第4話 ママンとパパンの出会い
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トール達が目を開いた時、そこは地獄と化していた。
12人パーティ、2組の内13名が上半身を失って地面に突っ伏していたのだ。
あたり一面に血が広がり、手や足を失った者達が転げ回っていた。
まさに地獄絵図だった。
そしてその中心ともいえる場所に奴はいた。
その強大な黒々しい翼を目一杯広げ、波打つような鋼の鱗を身に纏い、
巨人族ですらかみ殺しかねないほど大きな口を開き鋭く尖った牙を見せつけ此方を睨んでいる。
そう、あれは強者の象徴。
そう、あれは竜種一の獰猛な生物。
「・・だ・・・・嘘だ、嘘だ、嘘だ!!なんで、なんでこんな所に黒龍がいる!?」
トールはそう叫びながら後ずさりしていった。
彼が叫ぶのも無理はない。
竜種はただでさえ、強く危険とされており、
火竜ですらBクラスの者が7~12人体制で倒すのがよいと推奨されているくらいだ。
それに白竜などが一匹でも国に迷い込んできたものなら軍隊や騎士団が動くほど強敵である。
それらすら軽く凌駕し、天龍と並び評されるほど伝説上生物。
竜種より格上の存在それが『古竜種』
それがこの黒竜である。
黒竜はトール達の方へ視線を向けとゆっくりと地面を揺らしながら這いよってきた。
その際、足元にいたトールの部下達を踏み潰しながら、である。
その巨体から推測するにおよそ、20メートル。
竜の目を見るだけで硬直して動けなくなってしまう。
これは黒竜のスキルの一つ『威圧』。
自身より弱いものの動きを一時的に止めるものである。
すぐ横にいたカインは竜に見られる前に一目散に逃げ出していた。
片腕が千切れているためか、フラフラしながらだがもう頂上を駆け下りていた。
トールはせめて一人でも助かった事に安堵を覚え、黒竜を睨みつけた。
「さ、さぁ、こいよ!俺様が相手だぁ!」
トールは硬直する体を無理やり動かし、黒竜に切りかかった。
彼はBクラス、並みの火竜なら彼の一撃を受けただけで怯むだろうが、黒竜は桁が違った。
黒竜、討伐任務;Sランク、推定対象ランクは11。
Sランクは国が総出で対処するレベルである。
彼の攻撃はいとも容易く跳ね返され、黒竜によって一飲みされた。
カインが転がるように逃げている中、そんな時あったのがステラだった。
彼女はその光景を見て、息を呑んだ。
目の前にいるのは、黒竜。
伝説上の生物が今彼女の目の前にいる。
ステラは自分の体が震えるの感じた。
恐怖による震えより先に、興奮による震えがステラの中を駆け巡った。
彼女は御伽話や伝説などが大好きな子だった。
ゆえにお話の中でしか出でこない黒竜が目の前にいるという事実が彼女の胸を高鳴らせていた。
腰に差した細身の剣を引き抜くと、黒竜の翼に切りかかった。
彼女は20メートルはあった距離を剣技『瞬歩』で一瞬にして詰めると、
巨大な翼に剣の斬撃決めていった。
彼女はそのほっそりした腕から考えられないような速度と強靭な攻撃に黒竜も思わず、振り返った。
その隙を見逃さず、彼女は再び『瞬歩』を使用し今度は黒竜の目に向かって斬撃を放った。
だが、竜の目に当たる寸前で剣は跳ね返され、ステラは距離を取る。
(今の技は、まさか結界!? 竜種が結界を使えるなんて聞いたこともないわ・・・)
ステラは飛び込んでは見たものの、思った以上の黒竜の強さに焦りを感じていた。
彼女自慢の剣もこの僅かな攻防の中で刃こぼれをし始めていた。
(長期戦になるのはまずいわね、さっさとけりをつけないと・・・)
ステラは黒竜に向かって再度アタックを仕掛けることにした。
左右にジグザグ動きながら相手をかく乱し、隙を窺う。
だが、ステラにとっても相手が悪かった。
黒竜は翼をはためかせ、空へと飛び上がったのだ。
すると横殴りの暴風が発生し、ステラの動きを鈍らせる。
鋭い風が彼女の皮膚を切り裂く、だが彼女は怯むことなく上昇途中の黒竜に詰め寄ると、
剣を両手に持ち替えた。
「我が腕を食らいて かの者を打ち滅ぼす力 我が身与えん。 切り裂け!『無月』!!」
ステラの持つ剣が光り始め、彼女の腕に絡みつき魔力を限界以上に吸い出す、
光によって剣の大きさが10倍に膨らんだそれを黒竜目掛けて振り下ろした。
「ギャァァァアアアア!!!!」
黒竜の結界が砕け飛び、竜の右肩と接触した際、
その強靭な刃にて鱗を縦真一文字に切り裂き内部の肉までも一刀両断した。
ステラは自身が誇る技の中で最高の一撃を放った。
彼女の『無月』は確認されている竜種中で最強の一角と名高い覇竜さえも、一撃で葬る事のできる技だ。
だが、どうだろうか。
目の前の黒竜はダメージは受けているもののその傷は徐徐に回復しつつある。
咆哮をあげながら、今にも飛び掛ってきそうな勢いだ。
(まずいわ、まさかこの技を使っても倒せないなんて・・・・、此処は一時撤退ね。)
ステラが離脱しようとした瞬間、黒竜の周りに黒い炎の球体が数十個展開される。
「はぁ!?第三級魔法エクスプロージョンを一度にあんなに沢山・・・勝てっこないじゃない。」
彼女の声が聞こえたのか、黒竜は喜ぶような甲高い唸り声を上げエクスプロージョンを解き放った。
『瞬歩』を使いかわしながら後退し、時には剣で叩き落す。
だが、黒竜は賢かった。
エクスポロージョンを放ちつつ、結界も展開していたのだ。
自身の体にではなく、この山脈の頂上全体を結界で囲っていたのである。
ステラは追い詰められていた。
結界によって逃げ場を失い、エクスプロージョンのせいでまともに突っ込むこともできない。
彼女の体力は徐徐にだが確実に削られていった。
「ハァ、ハァ・・・・じょ、冗談じゃないわ!こんな所で死ぬわけには行かないのよ!」
ステラは腰に据え付けられていた短剣を引き抜くと、黒竜の顔面目掛けて投擲した。
彼女並々ならぬ腕力と、スキル効果もあってか短剣は凄まじい速度で黒竜の
顔に吸い込まれるように飛んでいった。
だが、到達する前に結界に阻まれる。
「はははは・・・・何よコイツ、でたらめに強いじゃない。」
ステラは諦めかけていた。
自分の全力を持ってしても太刀打ちできない相手なんて彼女は出会ったことがなかったのだから。
初めて敗北を知ったのである。
そして敗北が死を意味する事など今の現状を見れば、火を見るより明らかだ。
「はぁ、せめて理想の男性に会いたかったなぁ・・・・」
彼女の呟きに答えるのは、黒竜の咆哮のみ。
黒龍がステラを丸呑みにしよとした時である。
黒竜の前に金髪イケメンが立ちふさがった。
「おう、おう、ずいぶんと暴れてくれたそうじゃねーか。
美人を嬲り殺そうとするとはいい根性してやがるぜ!」
イケメンは片手を横になぎ払った。
それだけで、黒竜と二人の間には障壁が張られ黒竜はこちら側に来ることが出来なくなった。
彼女曰く、初恋だったと言う。
自分が瀕死の時に目の前に駆けつけた自分より上位の強さを誇る存在。
そして何より、自分が思い描いていた男がそこにいた。
◆◆◆◆◆◆◆
「と、そして私達は結婚し、アーちゃんが誕生したわけよ!」
ママンは熱弁を振るっていたが、要するに無謀な戦いを挑み敗北し、
死に掛けてきた所に駆けつけたパパンに一目ぼれ
後に家族の反対を押し切って結婚したってわけだ。
何ともいえない話だな。
しかもそれを2歳児の子供に聞かせるとはどんな根性してやがる。
生んだ母親の顔が見てみたいものだな!
とりあえず、あの落下事故から1年が経過し、俺は家の中に閉じ込められて生活する事になった。
あまり今までとは変化はなかったが、暇なので歩き回ってきると必ずママンが付いてくる。
そのせいで俺もこの世界の文字を覚えるのに遅れが生じていた。
確かにまだ文字を覚えるのには早すぎるのだろうが、俺の中身は高校生、
いくらなんでも退屈なのでママンに「お話じてー」
と頼むと、目を輝かせてさっきの話をしてくれたのである。
まぁ、初めての子供だし、まだ十代なんだから子供の世話も分からないのかもしれないが、
いくらなんでも子供にこんな生々しい話をしない方がいいと思う。
俺じゃなかったら、泣いてるぜ、きっと。
俺が困ったような顔をしていると、ママンの鼻息が荒くなり俺に抱きついてきた。
不意の事で驚きはしたが、ママンが「可愛いぃぃ!カワイイィィ!」と
連呼していたのできっと俺の表情が可愛かったのだろう。
俺には自分の事を客観的に捕らえる事で出来ないのでよくわからないけどな。
しかし、ママンの話を信じるとしたらやはり二人は元冒険者、
それもAランク以上とかいうチートの力を持った人達と言う事になるのだろう。
通りで仕事してないのに裕福な暮らしをしているわけだ。
さっきの話には出なかったが二人ともそれはすごい大金を抱えていたらしく
家を購入する際に貴族が使っていた屋敷を丸々買い取り今の生活をしているらしい。
因みにメイドさんは週に三日ペース仕事に来て貰っているようだ。
つまり内の両親は本当に最強ってことだ。
さっきの話を聞いていたら俺まで熱くなって来ちまったぜ!
ようし、さっそく修行開始だ!
俺はクッション相手にパンチの練習を開始した。
傍から見れば可愛い子供がクッション相手にじゃれているようにしか見えなかったと思う。
現に、ママンの鼻息は荒くなる一方だった。
読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字等がございましたら教えてください。
これからも、更新していけるように頑張ります!