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     「11.背中の傷」

 画面に穴が空くほど、アリシアは映像に夢中になっていた。そして白衣の男達が生きていると、率直にそう思う。その直後、脳裏に嫌な光景がふと浮かんだ。あの部屋で、最初に目があった白衣の男。その視線はしっかりと、自分を見据えているようだった。思い出したくはなかった、嫌な過去。でも、アリシアの中に唯一思い出として残っている、初めての過去。なんとも複雑な気分だった。


 更に目を懲らしてみると、ある事実に気づく。黒い服を着た男が、口をパクパクと動かしているのだ。他の研究員を見ても、それは皆同じく口パク状態。その様子は少し奇妙で、少し滑稽な有様だった。


 そう、この映像には音が無かった。確かに、もう一人のアリシアが、黒兵士と戦っているところを見ていた時も、映像は無音だったような気がする。無声映像に少し不満を抱かせつつ、それでも視線はそらせない。


 モニターの中で慌ただしく動いていた研究員達が、今は皆、一斉に二つの筒の方を見ていた。その中にいるのは、自分ともう一人のアリシアである事は間違いないはず。ただ今のところ、どちらが自分なのかはよく分からない。見た目が同じなのだから、それは当たり前である。


 やがて片方の筒に変化が起こる。映像ではハッキリとは確認できないが、たぶん中には何か液体のようなモノが入っているのだろう。機械の下方から、無数の泡がブクブクと発生し始めた。そして徐々に水嵩が減っていき、数秒後には液状のモノは無くなっていた。


 「確実に何かが起きる。」アリシアはそう直感し、期待と不安でいっぱいになった。何が起きるのかを知りたい自分と、知りたくもない自分が心の中で葛藤する。何故なら、この先の結末だけは知っているからだ。確実に、最後には犠牲者が出る。


 そしていよいよ、悲劇のフィナーレへと事態が動き始めた。


 ガラスの筒の部分が、下部に収納される。そして、中にいたアリシアは、ゆっくりと右足を一歩前へと踏み出した。その刹那、周りにいる傍観者達は皆手を叩き、喜びを露わにする。中には、熱い抱擁を交わす者もいた。歓喜の響きが聞こえてきそうな、そんな光景が画面の中にはあった。そしてそれは、新しい命の誕生の瞬間でもあった。


 黒い服の男が、目覚めたアリシアへと歩み寄る。そして会話を交わしているのだろうか、アリシアの口が動いているように見えた。そう思った次の瞬間、アリシアが素早い動きを見せる。その右手を、横方向へと薙いだのだ。黒い服の男は、その一撃を交わすことができず、一瞬膝をがくりと落とした。


 そして、攻撃を仕掛けたアリシアは、怒りの形相で何かを叫んでいるように見える。直後、一斉に周りの研究員達が彼女のもとに駆け寄り、後ろから前から動きを阻止しようと動く。羽交い締めにされても尚、彼女は腕を、脚を、顔を、縦横無尽に動かし研究員達を振り払おうともがく。


 おもむろに立ち上がり、体勢を立て直す黒服の男。どこから出したのか、気がつくとその右手には、小さなナイフのようなモノが握られていた。そして何かを叫びながら、アリシアへと切り掛かる。が、彼女の左脚から繰り出された強烈な一撃が、それを制止させた。


 攻撃への怒りにより、アリシアは口を大きく開き、自分の体を捉える男達を強引に振り払う。そして、今度は両手で男達の体を次々と薙いでいく。ある者は腕を、ある者は胸を、首を、顔を、脚を斬りつけられ、紅い血が画面を覆い尽くすような勢いで空を舞った。床に、バタバタと倒れ込む研究者達。そしてそのまま動かないモノへと変わっていく。


 そして、アリシアが黒服男に対し背中を見せる形になった時、再び男はナイフで切り掛かった。彼女は周りの研究者達に気を奪われ、迫るナイフには気がついていないようだった。このままだと、間違いなくナイフが彼女を捉える。そう思った時、画面の中で何かが素早く動いたように思えた。そして、黒服男の攻撃は見事アリシアの体に傷を残す。彼女の鮮血が空に舞う。


 「あっ!!」


 アリシアは思わず、画面の中の光景に驚く。ナイフの標的になっていた彼女に抱きつく形で、もう一人のアリシアがその盾になっているのだ。見ると、もう一人のアリシアの左肩から背中中央あたりまで傷が伸びている。そして、その役目を終えたかのように、そのまま床に倒れた。


 この盾になった方が自分なんだ。もう一人のアリシアが言っていた、「助けてくれてありがとうね」その言葉はこの事に対しての感謝だったんだ。画面を見つめるアリシアはそう確信する。


 画面に意識を戻すと、アリシアが天井に顔を向け大きく口を開いていた。たぶん、絶叫しているのだ。そして、その目からは紅い涙が溢れていた。



第十二話へつづく…


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