図書館員集結
「おまたせ~」
「みなさんの分も持ってきましたよ」
桐谷さんと共にみんなが集まっているはずという二階の大きなテーブルが置いてあるスペースに足を運ぶと、今俺と共にいる桐谷さんと未だ目を覚まさない月宮館長を除いた図書館員六人全員ですでに四角いテーブルを囲んでいた。
立花さんを始め、楠田さんに有馬さんと大鷲さん、それから江口さん姉妹と、みんな揃って席に座っている。
その中の江口さん姉妹は互いに若くいつも二人で一緒にいて、本当にニコイチという言葉がぴったりなほど仲のいい姉妹図書館員だ。
「あ、桐谷さん。食料の方は大丈夫そうでしたか?」
俺たちがテーブルに着くとまず、昨日転送されてきた食料の品質チェックをした大鷲さんがそう尋ねてきた。
選んだものはほとんどが調理済みの加工肉だったりするので、腐っているということはないとは思う。
「大丈夫だよ~。響也くんも手伝ってくれたから」
「そうですか、それは良かった……。響也くんも、ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われるほどではないですよ」
大鷲さんは俺たちに律儀に頭を下げてきた。
別に俺はお礼を言われるほどのことをやったわけじゃない。ただ桐谷さんと一緒に全員分の朝食を選んだだけだ。
大鷲さんというこの男性図書館員はもはやそういう性分なのか、どんなに些細なことでもお礼を忘れない律儀で誠実な人物なのである。
「ねぇねぇ! どれも美味しそうだよ!」
桐谷さんと俺が取り分け始めた食料を見るなり、江口さん姉妹の姉、少しぽっちゃりとした体型の佳菜子さんが食料を指さしながら無邪気にそう言った。
するとすかさず、
「……おねぇちゃん行儀、悪いよ。あまり指を、指さないの」
姉の佳菜子さんとは正反対の、少し痩せ型で前髪が長い妹の佳奈美さんがフォローに入る。
佳奈美さんは少し言葉の歯切れが悪い話し方をするが、これは生まれつきらしく、別にコミュニケーションを取る上で支障はきたないレベルなのでみんな特に気にしていない。
「うぅ…………かなみんの鬼! 悪魔! すっとこどっこい!」
「お姉ちゃん最後、のすっとこどっこいは、使い方ちょっと、違うよ」
「うぅぅぅ~~…………!」
とまぁこのように、姉である佳菜子さんは妹の佳奈美さんに口負けすることがほとんどだ。
彼女たちのやりとりを初めて見る人物には、姉と妹が逆に見えてしまうかもしれない。
すると、
「立花さん~、かなみんがいじめるよ~」
「えぇっ!? 私!?」
佳奈美さんのツッコミが相当効いたのか、佳菜子さんは隣に座っていた立花さんにヘルプを掛ける。
しかし立花さんは困ったような顔をして、それから何故か俺の方に視線を向けた。
(な、何で俺に助けを求めるんですか!)
心の中で立花さんに訴えながら視線を送り返す。
すると、
(それは私の台詞だよ!)
そんな言葉が込められたような視線が立花さんから返ってくる。
(立花さんが佳菜子さんから直々に助けを求められたんです、何とかしてあげてくださいよ!)
(そんなこと言ったって、この二人の間に私なんかが割り込めるわけないじゃない!)
(大丈夫ですよ、立花さんならきっとやれます! 俺、信じてますから!)
(響也くん酷いっ! 一人で逃げようとしてるよね!?)
(いい、いや、けけ、決してそんなことはは)
こんなやりとりを立花さんと目線だけで交わしていると、パンパン! と手を叩く音が鼓膜を揺らした。
「ほらほら、早く食べちゃおう? 僕もうお腹すいちゃった」
「そうですよ、みなさん昨日はほとんど何も食べていないんですから。お腹はすいているはずですよ」
桐谷さんと有馬さんにそう言われた俺たちは、いそいそと自分の席に戻って朝食に手を付け始めた。
俺は空いていた適当な椅子を引いて、脇に挟んだ本を椅子の右側の床に置いてから朝食を口に運んだ。
サリィの転送してくれた食料は非常に美味しく、こっちの世界から見れば異世界人である俺たちの舌にも十分にマッチした。
加工された肉類もほとんど日本で食べていたベーコンやウィンナーなどと変わりなく、一体どのような方法で常にこの状態を保てるとかとサリィ本人に問いただしてみたい気も出てきた。
そうして、異世界に来てから初めての食事に舌鼓を打っていると、
「……ねぇ、響也くん」
「んぐんぐ……ふぇい?」
右隣に座っていた楠田さんが、俺の椅子の下を指さして話し掛けてきた。
俺は口に入っていたものを飲み込み、楠田さん方を向いた。
「この本……どこで見つけたの?」
楠田さんは床に置いてあった本を指さしていた。
俺は本を拾い上げてみせる。
「これですか? 食料を仕舞ってた部屋に何故か落ちてたんで、何となく気になってここまで持ってきちゃったんですよ。でも、こんな本見たことないんですよね」
拾い上げてみせるなり、楠田さんはまじまじと本を眺めながら、「同じだわ……」と小さく呟いた。
そして、
「私も、それと似たような本を見つけたの」
「え、それ本当ですか?」
「ええ、散乱してしまっていた本を棚に戻している時にね。私が見つけたのは緑じゃなくて赤い本だけど……ここ、この背表紙の上下に付いてる金具が同じだわ。色のくすみ方とかも似ているし……」
「へぇ……」
少し気になるな。楠田さんはここの図書館員歴が、月宮館長の次に長い。確か7年目に突入したと以前聞いたことがある。
そんな楠田さんでも知らない本が、こんな事態の直後に現れた……。
それに、緑と赤という色の点でも気になりはする。
「……中身は見ていないけれど、こんな本は確かにこの図書館では見たことがないわ。良かったら、あとで見せてあげようかしら?」
そんな俺の心情を読み取ったのか否か、楠田さんがそんな提案をしてきてくれた。
渡りに船だ。ここはお言葉に甘えよう。
「是非お願いします」
「決まりね。それじゃあ、早めに朝食を済ませてしまいましょう」
こうして、俺は楠田さんが見つけたという謎の本を見せてもらうことになった。