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おそよう達科さん

 太陽の光を浴びて目を覚ますのは気持ち良い。蒸し暑さで目を覚ますのはどうだろう。

 朝なのにここまで暑いのか。などと思いつつ時計を確認した。


 ゾッとした。短針は11を指していたのだ。通りで暑いわけだと納得もしたが、問題はそこじゃない。

 彼女はもう来たのか。それともまだか。無駄とは思いつつ玄関に向かう。ドアを開けた先には、

「おはようございます。おそようの方が良かったですか?」

 白野が立っていた。今日もなぜか制服姿だった。

「もしかして、ずっといた?」と聞いてみる。

「はい。何度呼んでも誰かさんが出てこないので」もの言いたげな目、いや、言ってきてるので半分睨みつけた感じでこちらを見ている。


「謝るよ。ところで特訓って何をするんだ?こうやって話すだけか?」と聞くと

「そうですね。お昼近いのでご飯食べに行きませんか?」と言い白野は微笑んだ。

「それが特訓なのか」

「はい。きっと達科さんは友達いませんよね?学校に復帰して友達ができた時の予行練習だと思ってください!」なるほど。僕にとってはこっちが本番のように思えるけどね。

「わかった。近くのファミレスでいいな?白野はここまでどうやって来た?」と聞く。すると白野は少しためらって「歩きです」と返した。


「仕方ない。2人乗りでいいな」と言ってみる。仕方ない?実は憧れていたくせに。

 対して白野は満面の笑みを浮かべ「お願いします!」と返してきた。恋愛どころか友人すら持ったことのない僕にその笑顔は反則的だ。


「いくぞ。しっかり掴めよ」

「失礼しますね。よっと」

 白野が荷台に乗ったのを確認しペダルを漕ぎ始める。もちろん2人乗りなど初めてだ。漕ぐのに夢中になっていて気づかなかったが、白野は軽い。小柄なのもあるが、『女の子だから』という属性のようなものもあると思う。


 ファミレスには数分で到着した。

 店員に2名だと告げて席に座る。新鮮な体験だ。注文を終えると白野がこんなことを言った。

「達科さんはなんで学校に行かなくなったんですか?無理にとは言わないですけど、興味あります」

 理由。僕は白野に『正しい夏』について話した。白野は「正しい夏……わかりました」と言った。何をわかったと言うのだろう。


「次は白野。君の理由を聞いてみたいな」話し方はこれでいいのか?友達できたことないからわかりません。

「私ですか。そうですね。まだ秘密です」

「まだ、なのか」

「そのうち話しますよ」と白野。

 注文したものが運ばれ、昼食をとった。

 そして僕は再び自転車を漕いでいた。もちろん後ろには白野が座っている。


 夏に自転車に乗るとわかるが、風に温度差があるのだ。今は冷たい風だ、とか熱風だとか。それを白野と共有しているのだと思うととても嬉しい。

「後ろは涼しいですよー。達科さんはどうですか?」明るい声で白野は言う。


「風は涼しいが、漕ぐのはそれなりに体力使うよ」

「運動不足なのですよ。体力つけましょうねー」と言い笑った。でもこの特訓、白野はやる予定ないよね。

 心の中では不平を垂れたつもりだが、僕は笑顔になっていた。

「そういえば目的地聞いてないよな?」

「いいんですよ、そんなの。このままでも楽しいですから」

「そうだな。スピード上げるぞ!」

 今、この瞬間が楽しくてたまらない。初めての体験、初めての感情を力にしてペダルを漕いでいた。

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