っている。
「全く、自分勝手なおっさんだな。」
隊長は一言だけそう言った。それを聞き、二人は一斉に「ちょ…」「ちょっと!」と、隊長の言葉を制止した。また聞こえていたら、それこそ次はただでは済まないと思ったからだ。そんな二人の気持ちを察することもなく、隊長は言葉を続ける。
「よし、今から我が部隊は二手に分かれ行動する。オレとギーハは大隊長ご一行様の所へ、チュリアはクレイの所に戻り治療を続けてくれ。何か質問は?」
「この部屋の捜索はどうするのよ?」
そう聞いたのはチュリアだった。ギーハもそれは同じ気持ちだったらしく、また首をうんうんと縦に振り質問に賛同している。
「それは二の次だ!大隊長様がすぐに来いって言うんだ。大急ぎで行ってやらんとうるさいからな…。」
二人は、ガーランドがルキアを好いていないという事は知っている。そして、二人が似ているという事実も、あえてそれを言葉に出すことは絶対になかったが理解していた。だからこれ以上意見することを諦めた。
「じゃぁ行くぞギーハ。」
「了解。」
そう言って二人は廊下の先、T字路の方へ体を向け歩き出した。その背中を見送るチュリア。「クレイによろしく。」そう言って隊長は右手を挙げた。
「了解。」
やがて二人はT字路を右に曲がり、その姿は見えなくなる。それを確認してからチュリアは、クレイが待つ部屋へ体を向け歩を進めた。
まさかこのモニタールームの中に、アリシアがいるという事実を知ることのないまま。三人はそれぞれの目的のために進む。
第十五話へつづく…