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謎の本の正体

「こっちよ」


 他の人たちより早めに朝食を済ませた俺と楠田さんは、さっそく楠田さんが見つけたという本の場所へと連れて行ってもらった。

 連れられたのは、階段を下りた1階の隅にある生物学のコーナーだった。

 生物学のコーナーは、あの揺れがまるでなかったかのように綺麗に整理され、コーナーに入った楠田さんは、迷うことなく棚の中から一冊の本を取り出してきた。


「これが、私の見つけた本」


 楠田さんに手渡された本は、確かに俺の見つけた緑の本と似ていた。

 というか、瓜二つだった。

 楠田さんの言っていた金具や色のくすみ具合はもちろん、大きさや厚さ、さらに質感までもが全く同じだった。

 どう考えても、ただの色違いなだけである。


「楠田さん、まだ中身は見ていないんですよね?」

「ええ。最初見つけたときはよく分からなかったから、そのへんに置いて放置していたわ」

「中身、見てもいいですか?」

「どうぞ。……って、私もその本が何かわからないし、好きに読んじゃっていいわよ。こういう時に月宮館長がいらっしゃれば、その本の正体もすぐに分かったかもしれないけれど」

「きっとそうですね……分かりました、それじゃあ見させてもらいます」


 そうして俺は表紙の1枚目を捲ってみた。

 しかし、1枚目は何も書かれていない白紙だった。

 ページはかなり古いもののようで、紙は黄ばみ結構硬くなってしまっている。

 そのまま次のページを捲ってみる。

 ……すると、


「…………!」

「どうしたの?」


 俺のただならぬリアクションに、楠田さんはすぐに尋ねてきた。

 それから俺の手元をじっと見やるが、眉をひそめた。


「……なんて書いてあるのかしら?」

「えっ?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 ……楠田さんには読めない?

 何故だ? "俺には魔術に関すること"が書かれていると読めるのに"。


「本当に読めないんですか?」

「まったく読めないわ。逆に聞くけど、響也くんはこれ読めてるのかしら?」

「はい。魔術に関してのことが書かれています」

「そう……」


 楠田さんは困ったように眉をひそめた。

 それもそうだ。これは明らかに、今までこの図書館にあった本ではない。

 "この世界の本"である。


「……これ、俺が預かっても大丈夫ですか?」


 俺は楠田さんにそんな提案をしてみた。

 今しがたこの本を読んだことで、俺の考えが確信に一歩迫ったのでそれを改めて確認したい。


「どうせ私が持っていても読めないし……いずれこっちの世界の人がここに訪れるようになってくれればその本にも意味を見いだせるかも知れないから、それまでは響也くんの好きにしていて構わないわよ」

「ありがとうございます……って、こっちの世界の人ってここまで来るんですかね?」

「あのサリィという女の子のツテから来るかもしれないのでしょう? それに、響也くんと同じ職業の人は本をよく読むらしいし、あれば読むんじゃないかしら」

「……それもそうですね。それじゃあ、しばらくの間お借りします」

「ええ。……それにしても、申し訳ないわね、本来なら大人の私たちがやるべきこと……」

「それ以上は言わないでください。……昨日の夜、立花さんにも同じことで謝られたので」

「……立花さんか。彼女も責任感強いから、私と同じことを思ったのね」


 それから楠田さんは身を翻し、


「それじゃあ私、みんなのところに戻るわ。もし何かあればいつでも来てね。今日は多分2階の本整理をしていると思うから」

「分かりました。頑張ってください」

「ふふ、響也くんが私たちより頑張ってくれているんだもの。図書館員として当たり前のことくらいはいつも以上にやらないとね」

「はは……それじゃあ、また」

「ええ、また」


 俺と楠田さんは最後にそれだけ交わし、ここで別れた。




「さて、と……」


 そのまま1階入口近くのソファに腰を下ろすと、俺はずっと脇に挟んでいた緑の本を改めて見た。

 ……やはり、2つをこうして見比べても、違う点が色くらいしか見当たらない。

 そして、楠田さんが見つけた赤い方には、魔術に関することが記されていた。

 赤、そして魔術。この2つにはある共通点があった。

 それを確認するために、俺は緑の本を開く。

 すると、


「やっぱりか…………!」


 緑の本には、"魔法"について記されていたのだった。

 赤、魔術。そして、緑と魔法。

 これらが共通することといえば……俺が戦った時に見たあのアイコンたちである。

 赤い本アイコンには魔術の一覧が、そして緑の本アイコンには魔法の一覧が載っていた。

 つまりこの2冊は、魔術と魔法を覚えるための本であるということになる。

 そのまま読み進めていくと、


『第1層魔法 フレアゲート を 習得しました』


 そんな電子文字が俺の視界に現れた。


「おっと、これで習得か」


 魔法の本の大体5分の1を読んだところで、第1層魔法をひとつ習得できた。

 なので次は赤い魔術の本に手を伸ばしてみる。

 するとやはり同じくらい読んだところで、


『第1層魔術 ターンバックノイズ を 習得しました』


 と、電子文字が表示された。

 ターンバックノイズ……直訳するなら雑音で追い返す、ということになるだろうか。

 どうやら魔術には敵に対する直接的な攻撃が少ないのかもしれない。

 最初から覚えていた2つの魔術はポイズンウェイブとスネークアイという名の魔術だった。前者は周囲に毒の波動を撒き散らし、後者はターゲットした敵を睨みつけるというものだった。

 今考えてみれば2つとも攻撃用の魔術ではないことが考えられるが、最初にこれらを使った際、ポイズンウェイブで撒き散らした毒で敵は消滅し、スークアイで睨んだ敵も何故か消滅した。

 最初に覚えていた魔法のウィンディルとは違い明確に攻撃している様子はなかったものの、敵が消滅したのでつい攻撃のための魔術かと勘違いしてしまっていた。

 しかしまだターンバックノイズを使ってみなければ分からないのも確かである。次に戦う時は積極的に使ってみよう。


「しかし、この様子だと魔導の本は白になりそうだな」


 緑が魔法、赤が魔術と来れば、魔導のことを記した本は間違いなく白だろう。

 そしてそれは、この図書館内にある可能性が非常に高い。

 いずれ誰かが見つけてくれるかもしれないが、自分でも暇を見つけて少し探してみることにしよう。

 そんなことを考えながら、俺は手元に有る2種類の本を読み進めていくのだった。

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