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     「12.密室」

 画面の中の黒服男に視線を移すと、何やら笑っているように見える。その姿を見て、アリシアの中で怒りが込み上げた。傷つき倒れたアリシアと、血の涙を流すアリシアを見て、この男は確実に笑みを浮かべているのだ。自分が侮辱され、さげすまされてるようで、笑んでいる男を許せない気持ちでいっぱいになる。


 そして、一人の白衣の男が黒服のそばに駆け寄り、何かを伝えている。次の瞬間、非現実的な事が起きた。駆け寄った白衣の男と、黒服の男が一瞬にしてその場から消えたのだ。一体何が起きたのか、アリシアには理解できない。急に青白い光に二人の体が包まれたかと思うと、そのままパッと消えたのだから。


 画面の中で叫び続けていたアリシアも、たぶん同じ感覚を覚えたのだろう。一瞬叫ぶのを止め、黒服男達がいた場所を擬視する。逃げられたとでも思ったのだろう。今度は泣き叫びながら、周りの機械類に当たり始めた。バチバチと火花を散らしながら、壊れて行く機械達。そして、その勢いのままアリシアは床へ倒れ込み、動かなくなった。急に意識が飛んでしまったらしい。


 画面の中に、今は動く姿はない。荒れに荒れた室内、それは自分が初めて見た光景そのままだった。


 そしてそこで映像が終わったようで、画面が真っ暗になる。


 「何!?」


 ここで、アリシアはある事実に気がついた。画面が真っ暗になったのではなく、自分の周り、室内の全てが闇に包まれた事に。目の前のモニターを見ると、うっすらと光の余韻を残し白く淡く光っているだけ。今見ていたノート型のパソコンは、たぶん予備の充電があるのだろう。今は、また「コード」という一文字が画面の真ん中に映っていた。その明かりのお陰で、何となくだが部屋の状況は見て取ることができる。それだけが唯一の救いだろうか。


 もう一度アリシアは監視用モニターを見る。沈黙を決め込んだまま、他の場所の風景を映すことはなかった。これでは、いつまたこの部屋に危険が迫っても分からない。


 「さてどうしよう…。」と、アリシアは考えを巡らせてみた。ふと、もう一人のアリシアのことが頭に浮かぶ。今彼女は、何処で何をしているのだろう。もう一度会って、真実が分かったことを伝えたい。と、そう思った。そして、あの男が何者なのかもの気になる。最終的に導き出した答えは、この部屋にこもっていてもその答えは見つからない、というあまりにも当たり前な結論だった。


 「よし!探しに行こう!」


 そう言って、両の頬をパンパンと二度叩いた。これが、アリシア流の気合いの入れ方なのだ。頬の痛みとともに、やる気がみなぎってきた。この部屋を出て、もし黒兵士に見つかったとしても、すぐその場から逃げればいい。今の私にはそれができる。そう思って、勢いよく椅子から立ち上がった。そしてパソコンの明かりを頼りに扉の開閉ボタンを探し、勢いよくソレを押した。


 「あれ…?」


 アリシアはその場で呆然と立ちつくす。今さっきまでのやる気が、一気に削がれた気分だった。扉が開かないのである。もう一度ボタンを押してみる。でも、扉には何の変化も起きず、黙りを決め込むままだった。


 「電気が来てないからかな…?」


 事実は全くその通り。停電のせいで扉が開かないのだ。その事に気がついたアリシアは、それでもなんとかここを出ようと考えた。考えたのだが、何も浮かばない。


 「どうしよう…どうしよう…どうしよう…」


 アリシアの呟きが、出口を閉ざされ静寂に包まれる密室内に響く。




                                ※




 「ゴルヴァ様、全て手はず通りに事は進んでおります。」


 薄暗い闇の中に、男の低い声が響く。暗くて表情までは確認できないが、その声の主は白衣を着ているように見えた。その男が立っている目の前にもう一人、男が六角形の大きな机の脇で、椅子に座って佇んでいるようだ。


 「そうか……闇の中で奴らはどう動くのか、楽しみだな。」


 椅子に座る男が言った。「はい。」と白衣の男が返事を返す。


 「では次のレベルに移行しますか?」


 そう、白衣の男が尋ねる。そして少しの沈黙の後、「あぁ、そうだな」と椅子から立ち上がりつつ、ゴルヴァと呼ばれた男が返した。暗闇にとけ込むかのような、漆黒の服を身にまとい、右手には小さなナイフが握られている。ゴルヴァはその短刀を見つめながら、こう続けた。


 「そろそろ、奈落の住人達を起こしてやれ…。」

 「かしこまりました。」


 そう言って、白衣の男は闇に消えていった。


 クックック…とゴルヴァの含み笑いが聞こえる。


 「さて…どう動く?アリシア…」



第十三話へつづく…


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