「10.コード」
模造とは、「もとのもの」に限りなく似せて造るという意味だ。別の言い方をするとフェイク、つまりは偽物と言うことになる。では、ここに書かれた「模造人」とは、もちろんもとになる人物に限りなく似せて造った人間、という事になるのだが…。
「これって…もしかして…私たちの事?」
気になったアリシアは、早速ファイルの表紙をめくってみた。その刹那、驚愕の表情へと移りゆく。
「魔剣アリシア模造人計画 第13案 研究レポート」
そこには、そうまざまざと書かれていたのだ。「やっぱり…。」と、小さなため息を吐きつつ、呟く。この時、全てを理解できたような気になった。初めてもう一人のアリシア出会った時は、それはもう驚いた。自分と全く同じ顔を持つ人物が、突然目の前に現れたからだ。でも、今は違う。自分と同じ顔がもう一人、いや、複数人いたとしても不思議なことではない。なぜなら、自分達はアリシアという人物に似せられて造られた、偽のアリシアなのだから…。
初めてもう一人のアリシアに会った時、彼女はこう言った。「私は、その現実を受け入れられるけど…」と。たぶん、彼女はこのファイルを見て知っていたのだろう。自分が偽物だという現実を。だから、二つの同じ顔の事実を受け入れられたに違いない。そう考えると、なんだか騙されたようで、悲しい気分になった。
彼女の前向きな言葉を聞いた時、自分と同じ姿なのに中身は違う。心が強く、冷静なんだと思った。でも今の自分の目の前に、あの時の自分が現れたとしても、同じ事が言えるような気がする。彼女も自分も同じアリシア、中身にだって違いは無い。
色々な考えを巡らせつつ、アリシアは次々とページをめくっていく。本当はゆっくり読みたいという気持ちはあるのだが、たぶん専門用語だろう難しい言葉がいっぱいで、意味が全然わからない。だから、自分でも理解できそうなページを探す為に、ぱらぱらと読み進めて行く方法を取らざるを得なかった。
途中何度か手を止め、視線を巡らせてみる。そして分かる言葉だけを繋げていく。「アリシア」「魔剣」「命」「感情」「罪」「罰」「病気」「過去」等々。それらのピースをはめたところで、頭のパズルは完成するはずもない。まだ、その枠すらもできていないといった状況だ。
そしてまた、パラパラページをめくっては言葉を拾う。その作業を繰り返す。ついには最後のページに到達していた。一通り読んだのに、全く持って意味が分からない。最後のページに視線を落としつつ、左手の親指と人差し指で下唇を軽く挟む。そして、ある部分で視線が止まった。ページの一番下、このレポートの最後に書かれた文字。他の部分は全て機械的な文字なのに対し、そこだけは手書きだったのだ。 たぶん焦って書いたんだろう。あまりに見事な走り書きのせいで、かなり読みづらかったが、そこにはこう書かれている。
「第13案 最終研究資料映像 コード8934771」
乱雑に書かれたその文字を見た時、ふとあの言葉がアリシアの頭をよぎった。
「ヒントは、そのモニターにあるかもよ。」
何故だかは分からない。だけど、映像と書かれているのだから、どうにかしたらその研究風景を見る事ができる。そして、その映像にこそヒントが隠されているに違いない。アリシアはそう思った。思ったけど、一体どうしたら映像が見れるのかが分からなかった。もうすぐそこまでゴールは迫っているはずなのに、次の一歩が踏み出せない。もどかしい気持ちで、心はいっぱいになった。
焦る心が視線を動かし、もう一度辺りを、部屋の至る所を見渡してみる。床の亡骸、モニター、ペン、銀色のコイン、ノート型のパソコン…
「あ…」
何かに気づき、何かに引き寄せられるように。アリシアは椅子を滑らせ、ノート型のパソコンの前に移動した。その画面には、たった一文字だけ「コード」と映し出されていた。その文字の横では、何かを入力してくださいと言わんばかりに、小さな縦棒がチカチカと点滅している。
「これだ!」
思わず叫び、すぐにファイルを手に取り最後のページを見た。「8934771」ゆっくりと、間違えないように慎重に指を動かし、その数字を打ち込む。最後に、勢いよくENTERボタンを叩く。
画面は一瞬真っ暗になり、そしてウィーンという機械音を立て始めた。待つこと数秒。それが永遠にも感じられるほど、アリシアの心は急いていた。そして画面が明るくなり、映像が現れる。そこに映るのは、白衣の男が数人と、一人だけ黒い服を着た人物。そして二つの筒状の機械。まさに、あの研究室だった。二つの筒の中には、それぞれアリシアの姿がある。自分と、もう一人のアリシアに違いない。
この映像の中に、確実にヒントがある。アリシアはそう確信した。
第十一話へ続く…
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