女の子を始めて部屋に入れた時のこと覚えてる?
ドンドン、と扉を叩く音が聞こえる。30分ほど玄関で待機していたが、深呼吸しつつ少し間をおいて出た。
陽が少し登り、外では夏特有の蒸し暑さが出始めていた。
「どうする。何か飲むか?」と僕は聞く。
白野は、
「ありがとうございます。入っていいんですか?」と額に少しだけ浮き出た汗を拭う。
なんだか子犬のような女の子だなと思った。
「綺麗な部屋ですね。意外だなあ」
「昨日、玄関から見なかったのか」と聞いてみると白野はムッとして、
「昨日はお寝坊さんの顔を睨むので精いっぱいでしたよ」と言ってきた。
今日も会話は順調だ。僕が楽しんでいるのだから、そうに違いない。
「何飲む? 麦茶でいい?」
僕は冷蔵庫の中を見る。麦茶か水、ビールの三択で1番マシだろう。
僕はまだ未成年だが、ビールをたまに飲んでいる。入手経路は色々あるがメインは近所の知り合いだ。
「はい。ありがとうございます。今日の特訓ですが……」
白野は少し曇った顔をしていた。
「考えてない?! とりあえずウチ来れば思いつくと思ったのか?」
「はい。その通りです。達科さん、何かやりたいことないですか?」
「なんだそれ。まだ2日目だってのに」
やりたいこと、か。急に言われてもわからないな。強いて言えばこの子といられるなら楽しい。
なんて言える訳もないので、
「このゲーム、2人でもできるけど今日はこれでいいか?」と聞いてみた。ヒゲを蓄えた配管工や王女がカートレースをするアレである。
白野は苦手ですがと前置きしていたがやる気はあるようで承諾してくれた。
白野が弱いようなら手加減をしてあげよう。
ゲームを始めてから30分。過去に戻れるならゲームに誘おうとしている僕を思いっきり殴ってやりたい。
下手すぎる。あまりにも下手なので、本当に目をつむっていても勝てる気がしてくる。
弱いだけならいい。
だが、そこに負けず嫌いが加わると話は別だ。あからさまに手を抜くと頬を膨らませ「達科さん! なんか手抜きしてますよね?」と咎めてくるのだ。
「ほら、そこの道を横に抜けると近道になるよ」
「それだとなんだか負けた気になるので嫌です」なんだか、新たな一面を見た気がする。
僕が8連勝したタイミングで白野には、「僕はこのゲーム慣れてるから」と弁解し、ゲームをやめた。
昼前。クーラーの効いた涼しい部屋でも、セミの鳴き声は暑苦しく感じる。テレビをつけてみたが、この時間帯は特に面白い番組がない。ふと、白野を盗み見る。コップに注がれた麦茶を飲んでいた。
制服を着た女の子と部屋に2人きりなのだ。少しくらい意識してもいいだろう? 見ているうちにぼんやりしてしまったようだ。視線は白野の足に向かっていた。
どうやら、白野に気がつかれたらしい。
「どこ見てるんですか? まさか変なこと考えてます?」とにやにやしながら問いただす。
弁解するのは今日だけで2度目だ。女の子というのは難しい。
言い訳の途中で玄関のドアを叩く音が聞こえた。そして、若い女の声も。僕はこの声の主を知っていた。タイミング悪すぎるんじゃないか、日向さん。