暁の空 其の一
最近思ったこと
人と会話をする
これは凄いことなのでは
能力云々の話をしているのではない
偶然同じ時代に生まれ
出会い、話す
え?凄いじゃん
ほんの百年違うだけで
その人の思考の本質は自筆の書き物にだけ残される
伝記や語り話はちょっと違う気がするんだよなぁ
それらはその時代の他人が下した評価であって
本人は納得していないかも知れない
例えるならば
貴方の噂話が
廻り廻って貴方の耳に届いたとき
それに完全に同意できますか、っていう事
しかし百年前の彼が書いたものを読んだとしても
それは一方的な交流でしかない
ということも大きな問題だ
仮に彼が
『涼しく、虫がなき、軽く雲がかかり、趣のある、見事な中秋の名月であった』
と、想像に容易い詳細を書き連ねたとしよう
ところが我輩が
「カエルも鳴いていたのでは」
とか
「草木の音も心地よさそうだな」
などあれこれ妄想したとしても
彼は一向に答えてはくれない
当たり前の事だか
彼はすでにこの世を去り
遺された書物を我輩が読みとっているだけだ
わかっていただけるだろうか
確かに存在した彼の素晴らしい時間の細部が
二度と、未来永劫繰り返されないことの悲しさを
いや、悲しさなんて生ぬるい言葉では語り尽くすことは出来ない
貴方は驚くかもしれないが
其のような事態に我輩は号泣したこともある
辛いのだ
遥か昔もこの先も
様々な物語が生まれ、消える
それらのほとんどを知らずに我輩は生涯を終えるだろう
・・・・・・・・・・・
うん
この時代に生を受けたのも何かの縁
せいぜい僅かな出来事を観測し感じ取っていきましょうかな
貴方も頑張ってな
以上
ありがとう