ベースがはじめてしゃべったあああああああ!?
俺はまどろみの中から覚醒した。隣からやけに声が聞こえる気がする。夢の中で誰かに呼ばれているのを勘違いしただけかもしれないが、あいにくそういうわけでもないらしい。
耳にあまり聞き覚えのない声が入ってくる。どうも女の声らしいが、今まで聞いてきた数少ない女の声には当てはまらなかった。ほどよく低い声域。俺のライブラリには見当たらない。
とりあえず俺はさわり心地を確認した。滑らかかつ硬質な手触りがそこにあるはずである。
ふに。
俺の予想とはるかに違った。滑らかではある。だが予想以上にそれは柔らかかった。人肌に数倍も質感が近くなっている。いや、もしかしたら俺が寝ぼけているだけかもしれない。
ふに。
やはりふにふにしている。どういうわけだかふにふにしている。
「ん......んんん......」
先程からさわる度にこんな声が聞こえるわけだが、さていかがなものか。俺はこんなに寝ぼける方ではなかったはずである。たしかに朝は弱い方だが、それにしても感覚ができすぎである。まだ夢を見ていると言うのか。
ふに。
「んんんん......んっ」
もしかしたら手がしびれていて、正確な感覚を伝えられていないのかもしれない。そうだ、そのようである。俺は腕を枕にして寝る癖があるから、たぶんそれでこうなったのだろう。
まさか。まさか、な。
ごくり、と。
うっすらと目を開けてみる。俺はさっきからベースと添い寝をしているわけだから、細いネックと赤いヘッドが見えるはずである。
はずだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
俺はそれを確認すると同時に絶叫しつつ布団から飛び出した。
布団はばさりと大きく開き、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
なんとも真っ白な体。たぎるような赤の髪。細身で引き締まったその裸体は、裸体は、裸体は......。
「は、はだか、は、だ、裸アアアアッッッッ!!??」
少し上気した頬。呼吸が乱れ肩が上下している。
ゆっくりと体を起こす彼女。彼女は一切の糸を纏っていなかった。
俺は必死で目を押さえる。いやもうこうするしかないんだってば。だって彼女、まえが、まえが、
「まえがみえちゃうだろおおおおおおっっっっ!!!!」
ゆっくりと体を起こしきると、目の前の裸の少女は息を整え始めた。
「はあ、はあ、もう、さわり方がえっちいんだよ」
「だっ、だっ、だ、だれ、だれだ、誰だお前」
「さっきまで触っておいてその言い方かよ!」
「だれだってきいているんだだれだって!!」
「さすがにあんなに執拗に首許と腹を触られるとは思いもしなかったぞ! このド変態め!」
「どっちがド変態だよ! 人んち勝手に上がり込んで人の布団のなかにしかも素っ裸でいる女の方がよっぽどド変態だろ!!」
「私が素っ裸なのはあったり前だろ、それに勝手に上がり込んだんじゃないお前が連れてきたんだろうが!!」
「そんな覚えはねえ!!」
「お前、私を買っといてさんざんいじくり倒しといてその言い方はないだろう!!」
「はあ!? 意味わかんねえよ」
「この髪の赤に見覚えはねえのかよ!!」
髪? 赤?
どう言うことだ?
「お前、寝るときに私を布団のなかに、その、招いてくれたろ、あれだあれ、その、なんていうかあれだ」
少女は多少落ち着いて言った。
「布団のなかに招いたって......まさか」
「ああそう、まさかじゃなくとも私はベースだよ、お前がこのまえ買った、さっきまで添い寝していた、細くて煙草の染みた赤いベースだよ」
え。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」