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第30話『貴女を待つ』

 周り中がホモ・ラブリンスのメンバーかもしれないと思うと、禄に授業に集中できなかった。特に変なことや襲われそうになったことはなかったけれど、知り合い以外の人間からの視線が気になって仕方なかった。

 放課後。

 単独行動は危険だということで、今日も桃花や亜紀と一緒に学校を後にする。

 バイトのシフトが入っているので、今日はこれからコンビニのバイトに行く予定だ。私と合わせるようにして沙織さんのシフトが組まれているので、予定通りであれば沙織さんとコンビニで会う予定だ。

 沙織さんとはきちんと話したいから、今日は一緒にバイトをしたいけれど、未だに私への罪悪感で姿を現さないかもしれない。

「真央、何があっても私と天野さんが守るからね!」

「あ、ありがとう」

 ホモ・ラブリンスのメンバーがコンビニで待ち伏せしている可能性はあるだろう。でも、何人いても桃花と亜紀がいれば大丈夫そうな気がする。

 バイト先のコンビニが見えてきた。今のところ特におかしいようなところはない。人がたまに出入りするくらいで。

「もしかしたら、中で待ち伏せしているかもしれないよ」

「……その可能性はありそうだ」

 亜紀の言うとおり、店内に潜んでいることはあり得る。複数人いても、私に怪しまれないように一人一人散らばっているかもしれない。うううっ、そんなことを考えると全てのお客様がホモ・ラブリンスのメンバーに見えてしまいそうだ。今日のバイト、まともにできるか不安だ……。

 緊張の中、私は桃花や亜紀と一緒にコンビニに入る。

 店内には数人ほどのお客様がいたけれど、男女共にいて、年代もバラバラそうだからさすがにこの方達全員がホモ・ラブリンスのメンバーという可能性はほぼなさそうだ。

 私だけスタッフの部屋に入ると、そこには店長だけがいた。悩ましい表情をしていたので沙織さんが来ないのかと訊いてみたら、彼女から今日も体調不良でお休みという連絡が来たのだそう。やっぱり、来なかったか。

 そこで、日曜日と同じように、桃花や亜紀を今日限定でバイトの手伝いをさせてはどうだろうか、と提案すると、店長は喜んで了承してくれた。

「って、しまった」

 話の流れで二人を手伝わせるって言っちゃったけれど、二人から承諾を得ていなかった。桃花は日曜日もやったことあるし、きっとOKしてくれると思うけれど、亜紀はどうだろう。

 コンビニの入り口近くで待っていた亜紀にこのことを伝えると、

「別に構わないよ。あたし、高校に入学して、慣れてきたらお小遣い稼ぎでバイトでもしよっかなって思ってたから」

 予想外にも二つ返事でOKしてくれた。亜紀もいずれはバイトしようと思っていたのか。

「よし、じゃあ二人にも制服に着替えてもらおうかな」

 亜紀はやる気があるようだし、桃花は日曜日に一度経験している。この二人とだったら今日のバイトは乗り切れそうだな。

 更衣室に入り、桃花と亜紀が制服に着替える中、私はスマートフォンを取り出して、


『沙織さん。土曜日のことで、沙織さんと話したいです。午後七時過ぎ、私のバイトが終わる時間にコンビニの前で一人で待っていてください。私は待ってます』


 そんなメールを沙織さんに送る。バイトが終わったときに沙織さんが来てくれていることを信じて。

「てっきり、私の写真を撮るかと思った」

「そんなわけあるかっ!」

 そんな犯罪スレスレのようなことをするわけない。桃花は撮られる気満々のようだけれど。

 私も制服に着替えて、さっそく三人でバイトを始める。

 さすがにバイトを二週間ほどしていると、自分の仕事をしながらも、基本的な仕事を亜紀と桃花に教えられるようになってきた。桃花と亜紀の飲み込みの早さに救われている部分もあるけれどね。

 時々、私のことを興味津々そうに見ている女の子がいたけれど、そこは桃花が対応してくれた。ただ帰らせるのではなく、帰る前に何か一つ以上買わせるところが上手い。

 明るく笑顔の可愛い亜紀は難なく店員の仕事をこなしている。本当に私の周りにはポテンシャルの高い同級生ばかりいるな。

 ホモ・ラブリンスのメンバーと思わせる行動をする人がいつつも、亜紀や桃花が一緒にいてくれたおかげで、特に問題は起きずに今日のバイトが終了した。

「バイト楽しかった! あたし、安藤さんに教えてもらってばかりだったのに、こんなにお給料をもらって良かったのかなぁ」

「後半は一人でてきぱき仕事してたじゃないか。幾らもらったのかは知らないけれど、亜紀の仕事に見合うお金なんじゃないかな」

「そっか」

 亜紀は嬉しそうな顔をしていた。亜紀ならコンビニに限らず、色々な場所でバイトをしていけるんじゃないかと思う。たった三時間ほど一緒に働いただけでそう思えてしまうほど、亜紀はしっかりと仕事をこなしていた。

「……私だって頑張ったんだよ」

「もちろん、分かってるよ。桃花も頑張ったね。日曜日に一回バイトしただけあって、今日は凄く頼もしかったよ。私のことも守ってくれたよね。ありがとう」

 亜紀ばかり褒めることが気に食わなかったのか、不機嫌そうに頬を膨らましていた桃花の頭を優しく撫でた。すると、桃花は一瞬のうちに柔らかい笑顔を見せる。まるで私に褒めて貰えるのが一番の報酬のように。

「じゃあ、着替えて帰ろっか」

 今の時刻は午後七時十分過ぎ。

 バイトを始める前に送ったメールに書いたとおり、沙織さんはコンビニの前で私のことを一人で待っていてくれるだろうか。

 期待と不安と緊張の中、私は桃花や亜紀と一緒にコンビニを出る。


「……バイト、お疲れ様。真央ちゃん」


 コンビニを出ると、そこにはワンピース姿の沙織さんが立っていた。そんな彼女は今にも泣き出してしまいそうで。それでも、笑顔を見せて必死に堪えているようであった。

「約束、守ってくれたんですね」

「……真央ちゃんと話したかったから。あんなことをしておいて、真央ちゃんに会うのは不安だったけれど。でも、このまま真央ちゃんと話せない時間が続くのは嫌だと思ったの」

「……そうですか」

 涙を浮かべている今の沙織さんには、私のことがどう見えているんだろう。

 きっと、今の様子をホモ・ラブリンスのメンバーが見ているに違いない。そんな彼等の視線を気にせずに沙織さんと話がしたい。


「私は沙織さんと話せるときをずっと待っていました。私の家に行って、土曜日の事について話しましょう」


 私がそう言うと、沙織さんはこくりと頷いた。

 ホモ・ラブリンスのメンバーに襲われるかもしれないことを考えて、亜紀と桃花を連れて四人で一緒に家へ帰るのであった。

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