僕の部屋に肌色がやってきた
「おーい、たっつんいるー?」
たっつんとは、僕のことである。そして、この声の主は日向 律だ。同じアパートに住む大学生だ。
しかし何故だ。今日は平日、普通の学生ならば今頃は。why? もしかすると日向さんも不登校なのか? まさかな。
「達科さん。出なくていいんですか?」
白野の声に気がつく。顔を覗き込んでいる白野が僕の焦りを加速させる。そして僕は、結論を出した。
「いつもなら登校してる時間だし、出ない方がいいかも」
しかしまあ、彼女がわざわざ来るということは――
「たっつんいるじゃないかー。 ん、その娘は誰かな?」
ほらね、ここ二階なのにもうベランダまで登ってきたよ。ベランダの掃き出し窓にも鍵かけてあるんだけどね。
「日向さん、大学やめたんですか? それに、なんで僕がいるってわかったか聞いておきます」
白野はぺこりと会釈をしていた。
日向さんは「大学は講義ないから休みなんだよ。いやね、たっつんの部屋から女の子の匂いがしたからさあ」などと言っている。日向さん、白野が来るのを見ていたのか。
白野は「はじめまして。白野 茉侑、中学3年生です」と再び会釈した。
「私は日向 律、20歳。よろしくね。ところでさ、たっつん。私というものがありながら学校サボって女の子と何してるんだい? それと早く中に入れて欲しいんだけど。暑いしさ」
「嫌ですよ。おとなしく帰ってください」
「なんでさ。たっつんは日向お姉さんのこと嫌いになったってことかい?」
あなたが来るとややこしくなるからですよ、日向さん。とは言えず、それに白野もいいんですか? と言わんばかりに見つめてきたのでしかたなく、部屋に入れた。
「あー、涼しいなー。アイスある? なんてね」
日向 律は僕のことを弟のように可愛がってくれている。たまに鬱陶しいくらいだ。髪は柔らかい茶色のボブカットで服装はいつもラフな感じだ。今日は特に布が薄い気がする。
「ところで白野ちゃん、たっつんの彼女なの?」もう面倒になってる。さすがだ。
「い、いえ。そんな……」と白野。否定しないのは嬉しい気もするが、日向さんはもう! 許す!
「日向さん、あなたに嘘はつけませんね。話しますよ、嫌ですけど」
僕は話した。不登校になったことと、復帰を目指すことを。僕は日向さんを信用していた。
こういう時、日向さんはきっと――
「あははははは。たっつんが不登校?!」
笑い飛ばしてくれると。
「そうですよ。おかしいですね、笑ったので帰りましょう?」
「達科さん、それは言いすぎじゃないですか〜?」
「なんでそんなに帰らそうとするのさ。白野ちゃんの言う通りだと思うよ。……ふふふふ。こんなに面白いこと他にないよ。しばらく観察させてもらうよ」
とにやけながら彼女は言う。なんで白野もにやけてるんだ? それも日向さんの持てる力なのだろうか。
「白野まで笑いそうになるなよ。ふふ、はははは!」とうとう僕まで笑ってしまった。意味がわからない。
この後は僕のベッドに腰掛け話す2人をボーッと眺めつつ、白野は人見知りだなとか、日向さんはもう少し露出を抑えろとか考えながら過ごした。
夏の暑さだろうか。それとも台風か。謎のパワーを持った彼女が社会復帰計画に加わってしまったのはケチのつけられない事実となった。